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有栖川優入学と、再開幼馴染狭山皐月

俺こと有栖川優は興奮していた。


なぜなら今から入学式なのである。


それも偏差値70を余裕で越える精神感応機器操縦者養成学園。


JABCPS。


通称ABC学園などと呼ばれる、我が国で唯一ABCパイロットを養成する機関。


その入学式である。


ただの学校だと俺はここまで興奮することはなかっただろう。


だが、ABC学園は普通の教育機関ではない。


ABCパイロット適正を有する人間しか入学できず、また、それに伴ってABC関連、つまりABCの整備士やパイロットとして自衛隊や海外の軍関連の就職口がほぼ約束されている。


しかしそんな要素も俺にとっては小さな問題である。


いや、けして小さくはないかもしれない。


将来の不安とかもないわけではないし、最終的に家を買う車を買うとかそういうお金のかかりそうなことを考えると、就職に強いというのは超魅力的な殺し文句である。


だが俺の心はそんなことはどうでもいい!と叫んでいた。


そもそも、ABCという精神感応兵器は、兵器としての矛盾、欠陥を抱えていた。


兵器として重要なことはいくつか存在する。


値段、性能、生産性、そして汎用性。


ABCは高価で高性能な兵器で、そのため単価が高いのだが、そんなことが大した問題ではなくなってしまうほどの欠陥を抱えていた。


精神感応システムを用いているので、ABCパイロット適正というものが存在する。


そのため、ABCパイロット適正のない人間はABC、およびその他の精神感応兵器群を十分な性能で使用することができないのだ。


そしてABCパイロット適正の条件として、大きな前提条件が存在する。


女性であること。


それがABCパイロット適正を持つ条件の一つである。


そして有栖川優は、世にも珍しいABCパイロット適正のある男性である。


「本当に女子ばっかりだ……」


思わず口からそんな言葉がこぼれ出た。


これからの6年間の間は、実家から離れて寮での生活となるのだが、入学式である今日は通常の学校に通うように、電車に乗り、ABC学園行きの専用バスに乗り、このABC学園までやってきた。


海に面したドがつくほどの田舎にポンと建てられたABC学園へのアクセスは、元々あった駅から専用のバスに乗る以外は無い。


いろいろと軍事機密、もしくはそれに近づくものが大量にABC学園にはあるので警備は非常に厳重であった。


車での来校は不可能ではないが、厳重な警備ゲートを通って持ち込み品の検査をされ、非常に面倒な検閲を受ける。


税関以上に徹底的に調査されるため、車やバイクでのアクセスはおすすめされない。


その限られた電車からバスという公共交通機関だが、見事にほとんど女性だった。


男性がいない、ということはなかったが、俺と同じ15歳ほどの男性は一人も発見することはできなかった。


それに事前にニュースで「我が国初の男性ABCパイロットか!?」などと散々騒がれたため、俺のことをちらちら見て、ひそひそ話をするABC学園生徒がほとんどだった。


しかし話題になるということは気持ちがいい。


俺はすっかり有名人気分だった。


たしかに実際に有名人なのだが、まるで芸能人気取りであった。


サインを頼まれたらどうしようとか考えていたのだが、実際にサインを申し込まれることはなかった。


さらに同時に、というかABC学園への入学が決まった瞬間から、これってハーレムじゃねえか!とも思っていた。


周りの友人からはボディーブローを入学祝いにもらった。


あとアイアンクローももらったし、肩にもかなり気合の入ったフックももらい、さらに熱烈な友人からはキャメルクラッチをいただいた。


そんなことをされても、俺はうきうきしていた。


これからどんなToらぶる、いやトラブルが起きるのかと思ってたまらなかった。


入学式中、俺はかなりの視線にさらされていた。


教師、生徒、ついでに用務員のおばちゃんも俺のことを見ていた。


俺は「いやあ、有名人は辛いですなあ」とか暢気に考えていた。


後々考えてみれば、なぜこんなにもウキウキしていたのかわからない。


俺の頭はたぶん茹だっていた。


入学式はつつがなく進行した。


入学式の学園長や生徒会長のありがたいお言葉を拝聴し、流れる生徒の波に身を任せて自分の教室に俺は向かった。


黒板のように見える、巨大なタッチパネルのディスプレイに、各自の座席が書かれていた。


俺はその指示通りに座る。


窓際、その最後尾が第一希望だったのだが、そう簡単に最高の席は与えてはくれないようだった。


俺は六列の席のうち、窓から三列目の前から二番目の席だった。


おかしいな、と俺は思った。


普通なら出席番号順になるはずなので、自分は教室の入り口付近の席になるはずだ。


少なくとも席替えでも無い限り、俺の定位置は入り口付近の席だった。


その疑問に答えてくれる人もいないので、俺は何も言わず素直に席で担任の到着を待つ。


しばらくざわざわしている教室の中、俺はぼーっとかわいい女子を眺めていた。


ハーレムだー!と浮かれてみたはいいものの、どう話しかけていったものかわからない。


女子たちはこちらを見てヒソヒソ話を加速させるばかりだ。


さて、どうしたものか。


俺はだんだんと憂鬱になってきていた。


そんなとき、隣に座ったかわいい女子にふと目がいった。


「「あ」」


二人同時に声を発した。


俺の目線の先にいたのは、中学の同級生の狭山皐月だった。


「久しぶり!元気してた?」


皐月は俺を見るなり、こちらの質問がいらなそうなくらい元気そうな声で話しかける。


検査後、ABC学園に入学が決まった4月以降、俺はまともに中学校には通えず、通信教育を受けていたためほぼ一年ぶりとなる。


一年ぶりの彼女は、あまり変わっていない。


活発そうな雰囲気で、人を射抜くような視線をたまに飛ばす目は鋭く、口元には常に笑みが浮かんでいる。


変わったところといえば、最後にあったときより髪が伸びているところだろうか。


肩くらいまでだった髪は、肩甲骨あたりまで伸びている。


「おう。まあ、取材には飽きたかな……」


その言葉に皐月は笑ったが、これは俺自身の素直な感想だった。


ABCパイロット適正があるとわかった途端、政府の役人が家に来て、様々な書類を置いていった。


政府で重要人として他国から守るといった旨の内容だった。


そのあと、様々なことに巻き込まれたのだが、それは俺にとって思い出したくないことでもあった。


「ま、仲良くやりましょう。せっかくの男子なんだし、有効活用しないとね」


皐月はそう言うと、ねー?と周りの女子の同意を得ようとする。


ヤバイ、これは本格的にハーレムがどうこうとかいう話ではなさそうだ。


皐月との会話から緊張感が解けたのか、それとも頃合いを見計らっていたのか、そこから堰を切ったように女子からの質問攻めにあった。


名前、誕生日、身長に体重。好きな食べ物、飲み物、家族構成。


全部、ABC関係の雑誌に載っていることだったが、クラスメイトたちは生の声として、俺のことを根掘り葉掘り聞いた。


一分前に取材は飽きたと言ったのに、誰も聞いちゃいなかった。


そうこうしているうちに、新聞部を名乗る上級生がクラスに乗り込んできて、一層騒がしくなった。


「ちょっと、うるさいんですけど!」


そのうちに、一人の女子が声を上げた。


大声に驚いて振り返ると、そこには金髪碧眼のちゃんねー、もとい、女性がいた。


うお、外人だ。


さすがABC学園。


こういう留学生とか普通にいるんだ……。


よく見れば外国人、という言い方は失礼らしいが……、こっちの国の人ではなさそうな顔立ちの生徒が半分くらいいる。


まあ、本当は半分くらいもいないのだろう。


おそらく目立つから多く見えるのだ。


その声を荒げた金髪女子は、とびっきりの美人だった。


モデルですって言われたら何の疑いもなく信じると思う。


あ、だけど外人が「モデルです」って言ったらたぶん9割方信じちゃうと思う。


でも彼女は周囲の西欧人より、飛び抜けてかわいいことはわかる。


きらきらと光るような金髪に、きりりとつり上がった冷たい碧眼……はまあ怒っているからつり上がってるんだと思う。


ぷるんとした唇は、たどたどしい日本語ではなく、ちゃんとした日本語を紡ぎだす。


「ABC適正を持った男性が珍しいのはわかりますが、もうちょっと節度をもったらどうなんですか!」


金髪の隣にも似たような異国の顔立ちの女子がいた。


こちらは金髪碧眼ではないが、緑の瞳に赤みがかった髪のこれまた外人。


その子は母国語で金髪を宥めていた。


泣きそうな顔になっているのは、きっと面倒ごとを起こされて泣きたい気分だからだろう。


でも気持ちは金髪のほうを応援してしまう。


はっきりいって、こう、目立つのはあまり好きじゃない。


いや、女子にちやほやされるのは好きだけど、なんかこれは違う。


あと金髪碧眼女子がかわいいからだ。


うん。かわいい子優先。


「あなたも、あまりちやほやされるのを得意に思わないことです!」


と思っていたらこちらに流れ弾が飛んできた。


俺のせいではないだろう。


こいつめ、なんてことを言うんだ。


その口を塞いでやろうか。


俺の口で……ぐへへ。


その唇を……口を塞ごうと動こうとしたら、ちょうど担任となる教師が入室した。


金髪はそれでタイミングを逃したのか、教師が来たのでみんなおとなしくなったから満足したのか。


どちらかはわからなかったが、不満げに席にどっかりと座るところを見るに、おそらく前者だろう。


くそ、キス……じゃない、口を塞ぐ……は結果的に遂行されたから、ええと、懲らしめることができなくて、俺は不満だった。


そう、けして喧嘩を売るとか、おちょくるとかいう名目でキスできなかったから不機嫌というわけではない。


そのあと担任の出席確認で、金髪がクロエ、赤髪がリルという名前でフランス人だということがわかった。


今日は初日ということで、これから生活するための施設、寮についての説明でかなりの時間が割かれた。


寮のルールが載った冊子を見ながら担任が説明していく。


結局、俺が覚えられたのは「母国では酒を飲める年齢だろうが、寮では寮のルールに従ってもらう。破れば海に沈めてやる」ということだけだった。


だが、法律では飲酒をした場合、コンクリート詰めにされて海に沈んだりはしないだろう。


さすがに冗談の脅しだろうが、これだけ軍事機密のオンパレードの中にいると、もしかすると本当に懲罰用の特殊部隊がいて……とか考えてしまう。


そして罰と称して口からアルコールを吸い出すためにマウス・トゥ・マウス……。


いかんいかん。


さっきのでいろいろと調子が狂った。


なんもかんもクロエって金髪のやつのせいだ。


なんて酷いやつなんだ。


ここは俺が懲罰部隊としてマウス・トゥ・マウスで……。


そういうアホなことを考えていたら、あっという間に時間は過ぎていき、担任が寮のゴミ捨てのルールを話しているときにチャイムがなった。


今日は初日ということで半ドン、つまり昼で授業は終わりだった。


俺は初志貫徹という言葉が存在しながら、2日目以降も半ドンにならないのはおかしいと思った。


「あんたは何のためにABC学園に来たわけ?」


帰る準備をしながら、そんな現実味のない話をすると、皐月が怪訝な顔をした。


俺にとっては勉強しにきたわけでも、ABCに乗って戦いたかったわけでもないのだが……。


「うーん。最初はハーレムやったぜ!みたいな感じだったけど、今は何か違うなあって思ってる」


「……最低ね」


それだけ言うと、皐月は他の女子グループとすたすたと行ってしまった。


そしてちらちらと盗み見る視線と、女子お得意のヒソヒソ話が始まる。


俺は結構憂鬱になっていた。


というか、いろいろと発言とかが問題なのではないだろうか。


うーん。


だが、いつまでも落ち込んでいられないので、寮の自分の部屋に向かうことにする。


寮は学校の敷地内にあった。


寮と言われなければ団地かと思う、コンクリートでできた無機質な建物がそれだった。


団地といえばそこには男子中学生……、今は男子高校生、の夢、というか妄想の一つ、団地妻が瞬く間に連想された。


俺は熟女趣味は持たないが、どちらかというと年上が好みだった。


妹がいると年上好きに、姉がいると年下好きになる、というのは中学のとき同級生で一人っ子だった坂田くんの弁だった。


じゃあ一人っ子はどうなんだという質問には、同い年を好きになるとかのたまった坂田くんの目線は、当時クラスのアイドルだった谷本さんのほうを見ていた。


あの、なんの捻りもなくアホの坂田というあだ名をほしいままにしていた彼は今頃どうしているんだろう、とふと思いを馳せた。


その思い出す人物が坂田くんというのはいささか不満だったが、この異性に囲まれてかなり話しかけづらい雰囲気に飲まれていた俺にとって、ちょっと目頭が熱くなるような気もしないこともなかった。


さて団地妻は学生寮であるため、まったく存在する余地がないのだが、俺は団地のような無機質なコンクリートの寮を眺めながら歩いた。


四階建てにすることでエレベーターの設置を省いたのだろう。


きっちり四階建てのコンクリートの寮がずらっと並んでいる様子は、まるで工場にも見える。


俺の部屋は17号寮の一階、102号室だった。


校舎からは一番遠い寮だ。


寮に行く前に、校舎の中にあるスーパーマーケットでお菓子や缶詰を買っていた。


その荷物を置いて、冷蔵庫などの家電を確認しておいてから、もう一度買いに来ようと計画した。


ちなみにスーパーの中でも好奇の目線とヒソヒソは付いて回った。


レジのパートのおばちゃんなんかは直接話しかけてきたので、幾分かはマシだった。


寮に向かいながら不満に思ったことがあった。


ABC学園の敷地は広すぎるということだ。


確実に自転車か原付が必要だ。


歩いていく分には少し距離があり過ぎる。


まあABCという兵器を扱うので、そりゃ敷地面積は広いほうがいい。


たしかに広くて悪いことはないだろう。


今度の休日に自転車を買おう、と決意をした。


荷物を持って寮まで移動していると、何やら荷物を積んだトラックがかなりの頻度で行き来する。


というか、ABC学園はとても広いので、ほとんど町中と変わらない印象だ。


唯一普通の町と異なるのは、信号機が存在しないことと、何が目的で存在しているのかわからない建物が立ち並んでいることだろうか。


目に映るもの全て初めて見るものばかりだったので、最初は気になった距離も、気付けばもう寮まであと少しまで来ていた。


しかし、これにも慣れれば飽きてくるのだろう。やはり自転車を買おうと決意した。


102号室はかなり広かった。


元々ABC学園の寮は2人でルームシェアすることを前提として作られていた。


しかし俺は男性なので、必然的に1人で住むことになる。


俺は少し、いや結構、というかかなり「部屋が足りなくて仕方なくクラスの女子とルームシェア」という展開を期待していたのだが、別に急に入学が決まったわけでもないので、まったくそんなことはなかった。


俺は少し悲しかった。


もしかしたら、という希望を抱いてバスルームを見るが、電気もついてなければ水音も聞こえなかった。


部屋は1LDKで、奥に寝室用の部屋があった。


俺の部屋である102号室も、元々のルームシェア用の部屋であるため、ベッドはきっちり2つあった。


その2つのベッドという存在が、俺の心の中に一筋の光を灯した。


ワンチャンあるで!


尖った靴、ワックスで立たせて尖らせた髪、そして黒縁の伊達眼鏡、ベスト、ワイシャツ、おしゃれネクタイ、サルエルパンツを装備した、どうみても大学生風な小人が心の中に現れて叫んだ。


まずベッドの下を確認した。


そこは普通であれば男子中学、……いやいや未だに中学生気分が拭えない……男子高校生の素敵フィールドになるべくして生まれたような場所である。


しかしそこにはがらんどうのような空間ではなく、ちゃんとした引き出し付きの収納スペースがあった。


ふっ、わかっちゃいねーな。


俺は鼻で笑った。


世話焼きの幼馴染とかが遊びに来て、汚い部屋を掃除するときにステキ本を見つけたときの、そういう恥じらい、嫌悪感、そして「あいつ……、こんなのが好き……なんだ……」とか言って、そこに写るモデルと自分の胸囲を比べてしょんぼりとする。


そこから揉むと大きくなるという情報を連想することは、彼女にとって当たり前のことだった。


大きく……なるかな……。


そんな想いと、彼に対する恋慕の情が合わさったなら、大きくするために行っていたマッサージは、自分を慰めるためのマッサージへと移行するのは時間の問題だった。


そしてそこに彼が戻ってくる。


あっ、と顔を合わせる2人。


そして彼女は恥ずかしさに背中を押され、部屋を駆け出そうとする。


彼は彼女の腕を取ってそれを止める。


離して!


ちょっと待てよ!


もうわけわかんない!


俺だってわけわかんねーよ!


そうして2人が腕による綱引き大会を開催し、見事男組の勝利、2人は慣性の法則に従って倒れる。


あ、ごめん……、みたいな空気が流れるものの、2人の距離は近く、ちょっと首を伸ばせば唇同士が触れ合うような距離。


時計の針の音だけが大きく聞こえ、2人の息遣いはお互いの本能を刺激する……。


そして彼女は目をそっと瞑る。


その流れに流されるまま、男は彼女に——


「よっしゃああ!!!」


「うるっせー!」


くぐもった聞き覚えのある声と共に隣の壁がドン!と大きく叩かれる。


いわゆる壁ドンというやつか。


ふっ、俺のリア充的な展開に誰かが悔しがって……。


そこまで考えて、俺はこれまでが妄想だと思い出した。


……自分が酷く気持ちの悪い状態だったことに考えが至り、かなり自己嫌悪に陥りそうになる。


大丈夫、自分を愛せなくて誰が愛するというのか!


……ん?というかさっきの声は皐月ではないか。


「ああ、なんだ。やっぱり皐月か」


「なんだ、じゃない。あんたうるさいのよ。何をどうすれば1人でそこまでうるさくなるの?」


ベランダに出て、その柵越しに皐月と話す。


ここは一階なのですぐそこがアスファルトの地面である。


よし、暇なときは皐月のところに遊びに行こう。


「そっちの子は?」


皐月の質問は無視して尋ねる。


ルームメイトになったのだろう、内気そうな雰囲気のメガネ女子が、リビングのほうからこちらの様子をうかがっていた。


「この子は畠山香織。こっちのアホは有栖川優」


「アホってお前……。どーも。テレビの向こうからやってきました」


俺は香織さんに向けて手をひらひらと振る。


しかし香織はぽかんと口を開けて、ついでに目をこれでもかというくらいに開く。


「……どしたの、彼女は」


「そういや、あんたって有名人だったんだよね。普通に忘れてたわ」


「あ、あ、あの!……わ、わた、私、……畠山香織……です」


どんどん尻すぼみになっていった。


皐月と正反対の位置にいるような性格なのだろうか。


まあ、皐月は明るいやつだし、大丈夫だろう。


なんとかやるさ。


というかそんな心配をしている場合ではない。


そもそも自分がぼっちになりそうなのだ。


これほど女になりたいと思ったことは、中学のときの林間学校で女子の部屋にいこう、という話が出て実行されたオペレーション・アンブレラ以来だった。


……あのころは若かった、と若干15歳にして遠い目をしてしまう。


というか3年生として過ごしたことがないので、結局修学旅行には行っていない。


どういう修学旅行だったのだろう。


「ああ、修学旅行ね。アホの坂田が用意周到に登山用のロープを持ってきてたらしくてさー」


香織さんを交えて、修学旅行のときに行われたオペレーション・つるべ落としを皐月が面白おかしく語ってくれた。



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