プロローグ:突然の別離
非現実的要素を含んでいるため、ジャンルはSFになっていますが、基本は恋愛です。
あまり、SFさは期待しないで読んでください。
「別れよう」
夕暮れに染まる蒸し暑い教室の中にボクはいた。向かい側には見慣れた少女の姿。整えられた机と椅子、磨かれた黒板、綺麗に拭かれた床。
数時間前まで生徒で賑わっていた教室とは別世界の様な、静かな空間にボクの声が響いた。
「え?」
「ボクと別れてほしい」
「な、何言ってるの?」
ボクの言葉に困惑している少女だったが、数秒後には一転して笑顔に変わる。いつもの屈託のない笑顔。
――それを今から壊そうとしているボクがいる。
「あ、分かった。またいつもの冗談でしょ? もう、今日は騙されないからね?
それにその冗談ちょっと酷いよ?」
目の前の少女の頬が膨れる。整った顔立ちで普段は実年齢より上に見えるが、今はその仕草のせいでいくつか幼くみえる。
「冗談じゃないよ。他に好きな人が出来たんだ」
「ねえ、しつこいよ? そんなことより早く――」
「真面目に聞け!」
「――っ!?」
ビクッと少女の身体が跳ねる。二人の言葉が途切れ、再び静寂に包まれる放課後の教室。窓の外からはポツポツと雨音らしき音が聞こえてくる。
今はこれが唯一の音だ。
「ごめん。でも別れて欲しいのは本当なんだ」
「……どうして?」
何とか笑顔で話そうとする少女。しかし、それは失敗に終わり、少し引きつった泣き顔になっていた。
昨日までとは全く対照的な表情に、胸がズキズキと痛む。
「昨日何かあったの? それとも私が嫌われるような事しちゃったから?」
「ううん、そんな事はないよ。真帆はボクには勿体無いくらい、いい子だと思う。
ただ、ボクがいい加減なヤツだっていうのは、よく知ってるよね?」
「嘘……北斗はそんな人じゃない。それに私は北斗じゃなきゃ――」
「……」
「嘘だよね?」
すがる様な視線に耐え切れず目を伏せる。そして唇を噛み締め、何とか言葉を発する。
「ごめん」
既に少女の両目からは涙が溢れ出ていた。昨日までのボクならその涙を拭ってやる事が出来た。
しかし、今となっては出来るはずもなく、滝のように流れる涙をただ見つめることしか出来ない。
「ほく……と」
窓の外に目をやると、何時の間にか土砂降りになっていた。厚い雲に覆われた空に、さっきまでのオレンジ色の光はない。
「じゃあ、ボク帰るよ」
「北斗……」
ボクの名前を呼び泣き崩れる少女を背中に感じ、逃げるように薄暗い教室を出る。
雨は一層激しくなり、耳障りなノイズが響いていた。
まだ梅雨は明けそうになかった――
まずここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
この話は最後の一歩手前まで出来ているのですが、最後の編集に手間取っています。
ゆっくりとした更新ペースですが、これからよろしくお願いします。




