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葛藤と兄の助言

校門を出て、夕方の道を歩く。

俺は小さく唸って、溜め息を吐いて、頭をかいた。


ーーー柚花と明日、文化祭を回ることになった。

俺の部活企画のシフトのない、明日の午前。

その約束になった。


……でも多分、これが最後のチャンスだ。

薄々気付いてる。

柚花が情けでくれただけだって。


彼女は、未練のある俺と違って、もうとっくに終わったつもりでいると……


「うーん、難しいねぇ。いい子すぎるのを彼女にもつのも、それはそれで上手く行かないわけだ」


もぐもぐと口を動かしながら、綿菓子を頬張っているイケメン大学生。

また女子高生からたっぷり貢がれたらしい、模擬店のフードを両手いっぱいに持っていた。


言うまでもなく、これは俺は兄貴である。


俺が校門を出た時からさらっとついてきて隣を歩いていた。つまり、今日は一人暮らしのマンションには帰らずに、実家に帰ってくるらしい。

おう、頼むからお酒入ってウェイウェイで母親と一緒にどんちゃん騒ぎしないでくれよ。俺今夜から明日にかけて人生かかってるからな?まじめに。


「………って、だから何で兄貴が柚花のこと知ってんの?会ったことないよな?」

「さあー?」


ニコニコ笑って、今度は鈴カステラを頬張る兄貴。俺の口にもねじこもうとしてきたが、丁重に断った。


本当に兄貴と柚花と会ったことはないはずなんだが……まるで柚花を知っているような口ぶりに、俺は首を傾げた。


「さて、弟。お兄ちゃんが、いいことを教えてあげよう」

「いやいいです」

「教え……」

「いい」

「教えてあげよう!」

「………なに」


物腰柔らかそうな見た目に反して、ゴリ押しされたので、ひとまず聞いてみることにする。


兄貴は満足そうに頷き、ピンと指を立てた。

ありがたーいお話を聞かせるかのように、神妙な顔つきで、兄貴は言った。


「あのな。蒼は好きになったら尽くしすぎるから、良くない。お前がフラれた原因はそこだよ」

「……はい?」


俺は目を瞬かせた。

いきなり何を言い出すんだこの兄貴、と面食らいつつ、俺はなんとかその言葉を噛み砕いた。


尽くしすぎる…?

え、どこが?


デートの下調べは毎度欠かさず、彼女の好きそうな店をピックアップし、彼女が好きだというゆるキャラのガチャをコンプし彼女がゲットできなかったというイベント限定グッズも入手し、好きなアーティストのライブの最前列のチケットを勝ち取り、柚花に喜んでもらうべく日々奔走する程度の俺のどこが尽くしすぎだと言うのだろうか?


皆んなこれくらいやってるだろ。


「はあ、弟が母さんに尽くしたがりな父さんそっくりで困る……」

「いやいや」


全然似てないから。あの愛妻家がゆえに仕事以外は引きこもりの父さんには負けるよ。


兄貴は、はあぁぁ〜っとデカい溜め息を吐いて、俺をひどく残念そうな目で見てきた。

ひょっとしてこの人に哀れまれてる、俺?

初めてじゃない?


「蒼。あのな、一方的じゃ駄目なんだ。ただ可愛がるだけなら、その辺の猫にしときなさい。そうじゃなくて双方向的に、自分のことをもっと曝け出して欲しい………柚花ちゃんがお前に言ってるのは、多分そういうことだよ」

「………曝け出す?」


俺は首を傾げた。

俺が自分のこと曝け出して、どうなるというのか。


「そんなことしたら面倒だろ。彼女のこと優先して、優しくする。女子はお姫様扱いされる方が、誰だって嬉しいだろ?」

「…………そうだね。蒼が柚花ちゃんと、浅い関係で居たいなら、それでいいけどね」

「は?」


俺は兄貴の挑発的な声に、思わず反発した。

何言ってんだ。

柚花と深い関係になりたいから、告白して恋人になったに決まってる。今もそう思ってるから、もう一度付き合うためにあれこれと画策して葛藤してるんじゃないか。


兄貴は紙袋の中の最後の鈴カステラを拾い上げて、それを長い指で小さく押す。

茶色のカステラの表面には、僅かに亀裂が走った。


「………蒼がその考えを改めない限り、明日もきっと上手くいかないよ」


兄貴はそんな風に言い放って、カステラを口に放った。









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