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兄妹喧嘩はブラコンとシスコンで収束する

くだらない100の質問を完遂しようとする優しき友人にそんな必要はないと俺は首を横に振り、それでもなお完遂した友人の律儀さに感服し、俺は自転車を走らせて家に帰った。


相変わらず、陽気に酒を飲み交わしてる両親と兄貴には目もくれず。

俺は、ダンダンダンと足音を立ててリビングに上がり込んだ。スマホの画面を見つめたままニヤついている妹をきっと睨む。

とにかく一言文句言ってやらねば、気が済まない!


「おい、桜!俺の友達に変なメッセージ送って困らせんなぁ!」

「もー……いきなり、何……?」


桜は、うざったそうな視線を俺に寄越しながら、全体的には上機嫌のままで鼻を鳴らした。

駿からきっちり100質の答えが返ってきて、嬉しいのだろう。


「今、私、ライフプランシートを作って駿さんに書いてもらうとしてたとこなんだけどぉ」

「お前はいつになったら、まともになるんだ……」

「だから、まともだってぇ」

「まともな奴は、ほぼ初対面の相手に即日で人生設計図とか書かせないんだわ」

「だってぇ、結婚、子供の数、マイホーム購入のタイミング……相手がどんな将来設計描いてるかを知ることは大切だもんね……」

「ねえ、お前、頭大丈夫?」


ほぼ初対面の相手にその思考回路に行き着くのすごいな。婚活パーティー行ってきた?

この妹の辞書に「まとも」が抜けているのだが、どうやったら追加できるだろうか?


このままでは、心優しい友人の男がこの妹に良いようにつけ込まれてしまうだけである。


「はあ。桜、本気で駿と付き合いたいのか?」

「そりゃあ、もちろん」


本気らしい。今のところふざけたことしかしてないので、本気かどうか疑わしいが、この妹は元が変なので、本人はいたって本気のつもりでいるのだろう。

あの天然を落とすのは、苦労すると思うのだが、妹はやる気だ。


「なら、奇天烈なメッセージはやめて、相手を気遣った負担のないやり取り、デートの約束、デート何回かして告白…って、ちゃんと恋愛の順序に沿っ──」

「ええ?彼女にフラれた蒼兄の意見聞いてもなぁ。だって、フラれてるし。フラれた人に聞いても参考にならなくない?」

「おぉぉい!!!表出ろ貴様ぁッ!!!?」


この妹っ、人が……っ、人が今一番気にしてることを!

デリケートな部分をズタボロに抉ってきやがってぇ!

フラれたって3回言ったな!

ケンカ売ってんのかコラッ!


「なにぃ〜?いちいち怒んないでよー。蒼兄余裕なさすぎぃ。そーゆうところが駄目だったんじゃなーい」

「この……っ、こ、コイツ……」


はーんと小馬鹿にしたような桜の笑み。

俺より年下のくせに、憎たらしいことこの上ない。

ちょっと自分が可愛いくて男にチヤホヤされて生きてきた人生だから、男を転がすのなんて簡単だと思い込んで俺を馬鹿にしてるのだろう。


実際に、モテモテの兄貴と妹の間に挟まれて、中間っ子の俺だけモテませんけど!?

それは口にしちゃいけねぇ不文律みたいなものですよねぇ!


「あのなぁ!言っとくけどな!その可愛い顔でなんとかなってるだけで、お前のアプローチの仕方毎度おかしいからな!?何で教えられてもないのに勝手に相手の連絡先把握してんだよ!?あと周りの人間関係に詳しかったり……いや、引くわ!」

「…は?」


ピキリ、と妹の頰に亀裂が走ったが、俺も今日ばかりは譲れない。


俺に関係のない人間が相手ならどうなろうが妹の自業自得で済む……というか、俺としては、いっぺん痛い目に遭ってみろお前、みたいな思いなのだが。


しかし、相手が俺の友人の駿ともなれば話は別だ。

妹が非常識なアプローチを仕掛けたら、俺までその仲間だと思われるではないか!

そうでなくとも、この妹を理由に駿に距離を取られるかもしれない。

最悪、駿に友達辞められるのではないか?と俺は心配している。


ということで、今回ばかりは妹にまともな恋愛の仕方をしてもらわなければ困るのだ!


「お前はいい加減、普通の恋愛の過程を学んでもらっていいか?俺が駿に変な目で見られるだろ?」

「普通ぅ?自分の価値観で語らないでもらっていいですかぁ?そーいうの今の世の中、良くないよ?」

「ちげーよ。お前のは犯罪スレスレなんだよ。狂気じみてんだよ、毎度。こっちだって、普通を語りたくもなるだろ!」

「ふっ、はぁんっ!自分の恋愛の仕方が正解と思ってる蒼兄おつぅ、フラれてますけどー?ごめんねー。私フラれたことないから、蒼兄の気持ちワカンナーイ。ぷぷぷ」


口に手を当てて、こちらを完全に馬鹿にしたような笑みを浮かべている桜。小憎たらしいこと、この上ない。俺より20センチは低い身長もあいまって、クソガキムーブがすごい。


ぴくり、と俺の頰が跳ねた。


「あん?お前喧嘩売ってんのか……?」

「はっ、何よ上等よ!いいよ!その喧嘩売ってやるわよ!」

「こっちこそ買ってやるよ!」


火花を散らしながら、互いに睨み、牽制し合う。

この年になると、取っ組み合いの喧嘩などしないが、昔から引っ込みがつかなくなるところは、変わらない。


そして、俺たちの喧嘩の決着方法というと───


「じゃあ、カラオケ対決……」

「おいコラ、待て」

「何よぅ」


テレビと接続しているゲーム端末を起動させて、マイクまで持ち出した桜に、俺はストップをかけた。

ゲーム端末の中に、カラオケのデータが入ってるのだ。


「それは、お前の得意分野だろ?公平性が保たれてないぞ」

「えー、ソンナコトナイヨー!蒼兄すっごくお歌上手だよー!」


嘘こけ。

歌で桜に勝てた試しがない。


「ていうか、夜に家カラオケは近所迷惑だろ」

「この家広いし良くないー?」

「良くない」

「ちっ!」


自慢じゃないが、確かに由緒ある家柄だからか、我が家は築年数は経つが、敷地面積は広い。

夜の家カラオケくらいどうってことなさそうだが、公平性の観点から却下だな。


「じゃあ何で勝負すんのよー」

「まあ、待てよ妹」


俺は自分のスマホを開いてアプリを起動する。

ちょうど良さそうなのは……


「よし、フラッシュ暗算にしよう。表示速度4秒でいいか?」

「やいちょっと、待てい〜」


桜が俺のスマホをひったくる。あ、コラ。

4秒間ずつで次々と数字が出てくる画面を見て、桜はうげぇと嫌そうな顔をした。


「却下!」

「何でだよ。パパッと終わるし、楽だぞ」

「いかにも蒼兄の得意そうなやつじゃん。嫌ですぅ」

「ちっ!」


計算と瞬間暗記は、1日かけずとも俺の元から得意な分野なのに封じられてしまった。


「じゃあ、ゲームでもするか?」

「私も蒼兄も強くないし、運要素混じるからやだ」

「格ゲーにすればいいんじゃね?」

「格ゲーの運要素が一番納得できないから嫌!」


あまりゲームしない人間なので、運要素うんぬんのこだわりは知らないが、別に俺も決め方としてはベストとは思ってなかったのでそれはいい。


「チェスは?」

「私ルール知らないー」


俺が提案し、桜が却下。

ボードゲーム良いと思ったんだが、俺と違って、この娘があまり嗜まないもので……


桜が指をピンと立てる。


「ナインボールは?」

「んん……絶妙に微妙だな……」


うちの家にはビリヤード台があるので、もちろんできるが、いかんせん最近やってないもんで……

腕が確実に鈍って、俺は初心者レベルに戻ってるはずだ。

となると、兄貴に似て感覚(センス)型の桜に有利なんだよなぁ。


「1日くれたら、何の勝負でもいいんだけどな」

「1日あげたら、猛練習した蒼兄が勝つに決まってるでしょ!馬鹿なの?」


何でお前はそんな堂々と負け宣言してるの。

もうちょっと頑張ろうぜ。


ウィィーン………


「んじゃあどうする。どっちかに有利にならないで、運要素も絡んでなくて、この家の中で完結する対決って何があると思う?」

「ピアノ?」

「それ夜中の騒音問題に戻らないか?」

「うちは広いから大丈夫じゃない?」

「ええ、でもな……あ、じゃあ代わりに採譜は?」

「んんんんー………!蒼兄に若干有利な気がするから、却下!」

「そうか。じゃあもういっそ、けん玉とか」

「地味だからヤダ」

「けん玉のお偉いさんに謝ってこい」

「フランスと広島のどっちに謝ればいいかな?」

「何で発祥地は知ってるのに、けん玉へのリスペクトは無いの?」

「雑学でリスペクトは生めないの……」

「なんか格言みたいに言ってるが、けん玉への罪は消えてないからな」

「けん玉への罪って何?」

「あのな、もうちょっと俺に優しい目をしてくれないか」


妹に冷たい目を向けられて喜ぶ趣味はないんで。


「こんな感じ?」

「もっと冷たくなったよありがとう」


桜は俺の言葉の真逆を実行する捻くれ女子なので、言うだけ無駄だった。


ウィィーン……


「結局どうする?」

「待って。人類の億の歴史を持ってして、私たちの競争の種目に困るなんてことはあり得ないよ蒼兄!ここはもうちょっと……」


ウィィーン……


そして先ほどから、何度もレンズをズームとアップを繰り返す音が聞こえてきた。こだわりすぎだろ。

すぐ近くを見ると、ビデオカメラを持って構えている人物が見えたので、俺は無視するつもりが、思わず注意してしまった。


「てか、さっきから何だよ!何撮ってんだ!」

「何って……」


ビデオから顔を覗かせたのは、我が家の長兄。

神宮紫貴である。

心外だなぁと言わんばかりで、さも当たり前のように微笑んだ。無駄にイケメンなのが、ムカつく。


「弟と妹の日常風景」

「何でぇ…?」


スマホならともかく、ビデオまで構えてる意味がちょっと……


「なに、自分が撮りたいと思った時の風景が、一番のキャンバスさ。日常が非日常に劣るなんて誰が決めたんだい?」

「それを踏まえて、本心は?」

「わぁぁ!俺の弟と妹が喧嘩してるぅー!かわいい!もぅ、何歳になっても変わらないなぁ!でも昔なら取っ組み合いの喧嘩してたのに今は大人になったんだねお兄ちゃんは感動だよ特に蒼がねスポーツ系の勝負を提案してこないあたりあーいいお兄ちゃんになったねぇ妹に配慮できて偉いよヨシヨシ桜も根っこでは蒼に意地悪しないでちゃんと話聞けて偉いねヨシヨシでもやっぱり2人じゃ決めきれないあたり兄貴の俺が必要なんだよねぇ、もぅ2人ともさぁ、少しは兄貴から自立したらどーかな?でもそんなとこがかわいいからしょうがないね!俺は全然構わないよ!よし勝負の内容は俺への愛をビデオ越しに叫ぶのはどうかな?でも俺2人とも大好きだから、引き分けになっちゃうな!どーしようか!」


「「………」」


俺と桜はドン引きしていた。

アイコンタクトもとらずに、俺たちはリビングの掃き出し窓を横にスライドして、ポイっと兄貴を外の中庭に放り投げた。

阿吽の呼吸で、桜が窓の鍵をしめて、俺がカーテンを閉めた。


俺たちは、何も見なかった。


「もう何か……うん、冷めたし、今日はいいわ」

「勝負は持ち越しにしよ」


ドンドンドンと叩かれている窓は無視して、俺たちはリビングを出て行った。


俺と妹が唯一協力するのは、昔からブラコンとシスコンの両属性を持つ手に負えない兄貴を対処する時である。


しかし、残念ながら1分もしないうちに問題の人は、玄関から普通に帰ってきた。

おまけにまったく反省せずに翌朝には俺の部屋に突撃ビデオをしてきたので、俺は自分の兄妹がまともになることを神に祈った。

特に、兄が。





そんなわけで、何のプランも立てられないまま、勝負の文化祭2日目が来てしまった……





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