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テンプレ金髪お嬢さんクロエ・ジュベールとテンプレではないセクハラ有栖川優な日々

***




翌日から通常の授業に近い形でのABC学園の日々が始まった。


まずは基本知識としてのABCの構造、機能などを習い、次に操縦するにあたっての注意事項などを習う。


ABCとは、Attack Blasts Cloakと呼ばれる兵器群の略称だ。


このABCは精神感応システムを用いているのが特徴である。


精神感応、と言えば神秘的に聞こえるが、脳波を読み取り、それを電気信号として脳から直接機器を操作する。


しかしその脳波を読み取るシステムは完成しているのだが、問題は電気信号を脳波として受け取るシステムが未熟なのである。


機体への信号を発信するだけではなく、機体からの反応や情報などを脳で受けることができる。


問題はここで、電気信号を脳波として変換する際には、どうしても個人差が出てしまう。


それ故にABCパイロット適正というものがあり、一定の機体適応数値を示さない人間は、ABCに乗ることはできても、その性能を十分に発揮することはできない。


直接的な戦闘能力は既存の兵器を大きく上回るABCだが、配備数が十分ではなく、未だに各国の軍からはABC関係者が言うところのアンティークが姿を消すことがないのは、そういう事情があってのことだった。


そして将来的にABCパイロットとなるべく集まったのが、このABC学園の生徒たちだった。


なので、クロエ・ジュベールはヘラヘラした態度の優に対して非常に不満に思っていた。


公然とハーレムがどうのこうの言う不埒なやつ。


クロエの優に対しての認識はそういうものだった。


いや、もはや憎悪と言ってもいいくらいには不満に思っていた。


その感情が殺意に近くなっていくにつれ、同室であるリル・ポワティエへの態度も日に日に悪くなっていった。


「ちょっといい加減にしてくれない!?」


邪魔だった、という理由でカバンを蹴られたリルはついに怒った。


あまり積極的な性格ではない彼女であるが、とうとう我慢の限界がきた。


いつもは練習ということでなるべく日本語で会話しているが、今は母国語であるフランス語でクロエに不満をぶちまける。


「あのね、いくらあのユウって男が気に入らないからって私に当り散らすのはやめてよ!」


「はあ?私がやつあたり?そんなわけないじゃない!」


「やつあたりじゃなきゃ、何なの?私個人への嫌がらせ?」


「そ、それは……」


そう言われてしまえば、クロエは言葉に詰まる。


「ユウってのがムカつくなら、直接言えばいいじゃない!どうして私に嫌なことするのよ!」


「……ごめん」


「謝るなら最初からしないで!いつものクロエらしくないじゃん!ムカつくならぶっ飛ばしちゃいなよ!」


「……そうね、その手があったわね!」


クロエはにやりと笑ってみせた。


そして2人でユウ・アリスガワ殲滅作戦を考えるのであった。



***



ABC学園の新学期が始まって一ヶ月にさしかかろうとしていた五月の初旬。


一年生の最初のイベント、オリエンテーションが迫ってきていた。


オリエンテーションの内容は、クラスの全員が積極的に問題解決に向かえるようにということで、様々なミッションを課してそれをクリアさせるというものだった。


そしてこの10日間のオリエンテーションで、生徒たちは初めてABCに触れることになる。


「うーん……」


そして俺は唸っていた。


ハーレム、という最初の理想は儚くも砕け散り、今は皐月とその友達にいいように扱われていた。


いや、これもハーレムの一種と言えなくもないかもしれない。


現に俺は今現在の時点でかなりクラスに溶け込めてきていると思っていた。


それもこれも皐月のおかげかと思うと、彼女に何かお礼をしなければという気持ちになってくる。


だからといってお礼がしたいと言い出しても、彼女はきっと「え、お礼?それって何?もしかしてハーレムの正妻枠に迎えてもいいとか頭沸いたこと言うんじゃないでしょうね」とか言われそうだったので言わない。


いつか何らかの形で、彼女に気付かれないように恩返ししよう。


そういえば、オリエンテーションの班決めの際も、俺がどこの班に入るかということでちょっとした揉め事があった。


最終的に皐月のいる班に決まったのだが、それもハーレムっぽいと言えばハーレムっぽい。


オリエンテーション中に飯盒炊爨があると聞いた瞬間に揉めだしたことと、その際に飛び交っていた言葉が、せっかくの男子なんだし洗物とか料理とか面倒なことをする役目を押し付けるためっぽい内容だったこと。


この2つを俺は記憶から抹消することにした。


気にしたら負けというやつである。


というか料理ってどちらかというと女子のイメージなんだけどなあ、と思ってもそれは差別だとか偏見だとか言われそうだったので黙っておいた。


「しかし問題は別のことなんだよなぁ」


一週間くらい前から、あのクロエとかいうフランス人の目線が気になるのだった。


まるで獲物を狙う狼のような、そんな印象を受けた。


正直言って、こいつ殺人でもしでかすんじゃねーのかと警戒している。


いや、もしかしたら彼女は恋心を抱いているのかもしれない。


言い寄りたい、でも他の女子グループがいるから……。


みたいな展開だといいなあ、とベッドの上で寝返りをうつ。


「まあ、考えても仕方ないか……」


そこまでぼそぼそと独り言を呟いて、俺ははっとした。


いかん、こんなぼそぼそと独り言を言うなんて、まるでアブナイ人じゃないか。


いつだったか見たテレビでやっていた、一人暮らしをしていると独り言が酷くなるという芸能人の話を、そんな馬鹿なと思っていたのだが、これは他人事じゃないと認識せざるをえなかった。


よし、思い立ったら即実行だ。


「だからって何で人の部屋に来てまで漫画読んでるのよ……」


俺は皐月の部屋まで来て、リビングで寝転がって漫画を読んでいた。


メールで今から行く旨を伝えて、そのまま隣の部屋をノックした。


皐月の部屋は103号室だった。


「だから説明したじゃん。独り言が増えるんだってば」


「それがどうしたんだって言ってるんだけど……」


「あの……、麦茶しかないんですけど……よかったら」


皐月のルームメイトの香織さんが、ガラスのコップに麦茶を入れて、だらけながら寝転がる俺のところまで運んできてくれる。


だらしなく寝転がった体勢から、素早く起き上がり正座で麦茶を受け取る。


「ありがとう!ごめんね、気を遣わせちゃって」


香織は首を横に振って、顔を真っ赤にして返事とした。


「麦茶飲んだら帰れよ」


「香織さんはなんていい人なんだ!どこかの俺の幼馴染とは大違いだよ!」


「訂正するわ。もう麦茶も置いて帰れ」


「えー…、つれないなあ。このあと俺の飲み終わったコップを見て、これに口つけたら……間接キス……だよね……とかってドキドキする展開とかしようよ」


「キモイ」


「じゃあ、香織さん、やろうよ!」


香織さんは急に話を振られたので、え!?私!?みたいな顔で俺と皐月の顔を交互に見た。


「あんた本当にそのセクハラ的発言をやめなさいよ。引くわ、マジで」


かなりの頻度で、俺は女子グループでこういう冗談を飛ばして笑いをとっていた。


そうか、引くのか。


そう言われるともっと言いたくなるのは、きっと本能なんだ。


ほら、熊は獲物が逃げると追うからゆっくり距離をとれとかいうじゃん。


そういうアレで、セクハラおやじ的な行動ってやめられないんだと思う。


というか、かわいい女の子に対してそういうことをしないってことは失礼に当たるような気がする。


「うるせー!こんな女に囲まれたセイ活でどう我慢しろっていうんだよ!嫌なら見るな!嫌なら聞くな!」


わざとイントネーションを変えた部分で、皐月はわざとらしくとても嫌そうな顔をした。


「わ……、私は、面白いから、いいかな……って、思うな」


「うわ!聞いた?今の聞きました奥さん!?超いい子!いい子過ぎてなんかごめんなさい。生まれてきてごめんなさい。」


「誰が奥さんじゃ。つか謝るのやめなさいよ、香織が困ってるでしょ!」


皐月より少し背の低い香織さんを守るように、というか私のモノよ!と主張するように、ぎゅうっと抱きしめた。


さ、皐月ちゃん、苦しい、という香織さんのちょっと嬉しそうな反論を皐月は胸で封じ込める。


「あ!いいなー!いいなー!俺も!俺も胸で圧殺してほしい!」


「いいよ。それであんた殺せるなら」


「あー、うん。今日はやめとく。じゃ!」


そう言って、俺は103号室を出て行った。


「……なんだったのあいつ」


「……でも、面白いよね」


「ま、まあ、否定はしないこともないこともないかなぁ」


皐月は、漫画の次の巻を持ってドアを開けた俺を、蹴り飛ばして部屋から排除した。



***


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