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赤い静寂【一話完結】

作者: 葉芽木
掲載日:2026/05/19

産まれた時から、僕は周りより少し落ち着いていた。


そのせいか小学校ではノリが合わず、あまり友達ができなかった。


今日から僕は中学一年生。新しいクラス、新しい教室で、自己紹介をする。


ぼんやり他人の自己紹介を聞いていると、ついに僕の番が来た。


「…僕の名前は松山(まつやま) 怜司(れいじ)です。趣味は読書です。好きな本は、『○○』シリーズです。」


「宜しくお願いします。」


「パチパチパチ」


その後もいくつか拍手が起こり、自己紹介の時間が終わる。


僕の席は廊下側の一番後ろ、の左の席だ。


自分の席で、クラスの雰囲気をぼんやり眺めていると、右隣の席の子に話しかけられた。


「ねえ、松山君だよね。」


その可愛らしい声の方向に、僕は顔を向ける。


いい意味で予想外の外見に、僕は一瞬驚いた。


可愛い、というよりは美しい。姿勢も綺麗で、なんだか上品な女の子だった。


「私もあのシリーズ好きなんだ。良かったら、友達になろう。」


その笑顔に、僕は少しドキッとした。


「…うん。」


僕も笑顔を返し、色々と話をした。




初対面にして、好きな本の話で随分盛り上がった。


こんな子は初めてだった。本の趣味が合う子も、こんなに大人びている子も。


おそらく、それは相手も同じのようだ。


楽しく話しながら、この子の魅力に少しずつ引き込まれていった。


学校も終わり、放課後。


「「ねえ。」」




僕たちは、連絡先を交換した。




僕は帰り道で、新しい連絡先を確認する。


和泉(わいずみ) 凛華(りんか)


なんだか名前まで美しい気がする。名は体を表すとは、このことか。


くだらない考え事をして、ぼんやり歩く。


いつもの長い帰りも、今日はあっという間だ。


「ただいまー」


僕は元気にドアを開ける。


「おかえり怜司、夕飯できてるよー」


母は優しく出迎える。


「はーい」




「…今日はさ、こんなことがあってー!……」


いつものように食卓で、学校での出来事を報告する。


僕が話をすると、母は笑顔で話を聞いてくれる。


とても優しくて、無邪気な笑顔。


僕は母の笑顔が好きだ。


「ごちそうさま。美味しかった!」


夕飯を食べ、お風呂から上がると、父が帰ってきた。


「ただいまー」


「おかえり、ご飯できてるよ」


「ああ、ありがとう!」


そう言うと父は、すぐに食卓についた。


「やっぱりお前の飯は、美味しいな!ははは」


母も嬉しそうに笑う。今日も家族仲は良好だ。


僕は微笑みながら階段を上り、自室に入る。


寝る前に少しだけ本を読み、あの子のことを思い出す。


来週の楽しみを胸に、深く眠りについた。




――土日が終わり、また一週間が始まる。いつも早めだが、今日は早く着きすぎた。教室に入ると、まだクラスメイトは誰もいない。


仕方なくカバンから本を取り出し、ゆっくり読む。


教室の中には、ページをめくる音だけが響く。


僕は、この静かな空間がとても好きだ。




しばらくして本に没頭していると、クラスメイトが少しずつやってくる。


「おはよー」


隣の席は、まだ空いている。


顔の向きを戻し、また本に向けると、肩をポンと叩かれた。


「ふふ、おはよう。」


「…おはよう、和泉さん」


互いににこやかな笑顔を交わす。


和泉さんは、なんだか元気そうだ。


「その本、昨日発売のシリーズ最新版だよね…!?」


僕の本を指して言った。


「私、昨日は家にずっといて、買えなかったんだ。」


「……良かったら、後で貸してくれないかな?」


「…ああ。僕は二周目だから、今貸すよ」


僕はすんなり渡した。


彼女のテンションも珍しく上がっていて、少し驚いた。


「…ありがとう!」


いつものクールさからは想像できないような、無邪気な笑顔。


昨日すぐ買っておいてよかったと、心の底から思った。


――授業を挟み、休み時間の合間に本の感想を話し合う。


「このシーン、凄く良いよね。物語の背景が伝わってくる。」


「そうだね。それで言うと、僕はここも好きだな。」


会話が弾み今日もまた、あっという間に放課後に。


クラスメイトが教室から出ていく中、僕たちはまだ教室にいた。


まだ帰りたくない。もっと話していたい。


そしてその気持ちは、彼女も一緒のようだった。


「お前らー。もう帰れー」


…結局見回りの先生に見つかり、今日は暗い道を歩いて帰った。


話して、本を読み、また話す。


そんな楽しい日々を過ごし、二週間が経つ。


僕たちは既に、親友のような存在になっていた。




今日は二人で図書室に来た。


よく読むシリーズを読破してしまった僕たちは、新しく読む良作を探していた。


図書室は大好きだ。


大好物の本が沢山並べられている。これほどの絶景はない。


「これはどうだろう」


「あの本は…」


二人で手分けして色んな場所を見漁った。


「これは、いいな」


パラパラと中身を見て、良さげな本を見つけた。また新たな話ができそうだ。


真っ直ぐ和泉さんの方へ向かう。


「ねえ、…」


僕は彼女を呼ぼうとしたが、途中で辞めてしまった。


これほどの絶景を目にしたからだ。




彼女は背伸びし、届かない本に手を伸ばしている。




日差しが反射して、サラサラの黒髪が際立つ。




彼女の輪郭も明瞭になる。




綺麗な顔立ちがはっきりと見える。




……長いまつ毛だ。




美しい横顔に、しばらく僕は目を奪われていた。




少し経つと、彼女は僕に気づき、笑った。


「もう、早く助けてよ。」


胸を叩かれたからか、はたまた別の理由かで、心臓の鼓動が跳ね上がる。




それから、見つけた本を紹介して話し合った。


とことん話し合い、話題も尽きて静かになった頃、彼女が話す。


「……私さ、この静かな空間が大好きなんだ。」


「エアコンの音とか、鳥の声とか、ページをめくる音とか、そういう音だけ聞こえる空間。」


「分かる?笑」




ああ、凄く分かる。


すぐに言葉が出なかったが、後でちゃんと口に出した。


「本当!?……」




日も暮れて、家に帰りしばらくしてから、僕はある感情を自覚した。






自覚した感情に悩まされ、僕たちは夏休みを迎えた。


今日は花火大会。


僕は和泉さんを誘ってみた。


「いいよ。行こう」


メールの通知を見ながら歩く。


夕方になり、花火もそろそろ上がる時間。


僕は会場に着いたと同時に、彼女を見つけた。


いつもの儚い雰囲気、綺麗な赤い浴衣、簪を身に纏う。


僕の気分は高揚したが、表には出さなかった。


落ち着いて、ゆっくりと近づく。


「浴衣、凄く似合ってるね。綺麗だ」


浴衣の色に同化する彼女の横顔を見て、僕は小さく深呼吸した。


それから、二人でたくさん屋台を回った。


綿菓子の甘い匂いも、焼きそばの煙も、


全部が少しだけ赤く感じた。


それに夢中になっていると、空も暗くなる。


もうすぐ花火も上がる。


人も集まってきた。


なんだか騒がしい。


そんなことを考えていると、不意に花火が上がる。






花火の音に同調するように、心臓が跳ね上がる。


それに対して、僕の心の中は割と落ち着いていた。


……ここじゃ、ないな。


「…ちょっと、こっち来て」


僕は彼女の腕を掴んで、ゆっくり歩いた。


前へ進むにつれ段々と、賑やかな声が遠ざかっていく。


花火ももう見えなくなったとき、僕たちはそこに着いた。


車道の傍らの草原だ。


下り坂の先には、湖に映る月がよく見える。


少し吹く風が、小鳥たちの声を届けに来る。


僕より先に、彼女は腰を下ろした。


「…私、賑やかな場所、あまり好きじゃないんだよね。」


「怜司君が連れてきてくれて、ちょっと安心した。」


知ってるよ。




そう思いながら、空に顔を向ける。




少し迷って、何気ないトーンで僕は言う。




「……月が綺麗だね。」








「…もしかして、口説いてる?笑」




馬鹿にするように、君は無邪気に笑う。


何度も見た、僕の大好きな笑顔。


もう迷いのない僕は、少し微笑んだ。


「うん。」




空気が一気に静かになった。


いつの間にか、もう風は吹いていない。


子鳥はどこにもいない。


湖は微動だにしない。


ただ月の冷たい明かりが、僕たち二人を照らしていた。


「……」


僕はまだ月を見ている。


なんて返されるんだろう。


隣を見るのが怖い。


「……ぃ…」


「え?」


か細い声につられて、思わず振り返る。






「ははははははっ」


予想外の光景を見て、僕は思わず声を上げて笑ってしまった。




君はまた、赤い浴衣に同化している。







最近執筆に興味を持ち、長編を暫く書いていたのですが、やはり初心者には難しく、一旦、それの一部を改良し短編として出すことにしました。ごく普通の物語ですが、ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。

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