夢
夢を見た。
妙にリアルで奇怪な夢を。
夢の中で俺はいつもと変わらない生活を送っていた。
そして夜。窓を開けると飼っていた犬が窓から逃げてしまった。
俺はその犬を探しに外に出た。
そして近くに見慣れない建物。だが俺は特に気にする事もなくその建物に犬を見ていないか聞き込みに入る。中には2人の男が楽しそうに話をしていた。
「あの。すいません。実はさっき俺の飼っている犬が逃げてしまいまして……。こんな犬なんですけど見ませんでしたか?」
俺は入り口に一番近い場所に居たおじさんに声をかけて犬の写真を見せる。
「あぁ。この犬ならさっきここに来たよ。腹が減ってるようだから俺の弁当を少し分けてやった。今は俺の友達が散歩に連れてってる。もうすぐ帰ってくるだろうから待っているといい」
俺はその人の厚意に甘えてそこで待たせてもらう事にした。
しかし犬も人も帰ってこない。
「遅いな。何かあったのか? ちょっと様子見てくるから待っててくれ」
おじさんは外に探しに行った。
そしておじさんも帰ってこない。
1時間が経過して少し経った時入り口のドアが開いた。
「遅くなってすまねぇな。実は俺のダチが犬に逃げられたらしくて少し捜してたんだ」
どうやら相当遠くまで捜しに行ってくれたらしい。身体中泥まみれだ。
「そうなんですか。わざわざありがとうございます。それで犬は見つかりましたか?」
俺は捜してくれた事に感謝しているが犬を心配する気持ちが前に出てしまってちゃんとお礼も言えなかった。
「それがな。見つからなかったんだ。すまねぇ……。ホントにすまねぇな……」
おじさんは申し訳なさそうに何度も頭を下げて謝ってくれる。
「もう良いですよ。自分から出て行ったって事は家の中では幸せではなかったという事でしょう。それなら外に逃がしてあげた方があいつも幸せだと思いますし、これで良かったんですよ」
俺の言葉を聞いたおじさんがやっと顔を上げてくれた。
「そうか……。じゃあ詫びって訳でも無いが茶くらい飲んでけ。用意してくるから待ってな」
おじさんはキッチンへと向かう。
「なぁ。その犬っていつから飼ってたんだ?」
最初におじさんと話をしていたもう一人の男が今初めて話し掛けてきた。
「えっと……。俺が生まれるより前から飼っていたみたいなので詳しくはわかりませんが、もうけっこうな歳だった気がします」
言われてみるといつから飼っているのかわからない。物心ついた時には既に一緒にいた。
俺の話を聞いた男は少し考えて俺に言った。
「お前……。運命って見たことあるか?」
犬とは全く関係のない話。突然過ぎて俺は少し言葉に迷った。
「う、運命……ですか? 俺は運命だとかそういう曖昧なモノは信じていませんし見た事もないですね。と言うか運命を見るって一体どういう意味ですか?」
話が繋がらない。何故犬の話からそんな話に……。俺はこの人と話をするのが嫌になってきた。
おじさん。早く帰って来てくれ。
俺はキッチンに行ったおじさんが早く帰ってくるよう願った。
「待たせたな。今更だが兄ちゃん。コーヒー飲めるか?」
ホントに今更だな……。
心の中でそう呟く俺だが正直コーヒーは苦手だ。だがせっかく用意してくれたので頂く事にする。
コーヒーを飲もうとカップを手にとるとさっきの男がまた俺に話しかけて来た。
「待て。そのコーヒーは飲まない方が良い」
いきなりなんなんだ。
ていうか少し飲んじまったよ。
またしても心の中で呟く。
「えっ……。少し飲んじゃいました……」
別に味は悪くない。
意味のわからない発言ばかりする人だと思っていたら男が急に俺に詰め寄ってくる。
「少しってどれくらいだ。身体に違和感は無いか?」
俺の身体全体を触りながら問い掛けてくる。
「普通に一口飲んだんですけど……。それと違和感と言われると何か身体の中で動いてる様な気が……。ていうか何してんですか……」
つくづく意味のわからない人だ。
いきなり身体を触って来るんだから反応に困る。
そういう趣味か?
お触りする為のテクニックなのか?
等と考えていた俺。
「とりあえず言わせてもらう。お前。死ぬぞ」
……。
「……はい?」
突然死ぬとか言われても理解出来ない。
やはりこの人は頭がイカれてる。
もうこの人とは話はしたくない。
帰ろうとしたその時。身体の中にあった違和感が激痛に変わった。
「な、なんだこれ……。うあああああ!」
まるで内臓を食いちぎられるような激痛。
俺の苦しむ姿を見て男は俺に何かを伝えようとしている。
「おま……死……気を……」
途切れ途切れに言葉が聞こえてくるが俺はそんな言葉の意味など理解出来ない。ただ苦しかった。
肺を食われたのか息が出来ない。
薄れていく意識の中俺は男の言っていた運命と言う言葉を思い出す。もしかしてあの人は俺がこうなる事を知っていて俺に運命がどうとか言っていたんだろうか……。
まぁ今となってはどうでもいい。俺はもうじき死ぬ。
短い人生だったな……。
そして意識が無くなったところで俺は目が覚めた。
なんともリアルな夢。
身体中汗でベタベタになっていて呼吸も荒い。
夢で良かったと思いつつ俺は気分を落ち着ける為に台所で水を飲む。そして汗を流すべくシャワーを浴びる。
「ふぅ。スッキリした。それにしてもリアルな夢だったな……。あの激痛の感覚がまだ身体にあるような感じだ……」
俺は腹に手を当てて内臓がちゃんとあるか確認してしまった。
は、恥ずかしい……。
あれはただの夢なのに俺は何をしてるんだ。
確認しなくても内臓がなくなってる訳無いだろ。
あまりの恥ずかしさに自分で自分の顔を殴る。
心は羞恥心でいっぱいだが見られていた訳でもないし気にしないようにしよう。
俺はそう自分に言い聞かせてリビングへ向かった。
リビングでは飼っていた犬がしっぽを振って俺が飯を出すのを待っている。
「うーし。とりあえず飯を食わせてやる。ありがたく思え」
俺はいつも犬相手にこんな事を言っているのである。
別にこいつが嫌いな訳ではない。ただの悪ふざけだ。
犬は何食わぬ顔で飯を平らげる。
そして俺も朝飯を平らげる。
「んじゃ学校行ってくるから今日も大人しくしとけよ。帰りになんかいいもん買って来てやるからな」
俺は今日も学校だ。
学校には自転車で15分くらい。
駅も近いしコンビニや本屋も近くにあるしなかなか好条件な物件だ。
我ながらナイスチョイスだぜ。
そして学校へ着いた。
休み時間に見た夢の事を友達に話すとやはり大爆笑だった。更に俺の犯してしまった失態を話すと更に笑いをとれた。
「フ。俺くらいになると夢か現実かの区別が出来なくなるんだぜ。俺を甘く見るなよ!」
訳のわからないセリフと決めポーズで締めてやった。
俺はあの恥ずかしいエピソードを見事笑いに変えたのだ。
やってやったぜ……。俺の心は充実感で満たされた。
そして学校が終わり家に帰った。
今日も犬は俺のお出迎えだ。
「うし。犬。今日はお前の為にちょい高めなおやつを買ってきてやったぜ。ありがたく思いな」
相も変わらないこのやりとり。いや。犬は俺の発言など見事にスルーしているからやりとりとは言えないな。
そんなことより俺は腹が減って死にそうだ。
カップ麺を食す事にしよう。
お湯を注いで4分。
実際は3分なのだが少し伸ばして嵩増しだ。
うーん。少し伸びても味は美味い。
カップ麺を食って汗をかいたので風呂に入ろう。
シャワーを浴びている時に気付いた。
シャンプーねぇじゃん……。
代えのシャンプーも切らしている。
仕方ないので石鹸で頭を洗った。
結果髪がバサバサになった。
「うぅ……。髪がバサバサに……。やめとけば良かった」
俺は後悔した。
この世に生を受けて今年で20年。
これほどまでに後悔した事などなかった。
幼少の頃、梅干しの刺激に夢中になって家の梅干しを食べ尽くした後に下痢が治まらなかった時より後悔してる。
そんな事を考えながら髪を気にしていると犬が俺に飯をねだってきた。
「もうこんな時間か……」
時計を見て呟く。
「うーし。晩飯をくれてやろう。ありがたく思え」
俺が言い終わる前に食べはじめるとは憎たらしい犬だ。
犬が飯を食っている間にベランダに出て涼んでいた。
すると食い終わった犬が俺の横に来た。
「ん。もう食ったのか。んじゃ散歩に行くか」
今日はいつもより少し早いが食後の散歩。
俺は夜行性だから夜になるとテンションが上がる。
犬をあちこち引きずり回した後、コンビニでアイスやらジュースやらを買って公園のベンチで一休み。
最早犬の散歩ではなく俺の散歩になっている。
だが犬は俺のスピードに合わせくれるし特にいやそうな感じもないので犬の散歩にもなってるだろう。
そんな事を考えながら食い終わったアイスの棒でアリの巣をいじって遊ぶ。
というか無意識にやってしまう。
穴があったらいれたくなるのが俺だ。変な意味ではない。
俺は拡張したアリの巣の入り口にアイスの棒をねじ込み満足した。そろそろ帰ろうかと立ち上がると犬が何かに反応して一目散にどこかへ走っていった。
今までこんな事なんて無かった。
いかに能天気な俺もこの時だけは焦った。
高校の一年の時に授業は全部寝て過ごした上に提出物や宿題を全て提出しなかったり、プールの授業は全てサボり倒して進級が難しいと言われた時も焦らなかったのに犬が走り去っただけで焦った。
そんな自分が少し嫌になった。
だが今はそんな事はどうでもいい。早く犬を捜さねば。
俺は犬が走っていった道を走る。
そして見慣れない建物があったのでここで聞き込みをする事にする。
「ん?見慣れない建物。けどなんか見たことあるような……。」
初めてみるはずなのについ最近見たような不思議な感じ……。
だが思い出せないのでもう諦めて建物へ入る。
「すいませーん。この辺にブサイク顔の犬が走って来ませんでしたか?」
俺は近くにいたおじさんに声をかける。
「あぁ。その犬ならさっき俺のダチが追いかけてったぜ。もうすぐ帰ってくるだろうから待っているといい」
俺はおじさんの厚意に甘えて待たせてもらう事にした。
ん?このやりとりもしたような記憶が……。
「あ……」
思い出した。夢だ。
しかもおじさんともう一人の男の顔も夢でみたのと同じだ……。
「おい兄ちゃん。怖い顔してどうした?」
事情を知らないおじさんが心配して声をかけてくれた。
「あ……。いや。なんでもないです……」
夢の話など出来るわけもなく俺は黙って俯いていた。
するとおじさんはどこかへ行ってしまった。
俺は夢でみた光景と今の状況が同じで混乱中。
あの男。もしかして俺の事知ってたりするのか?
俺が男の顔をまじまじと見つめていると俺の視線に気付いた男は俺に話し掛けてきた。
「なんだ? 言いたい事があるならハッキリ言えよ」
夢と同じ少し冷めたトーンで話してくる。
俺は不安が募るばかりだがじっと見ていた俺が悪いのでとりあえず謝る。
「すいません。貴方の事を見たことあるような気がしてつい……」
もし夢と同じ人物なら俺の事を知ってるはずだと思った俺はカマをかけてみた。
「ふーん。じゃあどっかであったんだろうな。まぁ他人の空似ってヤツかもしれないけどな」
やはり簡単には引っ掛からないか。
次にどうしようか考えているとどこかへ行ってたおじさんが帰ってきた。
「なんだお前ら。知り合いか? ほれ兄ちゃん。犬が居なくなって不安なのはわかるが落ち着いてコーヒーでも飲め」
怪し過ぎるくらいに同じ展開に……。
ここで俺がコーヒーを飲もうとすればあの男は止めにくるはず。そう確信していた俺はコーヒーを飲もうとカップを手にとる。
「待て。そのコーヒーは飲まない方がいい」
キター!
ほんとにキタよ!
え? てことはこれ飲んだら俺死ぬの?
ぜってぇ飲まぬぇーぞ俺わ!
この勝負。勝ったぜ!
一体なんの勝負かわからないが生を勝ち取ったと思った俺は力いっぱいガッツポーズ。
それを見てた二人は呆然と俺を見ていた。
「どうした兄ちゃん。気が狂ったか?」
「お前、頭おかしいんじゃないか?」
二人の冷めた視線と辛辣な言葉。
だが俺は間違っていない!
コーヒーを飲まなかった事で俺は運命を変えたんだ!
怪しく笑う俺をよそに二人は話を始める。
「そんなことよりお前。コーヒー飲むなってどーいうことだ。俺がこの兄ちゃんに何か薬でも飲ませると思ったのか?」
フフフ。その台詞も想定済みだよおじさん。
俺はなんだか楽しくなって来て二人の会話の先を勝手に考えてみる。
「いや。アンタのコーヒーは正直言ってマズイ。あれは客人に出せるモノではない。というかコーヒーが可愛そうだ」
……ん?
今俺の予想外の言葉が出てきたぞ?
「え、貴方今なんて……?」
聞き違えたのかも知れないのでリピートを要求。
「ん? コーヒーを飲むなと言ったのはマズイからだって事だが?」
……。
なんですと?そんなわけがない。俺を止めたのは俺を死なせない為だろ?
混乱した俺は思わず叫んだ。
「俺このコーヒー飲んだら死ぬんだろ? だから止めてくれたんだろ?」
…………。
心の底からの叫びだが二人には意味不明な発言だったようで数秒沈黙が流れた。
次の瞬間大爆笑が起こった。
「ヒヒヒヒヒ。おいおい兄ちゃん。いくらなんでもそれはないわ〜。いくらマズイっつってもコーヒー飲んだだけで死ぬ訳無いだろ(笑)」
おじさんが腹を抱えて笑っている。
「お前最初見た時からヤバいヤツと思ってたけどコーヒーで死ぬまでいくとは……! 今年一番の傑作だよ(笑)」
もう一人の男は笑いすぎて床に倒れている。
そこで俺は冷静に考えてみた。
確かに夢と同じ状況になったからといって必ず夢と同じ結果になるわけではない。
今になってめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた……。
「ヒャヒャヒャ(゜∀゜=゜∀゜) 最高だよ兄ちゃん。気に入った! これからいつでも遊びに来な! 兄ちゃんの話を他の仲間にも聞かせてやりてぇからよ! そうそう。さっき犬が見つかったって連絡が来たぜ。迎えに行ってやんな」
なんだかよくわからないがおじさんに気に入られたようだ。そして犬も見つかったようだ。
「あ、ありがとうございます。じゃあまた遊びに来ますね! ではまた」
俺はおじさんに教えてもらった場所に犬を迎えに行って家に帰った。
「今日は大恥かいたな……。まぁ新しい友達も出来たし結果オーライって奴かな?」
例えどんなにリアルであろうとどれだけ似たような状況になろうと所詮は夢。現実で同じ事になるわけではない。
今日は夢に振り回された一日だったけどいつもより楽しかった。
また明日この話を学校の連中に聞かせてやろうか。
奴らの笑い顔が目に浮かぶ。
そして笑いながら俺は眠りについた。
如何でしたでしょうか?
みなさんも寝起きに夢か現実か良くわからなくなることってありますせんか?
例えば、私は猫を飼っていて、猫が脱走してしまう夢をたまに見ます。
そしてその夢から覚めた後、猫がちゃんと居るか確認してしまいます。
みなさんはそういうことないですかね?
また妙にリアルな夢を見た時に小説にしていきたいと思います。
余談ですが話の途中で出てくる高校一年の時の出来事は実話です。
馬鹿な私を笑うがいいさ!
取り乱してしまいましたが最後に、私のもうひとつの作品も読んでくだされば嬉しいです。