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夢の終わり  作者: 飛燕
2/12

第一話:平穏な日常

「――と。――くと」

「……」

 深い闇に支配されている視界。ふわふわと心地いい――ここはどこだろう? さっきから揺れてるのは地震?

 ……いや、それよりもっと人工的な何か――

「――北斗!!」

「っ!?」

 次の瞬間、突然の大声で一気に世界が変わる。色づいた世界の眩しさにたじろぎ、見上げたそこには真帆の顔があった。

「おはよ」

「ん、おはよう真帆」

 そう言いながら、改めて真帆の顔を見る。小さく整った鼻、潤った薄い唇、透き通るような白い肌。そして何より印象に残るのは、大きな目の中にある澄んだ漆黒の瞳。

 初対面の人ならまずその瞳に見入ってしまうだろう。昔から見慣れているボクでさえ、対話時は知らず知らずのうちにその瞳に惹かれている。それらを総じて学年でも『美少女』として結構知名度は高いらしい。

 我ながら何故こんな子が自分の彼女であるのかが謎だ。

「どうしたの? 人の顔ジーッと見たりして?」

「ん、何でもない。真帆の方こそどうしたの? 何かあった?」

「何かあったって……。北斗、もう昼休みだよ?」

「え? ウソ?」

「ホント」

 辺りを見回すといつもの光景――見慣れた教室――が広がっていた。

 クラスメイトは各々の昼食を取り、中には机をいくつも繋げてグループで食べている者もいる。

 時計に目をやると確かに正午を過ぎている。

 そういえば小腹が空いてるな……。

「それにしても北斗ってホントによく眠るね?」

「ん、昇校の眠り姫と呼ばれてるから」

「眠り姫? じゃあ今度から口付けで起こしたほうがいいかな?」

「出来るの?」

 そう言って真帆の瞳を見つめると、真帆も視線を返してくる。

 しかし、それは長くは続かず次第に真帆の視線が泳ぎだし、顔も面白いくらいに紅潮していく。

 そして搾り出すように一言。

「……出来ません」

 限界まで真っ赤になった頬を両手で覆う。

 普段は凛とした雰囲気さえ醸し出しているが、この手の話になるとこうなってしまう。

 いつも何を想像してるんだろう?

「照れるなら最初から言わないでよ」

「うん……」

「――瀧本北斗たきもと ほくと十七歳、昇華高校二年生、帰宅部、趣味昼寝」

「ん?」

水野真帆みずの まほ十六歳、同じく昇華高校二年、吹奏楽部所属、趣味映画鑑賞」

 背後から聞こえてくる、色々な意味を込めた説明のような口調。

 こんな変な登場をするヤツは、ボクの知る限り一人しか居ない。

「片やお茶目な居眠り魔、片や容姿端麗、頭脳明晰、優しく思いやりがあり、性格も完璧な才女。

 何でこんな二人がね〜?」

「何か?」

「何か? じゃないだろ。昼間から何やってんだ、このバカップルは」

「別に何も……」

 いつも突然背後から現われるこの男は、芥川大地あくたがわ だいち

 大地は運動部に所属しているわけでもないのに、何故かアスリートのような身体つきをしている。

 背丈も高く、男らしい――かと思いきや、かなり童顔だったりする。

 本人はそれをかなり気にしている様だったが、身体も顔も厳つかったりしたら、恐らくボクとは縁がなかったと思う。

 そんな大地とは中学校からの友人で今や親友と呼べる関係にまで発展していた。

 ちょっと口調は悪いが、何だかんだ言ってボクと真帆の事を応援(?)してくれている――

「お前ら二人はこれからの季節、教室をサウナに変える。頼むから余所でやってくれ」

 ――ハズだ。

「大丈夫、すぐに連れていくから」

 いつもの様に大地の茶化しに対処する真帆。

 以前は本気で「ひどい……」とか泣きそうになってたのに。

 真帆も強くなったものだ。

「ほら北斗。ボーッとしてないで早く屋上に行こう?」

「ん、手を貸して」

「もう〜しょうがないな。よいしょっ――っあ!?」

「!?」

 要望通り手を貸してくれた真帆だったが、細身の彼女に男の体重は支え切れず、真正面にいたボクに覆いかぶさる形になる。

 そして、ほのかに朱に染まった端整な顔が息の掛かる位置に……。

「ご、ごめんね」

「い、いや、いいよ」

「かぁ〜!! 去り際まで見せ付けてくれるぜ! 暑い暑い。お〜い、誰か冷房いれてくれ」

 とりあえず騒ぐ大地とクスクスと笑うクラスの十数名は放置して、屋上に向かうことにした。

 真帆は当然だが、今回はボクも恥ずかしい。すっかり茹で上がった温かい真帆の手を引く。

 そんな状況でもボクと真帆の口元は自然と緩んでいた。


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