絶対別れたくないという彼氏の主張
完璧すぎて、俺と別れたい?
そんな馬鹿な話があってたまるか。
俺は至って完璧じゃない。周りに散々やっかまれるため、顔はそれほど悪くないと自負しているが、身長は高くないし、つまりスタイルは良くない。地頭は悪くて頑張って暗記しても、すぐに馬鹿みたいにするすると頭から抜け落ちる。運動神経も友人たちの中じゃ、一番劣る。手先も器用じゃない。唯一自慢できるのは、しぶとさくらいだ。
「俺は完璧なんかじゃない」
「…あのね、蒼くん。蒼くんがめちゃくちゃストイックで、行き過ぎた完璧主義者のうえ、理想が高すぎて正当に自分を評価できてないのは知ってるよ。でも、その…そこを今だけは正してもらえないかな…?話が進行しないので…」
「俺も知ってる。柚花は俺への評価がちょっと色眼鏡かかってるんだ。ぜひとも補正してほしい。そして、俺が完璧じゃないとわかって、別れるという言葉を取り下げて欲しいな」
「お願いだから、納得してもらえないかな…!?蒼くんが完璧すぎて、私彼女を続けられる自信がないの!」
「嫌だ!」
「うう、蒼くん…!」
揺るがない俺の意志に、柚花は眉を下げてほとほと困った顔をつくった。
「俺は柚花が何においてもよくできた子だから、それに釣り合うように頑張ってるんだ。その不安を抱くのは、俺であって君じゃないと思う!てか、仮に俺が完璧ならそれでいいじゃないか!その方が普通彼女側は嬉しい筈だろ!」
「嬉しいけど、完璧だったら、その分彼女は苦労するんだよ…!」
「うう、それじゃあ俺も納得いかない!その理由で別れたいと思ってるなら、俺は絶対君と別れることを認めないからな!?」
柚花と付き合うまでに、俺は様々な試練を乗り越えてきた。同級生、先輩たちとの蹴散らし合い、彼女の父親の信頼の獲得、理性の研鑽。
やっと、君と付き合えたのに。
見苦しいのは重々承知で、まだ余地があるなら俺は柚花の意思を変えてみせたい。
だから…
「別れたくない」
「あ、蒼くんっ!カップルは一方が別れたいって思ったら、別れられるんだよ!双方の意思じゃないんだよ…!」
「う…っ!」
「蒼くんの彼女でいれたこと、本当に夢みたいだった。楽しかったの。でも…ごめんなさい。私と別れてください…」
「……」
このとき、嫌だ嫌だ嫌だ!と子供みたいに俺が心の中でごねまくっていたことは、一生彼女は知らないであろうに違いなかった。