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美少女と美少女の邂逅

ESS部、写真部、文芸部……と、4階の南棟には文化系の部活が並んでいて、どこの部活も集客をしていた。いつもはひっそりとして往来の少ないこの場所だけど、文化祭の今日はかなり賑わっている。

私と日茉里ちゃんは気になった部活に入っていき、ゲームや鑑賞に興じていた。


もう階段は降りるという手前で、日茉里ちゃんが私の腕を引いた。


「柚花。……天文部、見て行かなくていいの?」


4階の南棟の地学室。

そこが、天文部の部室だ。


天文部は、蒼くんが部長を務める部活でもある。

日茉里ちゃんは私の蒼くんへの未練を知っているから、気を遣ってくれたんだと思う。


私は、首を左右に振った。

「ううん、いいの」


今の私には、蒼くんに合わせる顔がない。自分からお別れしておいて、彼が後輩の女の子と仲良くしている姿に嫉妬してしまう、そんな矛盾が消えてくれない。

おまけに、昼のステージで蒼くんを無視するような真似をしてしまった。


それは元恋人だから何だとかではなくて、同級生としてやってはいけないことで、彼をきっと傷つけてしまっただろう。

………面倒くさくって、こんな私が私は嫌だ。


やっぱり、蒼くんに合わせる顔がないのだ。


私が弱々しい笑みを浮かべていたからか、日茉里ちゃんは強いて私の腕をもう一度引っ張った。きゅ、と彼女が真っ直ぐとした目で、私を見る。


「でも、せっかくだし。クラスで言ってたけど、この時間は神宮君もシフト入ってなかったはずだから。神宮君には会わないで、作品だけでも見て行ったら?」

「………えっと。だ、だけど……」


日茉里ちゃんの言う通り、作品自体はすごく見たい。お付き合いしてた頃に、蒼くんは「今年の文化祭はプラネタリウムを作るんだ」って、楽しそうに話していたから。

彼がこの文化祭で作った作品を、この目で見たいーーーーというのも、私の紛れもない本心だ。


「文化祭終わったら、見れないんだよ?うちの高校って、クラス企画とか部活の作品は、全部破壊してその後は廃品回収行きじゃん」

「ひ、日茉里ちゃん……」


そんな残酷なことを、あっけらかんと言っちゃわないであげて……。


「で、柚花は見たいの?見たくないの?」

「それは……、み、見たいけど、でも」

「じゃあ見に行こっ!後で後悔するよりマシ!捨てられたらもう一生見れなくなるけど、今なら見れるんだよ」

「ひ、日茉里ちゃん…!?」


日茉里ちゃんが私の腕をがっちりと掴んで、私の前を足早に進んで行った。私は半ば引きずられるような体勢。


でも、私は一応自分の足で歩いていた。

………結局、誰かに背中を押してもらうの待ちだったんだと思う。

私って、本当に……面倒くさい性格をしてる。


天文部室には、すぐに着いた。

日茉里ちゃんは私の意思が変わらないうちにと、私とは違って勿論臆することなく、「お邪魔しまーす」と中に突入した。


シフトに入ってたらしい、天文部の女の子が席から立ち上がる。

あ、と声にこそ出さなかったものの、彼女と私の視線は、自然と重なった。


「い、いらっしゃいませ……!」


花園綺咲(きさき)ちゃん。

天文部のもう1人の部員であり、蒼くんにとっては唯一の部活仲間であり、後輩でもある。

色白で美脚の目立つ、ハーフツインの美少女さん。


そして……蒼くんと、多分今一番距離の近い女の子。

お似合いの2人だと、まことしやかに校内中で囁かれているのを、私は知っている。

私もそう思う。……私なんかよりも、ずっと可愛くて素直な、一緒に居て楽しい子。

男の子が彼女にしたいタイプって、こういう子なんだと思う。


私がぼうっとしている横で、私と綺咲ちゃんの間に横たわっているぎこちなさを知らない日茉里ちゃんは、綺咲ちゃんに笑顔で尋ねた。


「2人なんだけど、今入ってもいいですかー?」

「あ、ど、どうぞ!すぐに準備しますねっ」


綺咲ちゃんはダンボールのドームに近付き、カチカチッとスイッチのようなものを操作し出す。

私はその"プラネタリウム"を見て、思わず呟いた。

目を丸くする。


「……すごい。コレ、2人だけで?」


純粋な驚きだった。文化祭の準備期間をフル活用したとしても、目の前のこのプラネタリウムは、たった部員2人だけでは出来そうもないものだった。

装飾は丁寧だし、型は壮大で綺麗な半円。


蒼くんらしい、とは思ったけれど、蒼くんと綺咲ちゃんの「2人の」作品にそんな感想を抱くのは、あまりよろしくない。


「器用なんだね、綺咲ちゃん」

「えっ」


綺咲ちゃんは水をかけられた猫のように、びくん、と肩を跳ねさせた。目を見開いて、私の言葉に口を開けている。見ようによっては、萎縮させてしまったように思える姿だ。


私は思わず口走ってしまった自分の言葉を、慌てて弁明する。


「ご、ごめんなさい。馴れ馴れしく名前呼んだりして」

「あ、いえ……!それは全然嬉しいです!ありがとうございます柚花先輩!」


綺咲ちゃんは笑って、ぺこりと私に頭を下げた。彼女のハーフツインが揺れる。


……初めて話したけど、いい子だぁ。

あと、人間関係が不得手な私にとってしては、名前呼びされるというのは、それだけで相手に好感を抱いてしまうのだ。

こんな可愛い子に言われたら、なおさら。


「……あの、ゆ、柚花先輩」

「ん?」

「ごめんなさい!!」

「……えっ」


綺咲ちゃんは私に向かって、勢いよく頭を下げた。ごめんなさい、と彼女が繰り返す。

私は咄嗟のことで驚いたし、私の隣に居た日茉里ちゃんも不思議そうに綺咲ちゃんを見ていた。


他にお客さんが居なかったのが、幸いだった。こんな可愛い子に頭を下げさせている私の姿を大勢に見られなくて、本当に良かった。

寧ろ、私がごめんなさいしたくなった。


「き、綺咲ちゃん、顔を上げてっ?一体どうしたの?ごめんね、私が何かしちゃったかな…?」

「ええ!?」


綺咲ちゃんは驚いた声を出した。私が首を捻ると、綺咲ちゃんは「超がつくお人好し…!」と私の顔を見たまま、固まった。


だけど綺咲ちゃんは表情を戻して、今度は泣き出しそうな顔を浮かべた。


「私、ずっと柚花先輩に謝りたかったんです。2人が別れたの知って、私チャンスだと思って……教室とか、あと、他の場所でも。柚花先輩の前で、蒼……神宮先輩に露骨なアピールして、2人の仲を邪魔してしまったから……」


そういえば…?


クラス企画の準備中に、蒼くんを買い出しデートに誘っていた綺咲ちゃんの姿を、私は思い出した。「デートですね」「デートじゃない」というやり取りを2人でしていた、確か。


「ごめんなさい…!」

「えっ。綺咲ちゃんが謝るところ、どこにもないよ…?」


まだ別れたばかりだったから、蒼くんにやはり未練のあった私がショックを受けたのは、否定しないけど、でも………。


私は元カノなのだ。もう、蒼くんの恋人じゃない。

彼が他の女の子にアプローチされてるからって、私が口をはさむ権利はないし、そんなつもりは毛頭なかった。


2人の関係に嫉妬しているのは、否定出来ない。でも、私は綺咲ちゃん本人に嫌な気持ちは何も抱いていない。


付き合っている頃から、綺咲ちゃんが蒼くんに恋してるのは知っていた。唯一の後輩だし、蒼くんも綺咲ちゃんには他の女の子とはまた違った特別な信頼を置いてるのも、知っていた。


でも、それで蒼くんと拗れたことはなかった。


蒼くん本人が私に心配させる要素がないように取り払っていたのも勿論だけどーーーーーでも、それは一方的ではなく、双方的なものだった。


綺咲ちゃんは、蒼くんに彼女が居るのを知っていて、自分の恋心を表立って出すようなことはしなかったし、私に明らかに気を遣っていた。

それに甘えていた私の方が、申し訳なかったくらい。


そんないい子すぎる彼女が、別れた途端に蒼くんにアプローチしたからって、寧ろ当然の権利だと思う。

好きな人にアタックすることをーーーそれも恋人の居ない相手にーーー誰も非難したりしないだろう。


綺咲ちゃんが謝る理由なんて、本当にどこにもないのだ。


「綺咲ちゃん。あの、蒼くんから聞いてると思うけれど、私、蒼くんとはお別れしてあるの。だから、私に気を遣う必要も、謝る理由も、ないんだよ…?」

「そんなことないです………っ!だ、だって、蒼先輩は、柚花先輩のことをまだ……!それなのに、私」

「もう、そんなことはないと思うんだ。だって、蒼くんのこと避けちゃってるし、今日なんか蒼くんのこと無視しちゃって」


文化祭が始まる前までは、多分…蒼くんは私と復縁したいという意向があったと思う。


でも、もうそれも終わりじゃないかな。

私って、面倒くさいの。

蒼くんはどうしてかそれに付き合おうとするけど、そろそろ愛想が尽きた頃じゃないかな。


「綺咲ちゃん、本当に私のことは気にしないでね……なんて言ったら、余計に気を遣わせちゃうかな。ごめんね、私こういうの初めてだから、貴方に上手い言葉をかけてあげられないけど……」

「何で、もっと嫌な人になってくれないんですか柚花先輩……。こんなの、こんなの、私の性格の悪さがますます目立つだけじゃないですか……っ!」

「ええっ。綺咲ちゃんは、とってもいい子です」

「本気で言ってるんですかそれ!?」


もちろん、本気だ。

綺咲ちゃんはいい子だし、いい子すぎて元カノの私に対して負い目を感じる。性格の悪い子はね、そんなことしません。

これでも私、あのモテモテ蒼くんの彼女をつとめていたからね。性格の悪い女の子は、それなりに知ってます。目が合うだけで、舌打ちされたことあった。ひどい。


私は手を合わせる。出来る限り、無害な笑みを心掛けた。


「それより、蒼くんが帰ってくる前にプラネタリウム見せて欲しいな〜」

「蒼先輩、ちょっと出掛けてるだけですから。全力で引き止めます。それでお2人を鉢合わせさせて、文化祭デートさせます!」

「気まずいから、やだなあ」

「蒼……じゃない、神宮先輩、泣きますよそんなこと柚花先輩に言われたら」

「蒼先輩、って呼ばないの?」

「自分への戒めなので、いいんです」


そんなこと言われると、私の存在が申し訳なくなってきた。綺咲ちゃんに常に気を遣わせる私の存在が、もはや罪なのでは………?


「ちょっと、柚花。よく分かんないけど、プラネタリウム見ないの?」

「あっ、み、見る……!」


私と綺咲ちゃんの会話を見守っていた日茉里ちゃんが私の制服の袖を引っ張って誘う。私は慌てて頷いて、自分の本来の目的を思い出した。


そうだ、プラネタリウム見に来たんだった。


私と日茉里ちゃんがダンボールのドームへと消える前に、綺咲ちゃんが私の背に語りかけた。


「柚花先輩。先輩は優しいからそう言ってくれますけど……でもやっぱり、私がお2人の邪魔をしたのは事実ですから。気が変わったら、いくらでも責めてください」

「邪魔なんか……」

「してますよ。柚花先輩だって、そのせいで神宮先輩からの文化祭デートのお誘いを断ったんでしょう…?」


ああ。

どうして綺咲ちゃんがここまで執拗に気にしてるのか、やっと分かった。


彼女は自分のせいで、私が蒼くんの誘いを断ったと思ったのだろう。


私は、微笑んだ。それが綺咲ちゃんを安心させるための笑みだったのか、ただの自嘲だったのかは、分からない。


「……ううん。綺咲ちゃんのせいじゃない。それはね、私自身の問題で、私と蒼くんがお別れした理由」



私は、面倒くさい私が嫌い。


そして、お付き合いしていた頃の蒼くんのことはーーーーー誰よりも大好きで、時々嫌になった。


「完璧すぎる」彼が、嫌だった。


彼には、言えない。


久しぶりの投稿でした。訳分からなかったら、すみません。


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