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夢の終わり  作者: 飛燕
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第五話:さよなら

「残らせてごめんね」

「ううん、今日は何も用事なかったから」

 夕日に染まる放課後の教室でボクと対面している真帆。

 既に下校時刻からかなり時間が経っている為、教室にはボク達以外の人影はなく、シンと静まり返っている。

「そっか。真帆に伝えなくちゃならない事があってさ……」

「うん、何?」

 いつもの様に笑顔で優しく促す真帆。昨日までならそのお陰で快く会話が出来た。

 しかし今回に限っては彼女の意に反して、ボクの言葉を抑制している。

「――れよう」

「え?」

「ボクと別れてほしいんだ」

「え? 何? ……あ、またいつもの冗談?」

 ボクの言葉に困惑している真帆だったが、数秒後には一転して笑顔に変わる。

 いつもの屈折のない笑顔がここにある。

 そして、それを今から壊そうとしているボクがいる。

「違う」

「もう、今日は騙されないからね? それにその冗談ちょっと酷いよ?」

 真帆との数え切れない思い出の数々が走馬灯の様に頭を過ぎる。

「冗談じゃないよ。他に好きな人が出来たんだ」

「しつこいよ? そんなことより早く――」

「真面目に聞け!!」

「っ!?」

 自分でも驚くほどの大きな声で真帆が萎縮する。

 その驚き方に一瞬決意が揺らいだが、大きく息を吸い込みなんとか言葉を続ける。

「……ごめん。でも別れて欲しいのは本当なんだ」

「……」

 何とか笑顔を作ろうとする真帆。

 しかしそれは失敗に終わり、少し引きつった泣き顔になっていた。

 それは見ているボクも辛くなる程痛々しい表情だ。

「ど、どうして? 昨日までは――」

「真帆」

 ボクの呼び掛けに今までの不安な表情を崩し、若干だが安堵を見せる。

 恐らく『冗談だよ』と言うのを待っているんだろうけど……。

 これから言う事は真帆が聞きたくないのは勿論、ボク自身も言いたくない事だ。

 一度目を閉じ気持ちを落ち着かせ、もう一度真帆の目を見る。

「もともとボク達は――付き合ってなんていなかった」

「え? どういう……意味?」

「そのままの意味だよ」

「何言ってるの? 全然……意味が分からないよ?」

 先程よりもさらに悲愴な面持ちに変わる。

 その表情とボク自身の言葉でズキズキと胸が痛む。

 しかし、続けなくてはならない。

「――じゃあ聞くけど、どっちが告白して付き合いだしたか覚えてる?」

「っ! それは……」

 その問いに真帆が答えられるはずがなかった。

 何故ならボクと真帆はどちらからも告白してないからだ。

 もともと仲が良かったせいか、周りの人からは雰囲気だけで『恋人同士』と思われ続け、どちらも否定しないまま過ごしてきた。

 実際真帆の事は恋愛対象としても好きだった。

 それに悪い気もしなかったから、ボク自身も真帆のことを彼女だと思い込んでいた。

「……。『別れよう』って言うのもおかしいね。もとから恋人同士じゃなかったんだし」

「で、でも今までは――」

「ボクにとってのサナ、真帆にとっての大地みたいな人と大して変わらないよ」

 思考とは裏腹に、今までの真帆と過ごしてきた日々を壊していくボク。

 もう引き返せない――

「ウソ」

「……」

「ウソ……だよね? 冗談だよね?」

 ボクだってウソだって謝りたい。

 冗談だって笑いたい。

 だけど――

「ウソでも冗談でもないよ」

 既に真帆の両目からは涙が溢れ出ていた。

 昨日までのボクならその涙を拭ってやる事が出来たが、今となっては出来るはずもなく、悲しみに暮れる真帆を見る事しか出来なかった。

「じゃあ、ボク帰るよ。もう真帆とは会わない。……さよなら」

「北斗……」

 ボクの名前を呼び泣き崩れる真帆を背中に感じ、ズキズキする胸を押さえ教室を出る。


 これでよかったんだ。

 これで――





「ちょっとは我慢しなよ」

「……」

 たぶん涙でくしゃくしゃになっているボクを、突き当たりの廊下で待ち構えていたのはサナだった。

 その表情はどこか草臥れている。

「やっぱり未練があるんでしょ?」

「当たり前だよ。ボクは今でも真帆が……大好きなんだ」

「はぁ、じゃあ彼女役やめようか?」

 既にサナには予知夢の事を話してある。

 ……読まれたともいうけど。

 とにかく辻褄を合わせるために、サナには真帆と別れた後の彼女役を頼んである。

 ――夢とのリンクを深める、という意味でも仕方がない選択だった。

「いや、頼むよサナ」

「あ〜もう! そんな捨て犬みたいな目で見ないでよ。ちゃんと演技してあげるから」

「ありがとう。あ、お礼に今度何か買ってあげるよ」

「形見になっちゃうね」

「うぐっ」

 なんか凄いテンション下がる。そうだ、十一日にボクは死ぬんだった。

 先の事なんて考えるだけ無駄か……。

「いちいち落ち込まない。ほらっ、一緒に帰ろう」

「ん、わかった」

 本当の恋人の様に腕を絡めてくるサナ。


 ――まるで昨日までの真帆の様に――


「で、いつ死ぬんだっけ?」

「……もうちょっとオブラートに包んで発言してよ。今何かが心臓を貫いた」

「あ、ごめんごめん。で、いつ?」

「百年後」

 というのはウソで六月十一日。こう思ったら分かるのかな?

「ああ、十一日か。あと三日くらいだね?」

「せ〜かい。ねえ、死ぬ前にボクの心を読む絡繰りを教えてくれない?」

「死んだら墓前で教えてあげるよ〜ん」

「……はは、楽しみにしてるよ」

 死んだ後の楽しみが一つ出来た……と考えるのがいいのかな。

 どうせあと三日でボクは死ぬんだ。

 残り少ない時間をどう過ごそうと大した問題じゃない。


 真帆との関係を絶つ以外は――

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