第九話:告白
――オレはお前を信じている――
――ビシッと決めておいで――
二人の言葉が頭を過ぎる。
ボクは一人じゃなかった。
こんなにも頼りになる友達がいた。
一人で抱え込む必要なんてなかったんだ。
――登り慣れた階段を越え、広場を全力で駆け抜ける。
その先のベンチには――
「真帆……」
いた……。いつも二人が座っていたベンチに、真帆は静かに座っていた。
「……北斗?」
いつもの様に笑顔を向けてはくれず、背中を向けたまま、消え入りそうな声だけが返ってくる。
「そうだよ」
出来る限り気持ちを落ち着かせ、穏やかな声で応えるが、それでも真帆は動かない。
「真帆?」
「……どうしたの? サナちゃんは?」
最初に聞いた声よりは、いくらか大きくなった声に少し安堵する。
しかし、瞬きをしている間に消えてしまいそうな儚さは変わらない。
息を飲み込み、消えてしまわない様に真帆の背中を見据え、声を絞り出す。
「今から全部話すよ。聞いてくれる?」
「……うん」
依然背中を向けたままの、真帆の弱々しい声が耳に届く。
真帆をこれほどまでに傷つけたのはボクだ。
理由はどうあれ、ここまでしてしまった責任を取りたい。
そして、何より真帆の笑顔を取り戻したい。
――大きく深呼吸をし、真帆に語りかける。
「ボクは――」
それからボクは全てを話した。
未来の映像の事、真帆か自分が死ぬのを知った事、別れれば真帆が助かる事、サナに恋人役を頼んだ理由、サナの気持ち――
そして、そのサナが笑顔で背中を押してくれた事――
その全てを嘘偽りなく伝えた。
その間も真帆は微動だにせず、じっとこちらに耳を傾けているだけだった。
「今のが全部……」
「……」
「真帆が死ぬ夢を見た時……どうしたらいいか分からなかった。
ただ真帆を死なせたくないとだけ、強く願ったんだ。
でも、ボクが間違ってた……臆病だったんだ。……本当にごめん」
全てを話し、謝罪の言葉を口にすると、途端に全身の力が抜け、膝から崩れ落ちる。
真帆の姿は見えなくなるが、気配だけを頼りにその存在を感じている。
「……北斗」
その言葉の直後、真帆の気配が近づいてくるのが分かる。
同時に心臓が張り裂けそうな程の緊張がボクを襲う。
「――私は北斗の事、ずっと信じてたよ」
突然視界が暗くなり、温かく優しい感触に包まれる。
一瞬何が起きたか分からなかったが、懐かしい感覚で全てを悟った。
「……真帆……ごめん」
「ううん、話してくれてありがとう」
『ありがとう』という言葉を聞くと、何故か急速に胸が熱くなり無意識に口が動く。
「ボクは……まだ死にたくない――」
そして、その言葉を口にした途端、涙が溢れだした。
いくら我慢しようとしても、頬を伝うそれは一向に止まる気配はない。
――そのまま真帆に抱かれ泣き続けた。
その間も真帆は何も言わず、ただ優しく抱いてくれていた。
ようやく涙が止まったのは、夕方も過ぎ、すっかり日が暮れてからだった。
「うわ、ごめん……服が」
思いっきり泣いたせいで、真帆の制服はびしょ濡れになっている。
薄手のシャツがちょっと透けて……。
……ごめんなさい。
「気にしなくていいよ。代わりに『明後日』いっぱい付き合ってもらうから」
「真帆……」
明後日……。明日を越えなければ明後日はこない。
明日の死を乗り越えられなければ――
「ほら、そんな顔しないで。笑顔笑顔」
ニコッと笑ってみせ、ボクに手を差し伸べる。
その笑顔に内心ドキッとしながらも何とか笑顔を返し、その手を握ろうと手を伸ばす。
――しかし、ボクの手は真帆の手に触れる事なく、空を切った――




