マゾがただの恋する乙女になってる…!?
現在、妹の桜に狙われた、友人の駿の救出のため、北棟の2階へと向かっている最中。
あのマゾ妹は、暴走したら何し出すか分からん!
俺は走って向かおうと思ったのだが、同盟相手の兄貴が何故かのほほんと歩いていた。しかも道中で家庭科部の女子に貰ったらしいマドレーヌをもぐもぐ食べていた。
先ほどから「きゃあ!?何このイケメン!神宮くんのお兄さん!?後で紹介してよ!」とかいう女子が続出している。当の本人は女好きのクズのくせに、興味なさそうな顔をしているのが、また腹立たしい。
本当は心の中で「女子高生ゲット。ラッキー」とか思ってんだろ、うわっ気持ち悪っ!!
「失礼だなぁ。僕がまるで節操なしの女好きみたいに言うじゃないか蒼」
「事実じゃねぇか!」
兄貴は特に気にした風でもなく、けらけら笑う。失礼な、とまた言うだけだった。俺は肩をすくめた。
「ったく、信じらんねぇ。もっと一途に生きろよ」
「父さんみたいなこと言うね。……最近彼女に振られた蒼くんー?」
「はあ!?アンタ、何でそんなこと知ってんだよ!?俺言ってないぞ!?」
柚花と付き合っていることはこの兄貴に話したが、別れたことは伝えていない。なのに何で知ってんの…?
「まあ、成り行きで」
「どんな成り行きだよ!」
「ちょっと悩んでた女の子の恋愛相談に乗ったんだよ。その子が言ってた。……ああ、彼女可愛かったね。その子に、蒼を彼氏に薦めたらフラれた。元カレが最高すぎたって。あはは、フラれてやんのー」
「勝手に弟薦めたうえに笑ってくるとか、どんな悪の所業だよほんとに……!」
とんだ兄貴を持ってしまったものである。
誰か交換しよ?顔とスペックはすこぶるいいこの悪魔、誰か貰ってくれない?
それで、俺には弟をいじめない普通の優しい兄貴を頂戴。
俺はいらいらしながら、兄貴の脛を蹴り上げた。が、見事にガードされて、ノーダメ。
またいらいらした。
「ほら、早く行くぞ兄貴!」
「そんなに焦らなくても」
「俺の友人の貞操の危機だっつてんだろ!?」
「駿くんは天然なんだろう?天然は意外と強いんだ」
「話噛み合ってねぇ!」
「いいや、噛み合ってるさ。蒼が理解出来てないだけ。もう少し本でも読んだら?」
「んがぁ、ムカつくぅぅ!!」
ここで反論できたらいいのに、兄貴は高校時代全国模試の首位を落ちたことがない真の天才だから、馬鹿にできない。俺の読解力が足りない、ということで片がついてしまう。
俺にも分かるように話せよ、このクソ兄貴がよ。
兄貴はマドレーヌを食べ終えて、悠然と歩き出す。遠くを指差した。
「あ、ほらアレだ、アレ」
「え、どこ……?」
「今日コンタクト忘れたの?」
「俺は裸眼1.5だわ!」
「あれ、マサイ族と一緒に鍛えたせいか……僕の目が3.0になっただけか。ごめんね蒼」
「いつの間にアンタはアフリカに…?」
たまにふらっと居なくなると思ったら、そういうことだったのか。
なまじこの兄貴ならありえてしまうのが、もっと恐ろしい。
一体何だよ、と悪態をついていると、兄貴が指差したものの正体が分かった。
遠くから見たせいで分からなかった。
駿だ。一応、兄貴も駿とは面識があるから、顔を覚えていたんだろう。
「おい、駿、無事か!?」
俺が駆け寄ると、駿は首を傾けた。俺が何故ここに居るのか、という疑問のありそうな顔をする。
「ん?ああ」
「反応、薄っ。え、あ、あの…何も無かったか…?拉致られたり、記憶が飛んでたりしてないか?」
「何を言ってるんだ?」
駿は不思議そうな顔をした。俺は、キョロキョロと辺りを見渡す。
「え、?じゃあ、あれ、うちのバカ妹はどこに…」
「あれ?お兄ちゃんたち…何か用?」
ひょっこりと、顔を出した桜。
手にはクレープが握られている。無事、文化祭を楽しんでるらしい。
うちのバカ妹こと、神宮桜だ。
何の意味があってなのか、金髪のウィッグまで被って、変装してやがった。顔がいいからフランス人形みたいで、似合ってるのがまたなんとも言い難い。
「何か用?じゃないんだよ!おい、俺の友人に変なことしてないだろうな?!」
「してないよー、紫貴兄じゃあるまいし!」
「え、僕に飛んでくるの、その流れ弾」
いつもニコニコの兄貴が、珍しく本気で嫌そうな顔をしていた。兄貴なりに、心外だったらしい。
まあ、コイツ、外面はいいもんな……。桜みたいに一応突っ走ったりはしないのだ。
桜は両手にクレープを持ったまま、首を横に振った。クレープの中身がちょっと揺れて、苺が飛び出した。
ぽっ、と桜は、白皙の頬を赤く染めた。
「とにかくっ、私、駿さんのこと、好きになっちゃったから。あ、ご主人様じゃなくて、普通に彼氏になって欲しいなって。沢山甘やかしてください…」
………はい?
俺は、目を丸くした。
対照的に兄貴は、「あー」という呆れたような笑みを浮かべつつ、さして驚いた様子はなかったらしい。
「僕の思った通りだ」
と、何故か手を叩いて、自分に酔いしれていた。
訳がわからん。
マゾが普通の乙女になってる……!?
テレビに映ってた、JKローファー足踏みされ大好きなアメリカ人が、罵倒されている姿に「いいなぁ♡」とか言って目をハートにさせてたうちの妹がぁ…!?
冷酷そうな素行の悪そうな男を見つけては、じゅるりとよだれ垂らしてちょっかいかけに行こうとして、俺が大体止めるまでがセットの、この妹がぁ…!??
ご主人様じゃなくて彼氏になって欲しい、だとぉぉー!?
俺はくらくらした頭を押さえた。
「え?え?え?嘘だろ、あのマゾ妹が……駿、一体何をしたんだ?どうやって懐柔したんだ…?」
「…いや、待ってくれ。この子は………ん?今何て…?」
駿が全然ピンと来てなさそうな顔を浮かべた。もしかしてコイツ、うちの妹だって気付かずに行動してたんじゃないだろうな……?
俺が桜から金髪ウィッグを奪うと、桜は「ちょっと蒼兄!いきなり何するのよ!」とボサボサになった自分の髪にお怒り。
駿はまた首を傾げて、ようやく合点が行ったように、「ああ…!」と口を押さえた。
「前に蒼の家にお邪魔した時に、紹介された妹さんか!桜ちゃんだ。すまん、今気付いた……変装上手いな」
「そおですかぁー♡桜上手っ?」
「ああ、全然気付かなかった」
「やったぁ〜」
メスと化している妹に、顔が引き攣る。身内のこんな姿、見たくなかったわぁ……。
てか、普通そこは気付いてもらえなくて、女子なら悲しむとこじゃないのか?
好きになったら何でもいいのか、コイツ。
俺がドン引きしている間に、兄貴は隣であははと笑っていた。そして、呑気に言った。
「これは、兄として見過ごせないなあ。そもそも桜に彼氏が出来るのは早いって話……」
「紫貴兄は黙ってて!」「今それどころじゃない兄貴」
下2人からのパンチを受けた兄貴は微笑む。
たく、空気読むスキルは人一倍あるんだから、空気読めこの兄貴はよ。
「おい桜。ちょっとこっち来い」
「ちょっとー!?私と駿さんのイチャイチャの逢瀬を邪魔しないでよぉー!」
「そんなのどこにも存在してないから、安心しろ妹」
俺は桜の首根っこを掴み、ずるずると階段下のスペースまで連れて行く。桜を床に座らせて、俺は腕を組んで、たっぷりと威圧。
「で?」
「で、って何?」
「お前、何隠してるの?」
はあ?と桜は、眉をひそめた。
「いや、隠してないけど。私、ほんっっとに改心したの!もう駿さんに普通に恋しちゃってるの!」
「そんな訳ないだろ!?あんのトチ狂ったマゾがよ!お前がヤバい男にしかちょっかいかけないせいで、俺が散々苦労させられてきたのを忘れてんのかお前は!?」
ヤリチンとか極道とか、表社会のやべー奴と裏社会のやべー奴を並一通り制覇してきたこの妹が、こんなに短時間で改心する訳がない!
桜は、うざったそうな顔を浮かべた。
「あー、はいはい。私が悪かったようお兄ちゃーん?ごめんなさーい。桜のこと許してぇ…?」
「ふっ。生憎と、上目遣いは柚花の特権なんでな。出直してこい我が妹」
「……ちっ!」
「性格出てんぞ」
これが素だろうがよ、この妹は。俺は知ってるかんな。騙されんぞ。
「はあ。何がどうなって、お前が改心するんだよ……」
「えー、つ、ま、り、私と駿さんの馴れ初め話が聞きたいんだ〜蒼兄ちゃんは〜?シスコンじゃーん、キモーい」
「桜ぁー?あはは〜、お前それ本気で言ってんなら、お前が今までちょっかいかけてきたヤバい男全員お前のもとに突撃させるぞ〜?」
あはは。
全員俺が返り討ちにして、弱味握ってるからな。呼び出せば、すーぐに来てくれるぞー?そもそもお前が蒔いた種なんだから、自分で処理しないといけないんだぞー?俺が善意でしてあげてたけど、もういいのかね?
桜は、ぶるっとした顔をした。
「や、やめてくださいっ!嘘です、冗談です!蒼兄はキモくありません!」
「当たり前だろうが」
マゾがただの恋する乙女になった理由をこっちは訊いてるだけなのに、何故キモいと言われなくちゃいかんのだ。
桜は頰を押さえて、くねくねと身体をよじらせた。気持ち悪っ!実妹、キッツ!可愛いけど、実妹はやっぱキツイ!共感性羞恥酷すぎる!
早くこのパートが終わることを祈ろ!
「あ、あのね……♡あのねぇ、駿さんたら、すっごい天然さんでね。桜のこと迷子だと思って、本部テントに連れて行って先生に呆れた顔されてーーーー」
「あの、そこら辺は飛ばしてくれ。興味ない」
「何でよう!!」
多分、聞きたい部分が含まれてなさそうなので、俺は2本の指を動かしてチョキチョキした。カットを依頼された桜は、大層不服そうな顔をした。
……てか、兄貴の推理マジで当たってんの。迷子のくだり、本当に当たってんのかよ。何だあの兄貴は、本当に。刑事にでもなれば。
「……で、本当に何があったんだよ?」
「あのね。桜ってすっごく可愛いでしょ?」
はいはい、可愛いね(棒)
「だから、学校で桜のことよく思ってない女子が何人か居てね?その人たちが、この文化祭に来ててたまたま鉢合わせたの」
「はぁ…!?ちょ、お前何でそういう大事なこと言わないんだよ!大丈夫だったか?」
桜はこんな好き勝手してるが、中学校ではまるで違うキャラだ。非常に大人しく、引っ込み思案な性格が前面に出ている。
自分から火種を撒きに行くタイプではないので、単純にその桜の容貌を目の敵にしている女子が居るということなのだろう。
初めて聞いたぞ、そんな大事なこと。
「大丈夫。実は、その時駿さんが、私のこと庇ってくれて。いや、あれはただの天然なのかな……?でもね、駿さんの天然っぷりについていけなくなった意地悪な女子たちが悔しそうに去って行くのが、すごくスカッとして」
桜が柔らかく微笑んだ。
「なのに、本人全然気付いてないの。何のフォローなのか、『君の笑顔って可愛い』とか言い出して。あんな真面目そうな見た目してぼけてる人、初めて見たぁ……ふふ」
俺は妹の心からの言葉と確かな変化を感じ取って、目を小さく見開く。
「蒼兄、誰かに恋するって……こんなに楽しいんだね」
「桜ーーーーー」
俺も微笑み返す。
ああ、ようやく分かってくれたか。
この妹がヤバい男にしか手を出さないせいで、心配をかけさせられてきた俺の苦労も、報われるというものだ。
「それでね蒼兄!スタンガンで拉致って、この後うちの家に駿さん連れて帰ろうと思うんだけど、蒼兄協力してくれない?」
「桜…………」
俺は、笑みを深めた。
そして、この頭のとち狂ったままの妹に、勢いよくヘッドロックした。
「おい、その腐った思考回路持ってんのに俺の友達にこれ以上近付くんじゃねーよ!このクソ妹ぉぉぉぉぉ!!!!」
「痛い痛い痛い痛い!!!ギブギブギブ!!!お兄ちゃんギブ!!!」
こっちは、ちょっと感動してたのに!!
俺の感動を返しやがれこの妹はよ!!
読んでくださってありがとうございます。
自分でも書いてて訳分からなくなった回なので、この回は無視してもらっても大丈夫です。
蒼の兄と妹がヤバいというニュアンスだけ感じ取ってくだされば。
駿サイドの短編は一応上げてるので、もし気になってくれる方が居たらそちらも作者のページから読んでみてください。
駄文ですみません。




