第四話:夢
――ボクは昔から夢をみる。ただの夢じゃなくて、未来を映す『予知夢』と呼ばれるものをだ。
他の予知夢をみる人はどうかしらないけど、ボクの場合は二つの夢を断片的にみる。
しかもその二つの夢の内、一方は必ず実現するという、面白いを通り越して厄介なものだったりする。
――ボクを包んでいた暗闇が一変して色付く。
あ……真帆だ。幸せそうに笑う真帆と話しているのは……ボク?
次は……二人でカレンダーに印を付けている。そういえば見たい映画があるって言ってたっけ。
日付は六月十一日、今度の土曜日か。
――え? 真帆? 次の場面ではどこかの道路で真帆が倒れている。
その頭からは夥しい量の出血、真帆のすぐ傍では泣き叫ぶボクの姿が見える。
素人目に見ても、真帆の容体は転んじゃったとかそんな生易しいものじゃない。
まさか……。ボクと映画を見に行く途中? 何かの間違いじゃないのか?
そんな思考を他所に再び暗闇に包まれる。
これが一つ目の未来? 真帆が死ぬ?
――あ……。結論が出ないまま次の夢が始まる。
今度は薄暗い教室で向き合っているボクと真帆。ボクの表情は読み取れないけど、真帆は何故か泣いている。
次は……ボクとサナが楽しそうに屋上で弁当を食べている。
真帆と何かあったのに何で楽しそうにしているんだ?
三度暗闇に包まれ、これで終わりかと思いきや、よく見ると暗闇の中でボクが横たわっていた。
先程の真帆と同じ様に頭からは大量の出血。また……死んでいる?
その傍らには何かを悟っていたかの様なサナの姿。
そこで今度こそ完全に夢が途絶えた。
「っ!」
必死の思いで目を開けると、息のかかる距離で真帆が小さく寝息を立てていた。
その安らかな寝顔でここが現実世界であると認識させられる。
「ん……あ、北斗。おはよ」
「う、うん。おはよ」
確かにいつもの丘に来て、いつもの様に昼寝をして――
「どうしたの? 顔色悪いよ?」
「……」
予知夢を見た特有の疲労感。間違いない、さっきの夢はいつもの予知夢だ。
「北斗?」
「ごめん、ちょっと用事思い出したから帰るよ」
「え、あ、うん。じゃあ私も」
「あ、ちょっと急ぐんだ」
慌ててカバンを持ち立ち上がろうとする真帆を手で制し、努めていつもの苦笑をつくる。
「そう? わかった、気を付けてね」
「ん、真帆も気を付けてね。じゃあ、またね……」
――整理してみよう。
一つ目の夢では、ボクと真帆が今まで通り一緒にいた。
六月十一日に映画を見に行く約束をして、恐らくその日に真帆が事故か何かで死に至る。
今までの予知夢を振り返ってみても、未来との繋がりがない場面は見えなかったから、その可能性はかなり高い。
そして、二つ目の夢は真帆が泣いているところから始まった。恐らく放課後の学校で……。
次の場面では、一変してボクとサナが屋上で弁当を食べていた。
しかも真帆がそのままサナに入れ替わった様に楽しそうだった。
最後はボクが真帆と同じ様に死んでいた。
……ボクと真帆、ボクとサナがそれぞれ一緒にいる事によって起こる未来だ。
つまり、このまま真帆と一緒に過ごすか、サナと過ごすかで未来が決まる。
ということは、二つ目の夢で真帆が泣いていたのは、ボクが別れを告げた事が原因?
そして表面上かもしれないけど、サナと付き合う形になった?
それなら夢の流れは筋が通る。
このどちらかを選ばない場合はランダムでどちらかが現実のものとなる。
これは今までの経験上間違いない。
真帆が死ぬかボクが死ぬ、そのどちらかの未来を選択、か。
…………
………
……。
ははっ、何悩んでるんだろ。答えなんて考える前から決まってるのに。
ボクの代わりに真帆に死んでもらうなんて馬鹿げている。
だからボクは――




