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同級生が学園に潜入している問題〜瞳に写さないで〜

作者: リーシャ

私が彼を初めてみたのは魔法科のある小学生の頃だった。 


同級生という間柄だが、彼は多分私なんて認識してなかったと思う。


どこにでも居る娘で、居ても居なくても影響を与えないのが私。


それなのに、学園の保険医の補佐という仕事をしていたら何故か同級生の子が生徒として通っていたなんていうおっかなびっくりな事があった。


今どき流行り??のなにか?


なんで制服なんて着て、学園生活??


魔法科高校だから大人でも通えるが、変だなと思ったのは彼が5つサバをよんでいて、19歳だと自己申告していたから。


先生たちも生徒の年齢なんて些細なことなので気にしないからと言っても、既に二十歳を超えた年齢を偽ってまで過ごそうとするそのメンタルはびっくりだ。


彼はダリウス。


本名なんだなとそこは素直である。


学び直しなのかな。


プライベートっぽいし、私も大人として、人としてシラナイ振りをした。


学び直しだとしたら年上すぎるからと周りも気を使うから、そう偽ったのだと自分は本気で信じていた。


それに暗雲が訪れたのは、生徒が次々と事件に巻き込まれるという不可解な事が起こっていたから。


なんせ、こちらはちゃんとした先生ではないから端折られていたに違いない。


そうした変化で学園に来る生徒たちが、ガクッと激減した。


そんな人の気配が薄くなった時間に、彼は現れた。


「ちょっといいか」


「!──ああ、はい、なんでしょう」


疑問ひしめく生徒、エルアナ。


「いきなりだが、おれのこと、知ってるよな」


質問と確信が半分というところか。


「新入生のエルアナさんね。女子生徒たちの話題に良く上がるから名前とかは」


「そうじゃなくてな」


変に緊張している彼はもごもごと言いにくそうに告げる。


「同じ学園に通っていただろ」


「うーん。どう答えれば正解なんだろう。ワタシもれっきとした社会人だなら……人のプライベートに入れ込んだりするのは出来ないの」


言いたいことはわかるんだけど、私に先に言わせようとするのはとてもズルい行為では?


「あー、悪い。そうだな。お前もおれと同じだ。かなり失礼過ぎたか。そうだ。おれはお前と同級生だったダリウスだ。知ってて黙ってくれていた事に感謝したい」


「感謝することじゃない。別にエルアナさんじゃなくても同じ対応をしていたし」


「そうか。お前を見たときはもう終いかと警戒していたが、誰からもなにも聞かないから安心した」


「そう?私は人の人生に興味がないから」


だれかのなにかを知ったとして、なんとも。


例えば彼が骨折しても、しなくても、きっと話題にしない。


「私に今頃話しかけてきたのは?」


「知りたいことがある」


「失踪した生徒たちの情報?」


「そう、だ。良くわかったな」


「私と会っても、なんの対応もしないくらいの事情でここに通ってたんだと思ったら、無関係でもなさそうだし。これ、はい」


茶色い封筒を出せばついに彼は絶句した。


「もう手に入れていたのか!?」


「いいや?落ちてたから拾った。貴方が交番に届けておいて。私はまだ仕事があるから」


「一体この数年の間になにがあった?昔はこんな大胆な真似」


「それはお互い様」


これ以上話すことはないと、封筒を押し付けて備品の整理を再開した。


相手は諦めたのか居なくなった。


夕焼けのキツイ廊下はやけに眩しくて、怖かった。




事件は封筒を渡した2週間後に、生徒達が見つかったことにより解决した。


倉庫にずっと監禁されていたらしい。


無傷だという話を聞いていて、学園も一安心。


生徒たちは何故かその間の記憶がないという。


それは幸運だ。


その5日後、彼はまたタイミング良く保健室へ来た。


「聞いてもいいか」


「保健の先生なら」


「オマエのこと」


「ワタシ?」


「ああ」


聞きにくそうに聞いてくる。


ふふ、面白い。


「一体いつから、壊れている?」


確信をついた質問にニコリと笑う。


「壊れているっていうのは少し違う。壊れかけていたけど、今はかなり修復された、かな」


「修復。ということは」


「ん?別にかつての自分を重ねていたりもしないよ。なんせ、逆だもの」


「逆か……話す気はないんだな。聞く権利はおれにもないしな。話さなくていい」


「話さないよ。誰かに話すつもりはない」


「そうか。ところで、表彰候補にお前が入っているんだが、受けるか?」


「まぁ!ふふ!受けないよ。どんな顔をして受け取ればいいのか」


機密のものを渡したようなものだ。


いや、あれは落ちていたから拾っただけだ。


「受けない代わりに、おれと食べに行かないか。奢る」


「それもだめだめ。生徒となんてスキャンダルだから」


「ああ。それなら気にしなくていい。もう辞めるからな」


「そう」


少し間が開く。


ダリウスは気まずくなった。


「感謝しているのなら、私のことなんて忘れて。貴方にとっては有象無象の一人として、記憶の底に押し込めばいい」


「それが願いなら」


彼はさみしげに顔を俯かせる。


「エルアナさん。さようなら」


「ああ」


彼は学園を転校した。


正確には転校ではなく退学に近い。


「半年」


あの事件から約半年経過し、生徒たちの会話にもあまり上がらなくなった。


「みんな、結局なにかのイベント扱いなのよね」


わたしのときも、そうだった。


──コンコン


ドアノックに振り向く。


「今度は国家公務員かしら」


薄く微笑むと彼はニヤリと笑う。


制服とは似ても似つかない格好。


スマートだった。


制服を着ているときは子供らしさがあったが、ピシッとしたスーツに身を包むと途端に大人の色気が漏れ出ていた。


「国家公務員とは嫌に的確だ」


「そうかな?エルアナさんのやり方はドラマみたいで分かりやすかった」


「それはそうだな。次から気をつけないとな」


「で、半年も会ってなかったのに何用?」


今更本当の姿を見せるなんておかしな事だ。


「約束を果たしにきた」


「約束?した?」


「あぁ。奢るとな」


「断ったけれど」


「お礼というより、おれが個人的に誘いに来た」


「アプローチを変えてきたの。ふうん。いいわ」


「退屈させない」


「別に退屈でも、誰かと食べるだけで最高の時間になる」


断っても良かったんだけど、どうにも考えが弱り断り切れず、彼と外へ行く約束する。


どうして自分は嫌と言えなかったのか。


一度断れたのならその後断れた筈なのに。


疲れていたのかもね。


自分の学園の生徒という蚊帳の外な事があったとはいえ、非日常は通常、ストレスがかかる。


今も吹奏楽部のトランペットが耳に残っているかのように聞こえてきた。


夕日はやはり眩しくて怖い。


食事に約束通り連れて行かれた。


彼は景色の綺麗なレストランを選んだらしく、無駄に高い階層までエレベーターは2人を楽々と運ぶ。


エレベーターに乗っている時、自分の足が地についていない気持ちになるのは浮遊感だけではないのを知っている。


別世界に連れて行かれそうという感覚。


「もっと手軽が良かったか?」


話しかけられていると気付き、首を横に振る。



「この時間が早く終わるんなら、どこでも構わない」


やけに寂しい言い方をする、とダリウスは目を下げる。


「誰もに話してないから不安にならなくても、今後も誰かに任務の事とか話さないよ」


「そんなつもりはない」


「そう」


興味がまだなさそうな女を見て、そういえば笑うのを見たことがなかったなと思い至る。


影の功労者とまで言えるのに、ちっとも嬉しそうでないし、誇らしげにもしない。


普通は自慢したくなるのに、そういった事を言っているふうではない。


「この魚、美味いだろ」


「美味しい?ええ、美味しい」


言われてやっと美味しいと口に出る様子に、催促したわけじゃないんだがなと、内心困惑。


「お礼なんだが、なにか気に触ったのか」


「いいえ。特に良くも悪くもない」


「そうか。あの学園にはもう長いのか」


「ちょっと考えたことはないから、実感ははないけど短いんじゃないかな」


「運良くお前が居て、スムーズに事を進められた」


「私は貴方がこちらを知っていたことに驚いた」


「そうか?同じ学年だろ」


「目立つ方じゃなかったもの」


「目立つ目立たないは顔を覚えるのに関係ない」


「私は出来たら覚えていてほしくなかった」


悲しげに告げる女は食べていた手を止めない。


まるでクールさを装っているようで、ダリウスはどうにか心を溶かしたいと思った。


「いい考えがある。次の休みに映画を見に行かないか」


「……お礼は今日で終わらないの?」


「おれ個人の誘いだ」


「変な人。私の知っている貴方はもっと人に興味なんて無さそうだったのに」


「思春期だっただけだ」



思春期だと割り切る人は初めて。


少しどころか、かなり変化したのでは。


私は何一つ変わっていないのに、と自虐的な事を思う。


「エルアナさんはこんなふうに油を売っていていいの?」


「そろそろ名前で呼んでいいぞ」


「それは、お断りしておく」


「どうしてだ?」


「親しくしたくないの」


「強制しない。おれが無理矢理誘っただけだ」


「今日以降、私のことは忘れてね」


彼女は儚く目を柔らかくした。



あの日の目が忘れられない。


あの日だけではない。


ずっとそう。


彼女は己を目立たぬ存在と決めつけていた。


しかし、ダリウスはかなりの頻度で追っていた。


つい、目が離れなくて。


自分が目をかけたりすると相手は、自ずと周りを気にすることを知っていた。


見ると安心した。


「好き」


「あ?」


一番の古い付き合いである腐れ縁達と話していたら、そんな無縁な言葉が聞こえてきて目を瞬かせる。


「なんつった」


「ひい、怒らんで下さい」


「は?どこも怒ってねェだろ」


「ベラ、言葉をもう少し選べよ」


ハリスにパスされて彼は鼻を摩る。


「だから、その、あー、気になるってそとは少なくとも好意を感じてるって事ですよね」


「おれがか?んなことあるか」


「そんなことあるんじゃ」


「は?」


やっぱ怒ったよなと2人はコソコソしている。


「好きだの好意だの、思春期じゃないぞこっちは」


「うーん、聞いてると思春期前から好きで、今も忘れられてないってことなのでは」


指摘されて枝豆をベラに向けて発射し、ピシッと相手の鼻先に飛ぶ。


「うご。豆はやめてくださいよお」


「で、彼女に次の予約をしたんですよね」


「一応」


「ん?一応?」


「もう構うなと拒否された」


2人は途端に気まずい顔を浮かべて、聞かなきゃ良かったとコチラを見る。


「もう辞めたらどうだ」


「もう少し会いたい」


「「会いたい!」」


「突然叫ぶな。煩い」


「いやあ、ダリウスさんにも春がね」


「春だぁ?適当な事を触れ回るな。口は災いの元ってこと、学園で習ってなかったのか」


「最近まで行ってた人は一味違うな」


潜入の事を言われて鼻で蹴散らす。


「あれはかなりだるかった。二度としたくない」


「どうします、かつての学園の同級生に声をかけられたら」


「他人の空似で通す」


「人気者だったらしいな」


「やめろ、人気者に価値なんて大人にはない」


歳下であり、まだまだ子供の学生にわらわらと集まって話しかけられるのは非常に面倒で、仕事を考えれば邪魔されているとしか思えなかった。


笑顔なんて一滴も浮かべてないというのに、何故か嬉しそうに話しかけられて驚いた。


本当の学生時代のときは無表情でいたら近付く奴らはかなり減ったんだがな。


なにが違うというのだろう。


「特に態度は変えたつもりはないんだがな」


「雰囲気がまーるくなったんでしょ。それか、世渡りがうまくなったかな」


「一理あるぞ」


「それよりも、だ。例の件は無事処理したか」


「ええ」


ダリウスが関与した解决事件。


関与した事を隠したくて、二人と話を詰めているのだ。


「残すなよ。同じようなことをさせられるのは嫌だからな」


「様になってたのにぃ」


「絞られたいか?ん?」


ゴゴゴーとダリウスの威圧感が2人を襲う。


「絞られたくはないです!」


「子供なようだと言われているようで気分が悪い」


「尖りすぎでしょうそれは」


「お前らも同じことしてみろ。辟易するさ」


「おれは女子高生に囲まれてチヤホヤされたい」


「逮捕されろ」


「う」


冷凍視線を受けて男はヒヤッとする。


「でも、保険医といい仲になるなんてすみにおけませんよね」


「補佐だ、いや、雑用係か」


「彼女、なんか隠してません?」


ハリスの指摘にダリウスは目を細める。


「凄く先回りして資料とか用意してたんだよな。うーん、普通じゃない」


「それで仕事が進んだ。有り難いなんてレベルじゃなかったぞ。それに、互いにリスクを負った」


「いやまあ、そうなんだけどなあ。なーんか、整い過ぎ?」


「あー、もしかして、敵でしたっていうオチ?」


「おう。だって、事件が起きた学園に居たしな。順番が逆だったか?」


ベラとハリスが、ミステリーの見過ぎな様子である見解に、額がぴきりと鳴る。


「いい加減にしろ!」


ダリウスのドスのきいた声に二人は肩を震わせる。


ヤバっと声を揃えて汗を流す。


「どいつもこいつも疑っていたらキリがないだろ。そう言うなら、アイツ以外に、内通者が居ても可笑しくない事件だ。なんせ、生徒たちの情報が漏洩しているから誘拐される。お前らだって捜査したから内情は知ってるだろ」


彼に嗜められてしゅんとなる一同。


「似た経験をしていたから、備えていたのかもしれない」


「へ?似た経験を?」


「被害者だった」


「被害者って?……まさか」


二人は嫌な感覚に背筋がゾッとする。


「おいおい、被害者?誘拐の?」


「知りたきゃ自分たちでやれよ」


ダリウスはそれ以上言うことはなく、酒をグイッと煽った。


ベラたちはそれ以上空気を悪くしないように静かになった。


後日、ダリウスがお礼として小さなクッキーを持ってきたので有り難く貰うことにした。


なぜなら甘いものは好きだし、断る理由も特にない。


「喜んでもらえてなによりだ」


「知ってたんでしょうどうせ」


「まぁな」


ダリウスは得意げに笑う。


「もう会うことはないけどごきげんよう」


「何を言っている?また会いに来るぞ」


え?と目がぱちぱちとなる。


気づいた時には彼は消えていて、うまく飲み込めないまま、唖然とするしかない。


その関係が今後も続く事を知らず私はどういう意味なのか首を仕切に傾ける他なかった。


これは彼との出会いから、全てのきっかけのプロローグである。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

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