エピローグ:夢の終わり
晴れ渡る青空の下、駅前のベンチで一人の少女が腰掛けている。
チラチラと腕時計を見ては溜め息をつき、幸せそうに目を閉じる。
もうかれこれ一時間近くそれを繰り返していた。
「お、水野?」
「え?」
不意に前方から長身の少年に声をかけられ、少し驚いた様に顔を上げる。
「あ、本当だ。やっほー真帆」
「サナちゃんに大地君。こんにちわ。二人でデート?」
二人の姿を見ると、途端に花が咲いた様な笑顔を浮かべ、立ち上がる。
「ば〜か、違うよ。ちょっと買い物に付き合ってるだけだ」
その万人を幸せにする様な笑顔を前にしても動じる事なく、気だるそうな声を上げ、やれやれと首を振る大地。
「え? ひどい、デートじゃなかったの? 私楽しみにしてたのに……」
「ええっ!?」
今にも泣きだしそうな沙苗の表情を見ると、一瞬で動揺を露わにする。
大地に自覚はないだろうが、その姿は微笑ましい。
「な〜んてね。うっそぴょ〜んっ」
「……おいおい、あんまり驚かすなよ。オレはピュアなんだ」
そんな二人を優しく見守る真帆。
その視線に気付いた大地が、コホンと小さく咳をして真帆に向き直る。
「水野は誰かを待ってるのか? ――っと愚問だったか」
「こんな所にいるって事は――」
二人揃って含みのある笑みを真帆に送る。
それに耐えかねたのか、一気に頬を赤らめ小さく声を絞り出す。
「……う、うん。二人の想像通りだと思う」
真帆の予想通りの反応に満足したのか、突然大地がクルリと踵を返す。
「あ〜あ〜、相変わらず妬けるな〜。和泉、邪魔者は退散だ」
「りょうか〜い。じゃあね、真帆」
「うん、またね」
遠ざかる二人の背中を見送り、再び時計を見る真帆。
時計は先程から五分も進んでいない。
小さく溜め息をつき青空を見上げ、ゆっくりと流れる小さな雲をただ眺める。
しばらくそうしていたが、痛めた様に首に手を当て、顔を下げた。
すると、こちらに向かっている少年と目が合い、小さく声を漏らす。
その少年は声の変わりに笑顔を返し、小走りで真帆の下へ駆け寄る。
「ふぅ、ごめん。待たせちゃった?」
「ううん、私がちょっと早く着ちゃっただけだから」
「そっか。……あ、さっき何か首を押さえてなかった?」
その質問に、う、と言葉を詰まらせ、先程の様に頬を紅潮させていく。
それを見て何を思ったのか、小さく笑い軽く背中を叩く。
「ま、いっか。じゃあ、行こう」
「うん」
幸せそうな笑みで少年の腕に腕を絡ませる。
対する少年は特に反応する事なく、優しい笑顔のまま右腕を預けている。
人々が行き交う駅前の道を歩いていたが、ふと思い立った様に少年を見上げる。
「あのね、北斗――」
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
この場に相応しいか分かりませんが、この話について少し余談を……。
まず、この『夢の終わり』を書くきっかけは『バッドエンドを書きたい』という思いつきからでした。
しかし、最終話を書いた時点で執筆を止めてみると、個人的に後味がよくなくて……。
悩んだ末、付け足す形でエピローグを書きましたが、結果どうなったか……。
結局個人的な判断で終わらせてしまいましたので、感想、アドバイス等がありましたら、是非とも聞かせてください。
長くなりましたが、完結出来たのも読者の方々のおかげだと思っています。
重複しますが、本当にありがとうございました。
どうぞ、これからもよろしくお願いします。




