一話 【人と違う】
コンコンコンコン
ママが爪で机を叩く音が聞こえる。
「ねぇ、私の視界に入らないでくれない?イライラするから...あと、同じ部屋にも居ないでほしいわ」
私は机を挟んでママの対角線上に座っていた。
「う、うん、ごめんなさい」
私は椅子から降りてリビングを出てった。
それからおよそ5時間くらい経ったところで私は恐る恐るママにあるお願いをした。
「ねぇ、ママ...あの、喉が渇いちゃって...」
「...」
「えっと、ママ?」
「ちっ、聞こえてるから黙って頂戴...何も出来ないくせにピーチクパーチクやかましい」
「ご、ごめんなさい」
ママはお茶をコップに入れて私に飲ませてくれた。1日ぶりで喉がとても潤う。ちなみに今日の夕飯は我慢。
そしてその後、お風呂にも入れてもらった。歯磨きもしてもらった。そして私はようやく床に着いた。ごめんなさいママ。
両腕がなくてごめんなさい。
「あんたは何も出来ないし、普通に生活するだけで人に迷惑をかけるんだから...もう何もしないで頂戴」
ある日の昼、こんなことを言われた。その時私は特に何も考えずにこの言葉を言ってしまった。
「何も出来なくて、何もしない方がいいなら、何でママは私を育てたの?」
「...」
ママは驚いたように目を見開いてこっちを見ている。こいつ何言ってんだ?みたいな感じで。
数秒の静寂の後、ママは語りだした。
「私だって、あんたのこと育てたくなかったわよ...あんたなんて......産みたくなかった...!」
それが本音
「...」
私は何も言わずに立って、家を出た。
マンションの階段を這うように登っていった。途中人が何人か通過したけど、皆びっくりして何処かに行ってしまう。
そうしてやっと屋上に辿り着いた。
私は柵を体で無理やり乗り越え、お腹のあたりで一度止まる。腕がない都合上、柵を越えたあとは頭から落下する。流石に怖い...だが他に道は無い。
「普通に生きたかったな...贅沢かな?」
そう言って私はマンションの屋上から落ちた。怖いけど、どこか清々しさもあった。何故なら人生で初めて人の役に立てたから。
(来世はなんだろ、虫は嫌だな...でも人間もちょっとな...鳥とか良いかもな)
なんてことを考えているとおかしなことに気づく。
(あれ、なんか...座ってる感覚がある...しかも落ちた時の痛みもないし)
(どうなってるんだろ...死後の世界なのかな)
恐る恐る目を開けてみるとそこは牢屋だった。目の前に鉄格子があり、脱出を阻んでいる。
「え!?牢屋?ここどこなんだろ...」
それに驚いた、なんと私に両腕があること。
(え?腕、ある...腕動かすのってこんな感じなんだ...)
私は嬉しさのあまり泣きそうになってしまう。
(やった!!これでもう嫌われない、迷惑もかけない、みんなと同じ通りにできる!!)
こうしちゃいられないと何か脱出が出来そうなものはないか探してみたが、中には何もない。鍵で開けるタイプな為、そもそも鍵がなければ出られない。そうこうしているうちに鉄格子の前に二人立っていた。
一人は制服を着た看守、もう一人は18歳くらいの金髪の女性。パッと見チャラそう。
「この子は奴隷の中でも特に暗い奴で、あまりおすすめはしません他の子にした方が...」
「...」
女の人はジッと私を見ていた。私は目があったので素早く目を逸らす。よく見たら、私の体は何日もお風呂に入ってないくらい汚かった、洋服も布一枚...
(恥ずかしいし汚いから見ないで...ていうか何で飛び降りたらこんな所にいるの!?死後の世界でも私は悪い子なの?)
すると女の人は突然
「この子にするわ、いくらで買えるの?」
「え!?えっと、10万イェールです...ホントにこの子でいいんですか?」
「構わないわ、さ、早く出してちょうだい」
私は看守に引っ張られ、牢屋を出た。その後女の人が所有している馬車に乗せられた。馬車の中で対面して座っている私とその女の人、めちゃくちゃ気まずい...だが、静寂を突き破ったのは相手の方だった。
「フフッ、ねぇ君、名前は何ていうの?」
「え!?あっ、えっと...結衣っていいます、桧山結衣」
「ん?ヒヤマユイ?フフ、変わった名前だね...私はライラ、ライラ・ポールよ、よろしくね」
「あ、よ、よろしくお願いします」
(ライラ・ポール?洋名?っていうか私奴隷じゃないの?なんかこの人物腰柔らかいし...)
「まぁ、緊張しなくていいわよ、とりあえずいくつかやってほしいことがあるから、私の家に着いたらお願いするわね」
「は、はい」
(奴隷...まぁ私にお似合いなのかな)




