妹の狙いを察してしまった、ああ本当嫌だ!
結局、柚花に話しかけるタイミングを逃したまま、家に帰ってきてしまった。
文化祭の件とか、話したかったんだけどな。
今日の夕食は、キノコ三種のチーズグラタンだった。
キノコは俺はあんまり好きじゃないんですが、残さず食べたという当たり前の報告をここにしておきます。
夕食を終えてリビングで寛いでいると、妹の桜が
「ねえ」と話しかけてきた。
俺はテレビから視線を離した。
妹の桜は、美人な母さんとイケメンの父さんの良いところどりの造形。
美貌の遺伝子を掛け合わせたらどんなに素晴らしいことが起きるかを、この妹は生きているだけで証明している。
ちなみに兄は母さん似、俺は父さん似である。
兄も妹に劣らずとんでもなく華やかなイケメンなのだが。
それにしても珍しい。
父さんに似て口数の少ないこのクーデレ娘が俺に自分から話かけてくるとは。
「蒼兄の高校、今度文化祭あるよね。蒼兄を見に行きたいから、当日に会える時間、教えて」
桜は無駄なことが嫌いなので、すぱっと本題から入った。俺としてはありがたい限りである。めったに表情が変わらないこの妹に話を遠回りされても、俺は察せない自信がある。
兄なら言葉なしでも通じるかもしれんが。アイツは変態なので、例外だ。
「当日は大体、天文部の方に居るぞ。人手不足なんでな」
そう。魅力に溢れてるのに、部員が2人しかいない弱小部活なんだ。しくしく。
しかし、俺を見に行きたいなんて、そんなことあるか?今年で高校の文化祭は2回目だが、去年はそんなこと言っていなかったし、桜はそんなタイプじゃない。
俺たちはお互いにあまり興味のない、さらっとした兄妹だと思ってる。
これは、何か狙いが別にあるな?
「そっか、天文部。…確かクラス企画ってのもあるよね。蒼兄、クラスの方のシフトには入らないの?」
「ああ、あんまり」
何故、俺がクラスのシフトに入らないのを気にしてるのか。
つまり、俺のクラスに桜の狙いはあると。
「部活の方にずっと入ってる感じ?じゃあ当日も友達とかとあまり校内を回らないんだ?」
「そうだな、アイツらも別の奴らと回るんじゃないか?」
アイツらというのは、いつものメンバー、駿と宙、祐介のことだ。去年は一緒に文化祭を回った。
しかし、今年は回ろうという話はしていない。
駿は生徒会の副会長で当日も忙しいみたいだからな。祐介と駿もカルチャーステージでバンドやるんだとか。本当かは知らんが。
予定を合わせるのは難しそうだ。
「ふうん…」
声の起伏の少ない桜だが、今のは、兄の俺には分かった。
この娘、明らかに落胆している。
何だ?俺がアイツらと回らないことに何故桜が落ち込む?
俺と会えれば、自動的にアイツらとも会えるのを期待していた、とか?
桜は、アイツらと面識がある。一度我が家に招いたときに、たまたま桜もその場に鉢合わせたからだ。流れで妹だと紹介した。
総合すると、この娘は俺の友人が狙いなのか?
しかも俺のクラスを気にしていたから、桜の狙いは俺と同じクラスで友人の、駿か宙の二択になる。他クラスの祐介は、除外だ。
だけど、宙みたいな女慣れしているタイプは桜の好みじゃないな。寧ろ苦手なんじゃないか。
と、なると。
桜の狙いは、もう1人しかいないのである。
黒髪の硬派。
思えば駿は、コイツのどタイプじゃないか。
はあ、できれば分かりたくなかった…
しかし、俺の友人がこの妹の毒牙にかかろうとしているかもしれないのに、黙っておくわけにはいかないな。
「ーーーー1つ言っておくが。
駿はノーマルだからな?冷たそうに見えるが、優しい奴だぞ。まったく、お前の大好物のサドじゃないからな?勘違いするなよ?」
とても兄妹の会話じゃない。
しかし、コイツにはこれが正解である。
無表情な桜の眉が、ぴくっと動いた。
「流石、蒼兄。私、何も言ってないのに、もうわかっちゃったの?」
「ああ」
悲しき兄妹の性である。
それもこれも、コイツの性癖がぶっ壊れてて、しかもそれを俺が偶然にも過去知ってしまったせいである。
ちなみに俺と父さん以外の家族は、全員性癖がぶっ壊れてるが、言いたくもない。
「わかったか、桜。俺の友人に手を出すなよ?ご主人様探しは、よそでやれ」
「……」
桜は黙ったままだ。無の瞳を俺に向けている。
ここまで釘を打っておけば、コイツも引き下がるだろう。
ーーーーなどと、思った俺が甘かった!
「ふふふふ、嫌だ〜♡っ、ひと月前お会いしてから、桜のご主人様候補はもう駿様しかいないの!もうあの冷たい目がたまらないのぉ!はあ、駿様っ、桜、絶対に会いに行くからね!待っててね…♡」
「来るんじゃあねぇぇぇよぅぅっっ、くそ妹ぉ!何で俺の友人、わざわざ選ぶんだよ、俺を巻き込むなぁ!」
こんな妹のアホ面晒したら、ドン引きした駿に俺まで友人やめられるだろうが!
あんな面倒見良い奴、なかなか居ないんだぞ!?
これが宙なら喜んで差し出してやるのに!
「駄目、駄目♡絶対行くからっ〜蒼兄に桜が止められるわけないじゃーん!絶対、駿様のこと堕とすんだぁ♡それで、桜のご主人様になってもらうの〜」
「上等だよ、こら!絶対お前の計画阻止やるからな!!」
「え〜♡蒼兄にできるのカナ?」
最大級に俺を煽りまくる妹に、俺はぷちんと頭の血管が切れた。
絶対、やってやる…!!!
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「おい駿!!文化祭の当日絶対1人になるなよ!?暗がりには近付くな!!防犯ブザー持ってとけ!!美少女に騙されるなよ!!!」
『………?急に電話をしてきたと思ったら……。どうした?何言ってるんだ蒼。文化祭にそんな危険あるわけないだろ。俺は男だぞ、まして小学生じゃあるまいし……』
「油断してると、頭の中空っぽにされて、恐ろしいことになるぞ……!と、とにかく防犯ブザーはマストだ!!携帯しておくように!!美少女に抱きつかれたら蹴飛ばせ!!」
『女子にそんな乱暴できるわけないだろ……』
「いや、蹴飛ばしちゃ駄目だな!!?寧ろご褒美だと喜ばれる可能性が……!!相手の意識を奪う方法を身に付けておくように!!』
『…だから、さっきから何を言ってる?』
怪訝そうにする駿を説得し、なんとか当日防犯ブザーを持たせるのに同意させることができた蒼だった。




