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シュレーディンガーのPT


 まず初めに、謝らなければならないことが二つある。

 一つは、かの高名なシュレーディンガー先生に対してである。読者の興味を引くために、先生の名前を拝借した。実はも何も、私と先生は全く接点が無く、本稿と先生の理論もほとんど関連性は無い。純然たるこじつけ、カッコつけのために先生の名前を使ったのである。ただ、申し訳程度に言い訳をすると、先生の名前は、物理学的にも文学的にもエキセントリックで恰好が良く、どうしてもアウトプットを禁じ得なかったというわけだ。どうか、ご容赦いただきたい。

 さて。次に謝るべき相手は、他でもない、今まさに本稿を読み進めている諸君らに対してである。

 諸君らの中に、女性は居るだろうか? ちょっと手を挙げてみてくれたまえ。──ああ、君たち、すぐに帰ったほうが良い。私がこれから述べることは、女性にとって不愉快な事かもしれないのだ。さようなら。申し訳ないね、またいつかの機会に話そうではないか。

 ところで、男性諸君はどれくらい居るかね? ──ふむふむ。実は、私がこれから述べることは、男性にとってもあまり心地よい話ではないのだよ。ハッハッハ。であるから、ここまでの話で私が気に食わないと分かったならば、君たちも早々に立ち去ることをお勧めする。すまないね。

 とまあ、これで、幸いにも、残りはどうしようもない輩ばかりになったわけか。エロ、グロ、ナンセンスの跋扈する我が教室へようこそ。

 さて。だいぶ前置きが長くなってしまった。本題に入ろう。

 本日、私が述べたいことは、いわゆる、『パンチラ』についてである。

 何? 意味が分からないだと? そんな輩は大学院の1年からやり直したまえよ。ハッハッハ。まあ、諸君らも良くご存じのように、パンチラとは、『パンツがチラリと見える事』だ。この現象に関して、ある興味深いデータを入手したので紹介したい。

 今取り出したこれは、くだらない女性向けの週刊誌である。女がいかに面妖に着飾るべきかという記事や、血液型や星座を使って未来予知を試みる馬鹿げた企画が掲載されている。

 今回注目すべきは、『男のココが理解できない! ベスト10』というアンケート記事だ。タイトルの通り、この記事では男性特有の諸行動を面白おかしく挙げ連ねて、それらに対する女性の辛辣なコメントを載せている。また、嘘か本当かは知らないが、一部の項目では、他でもない男性諸君からの見解も併せて書いてあるのだ。

 気になるランキングの一位に、『パンチラを見てくる』という項目が挙がっている。ハッハッハ。他愛もない。これに対し、女性陣はもちろん怒り心頭のようである。

 一方、この結果について、この雑誌の取材に答えた男性陣らは次のように述べている。


「やっぱり見てしまいますよね(笑)!(20代会社員)」

「女性の恰好にも問題がある(50代自営業)」

 そして、「パンチラを見てしまうか?」という質問に対する回答では、なんと実に100%の男性が「見る」と答えているそうだ。


 ハッハッハ。どうだろう。実に面白いではないかね。ハッハッハ。

 諸君らはどう感じたかね? 大いに同意するも良し、「いや、俺はそのような情けない行動をとらぬ」と憤るも良し。「女が可愛ければ見る」と、理性的・中立的で情けない反論をするのもまた良いだろう。とにもかくも、様々な意見が飛び出すことと思われる。

 しかし、ここに至って、本稿の趣旨を思い出していただきたい。私はそのような各論について述べるつもりではない。もっと客観的、原理的に、現象そのものを理解しようというのである。

 結論から述べる。


 パンチラを見る確率が100%となることは、至極単純明快な論理の帰結である。


 どうだね、驚いたかね?

 この事に既に気付き、微塵も驚いていない者があれば、すぐにでも単位を差し出したいくらいだ。どうだね?

 さあ、ネタばらしをしよう。

 自分だったら見るか見ないか、あるいは、男だから仕方がないとか、男は情けないとか、そういった何がしかの感情を抱いた瞬間において、諸君らはこの週刊誌のトリックに引っかかっているというのだ。

 そもそも諸君は、今、地球上で一体何件のパンチラが生じているか、知っているかね?

 おそらく誰も知らぬだろうな。またそのような馬鹿げた研究・統計データも存在しまい。ただ、こういったことに疑問を持つことが、科学者にとっては非常に重要なのだよ。

 もっと分かりやすく説明しよう。

 だいたい、見えないパンチラとは一体何なのだ。考えてみてくれたまえ。それはもはや、パンチラと呼ぶことはできないのではないか。

 パンチラの定義を今一度思い出していただきたい。『パンツがチラリと見える事』である。すなわち、パンチラは観測が伴って初めて定義される事象なのだ。

 例えば、風が吹き、スカート舞う。その瞬間、すぐに目を反らしたとしよう。パンツが見えてしまったならば、それは紛れも無くパンチラを見たということになる。逆に、本当に刹那もパンツを見なかった場合、本当のところ、パンチラが生じたか否かすら観測者には分からないのだ。つまり、「パンチラが見えるにもかかわらず見なかった」という状態は、絶対にあり得ないのだ。であるから、パンチラの存在を認識した瞬間、それは見ていることになる。

 だからこの雑誌の書き方は、実に悪意に満ちていると云わざるを得ない。あるいは無知は罪とでも云うべきか。

 まあともかく。

 このように、観測が結果を変えてしまうを不確定性原理という。

 覚えておきたまえ。


 END


最後までお読みいただきありがとうございました。

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