第7話 来訪者
「こんにちは!吉太!」
翌日、私は学校終わりに真っ直ぐ本屋へときた。もちろんクロノアも一緒に。
「いらっしゃい、待ってたよ」
中へと通され、今日もお茶会を始める....予定だった。
「吉太、何これ?」
テーブルの上には“書店 裏屋”と書かれた看板が置いてあった。
《これは書店の看板です》
「それは知ってる。そうじゃなくてどうして看板??」
「あぁ、前に飾ってあった看板が劣化して外れてしまってからずっと付けてなかったんじゃ。だから新しい看板を注文して届いたんじゃが、わしはこの通り、歳でつけれなくてのぅ〜」
吉太は自分の腰をトントンと叩く。
今更ながら私が遊んでいた時よりもご高齢になった吉太。違和感が絶えない。
「看板くらいなら私が飾るよ」
「それは助かるのぉ〜」
私は看板を持って外に出る。近くに置いてあった釘とハンマーを手に持ってハシゴを店の前にかける。そしてハシゴを登り看板を釘で打っていく。
「釘って滅多に使わないから上手くできないや.......クロノア、上手に釘を打つ方法を教えて?」
《承知しました。釘を指で軽くつまみ、最初の1〜2回は弱い力でトントンと叩いてください。釘は木目と平行に打つと割れやすいので、木目に対して少し斜め・または垂直気味に打ち込むと割れにくく綺麗に入ります。ハンマーは振りかぶらずに“落とす”感じです》
「OK!ありがとう!!」
私はクロノアに言われた通りに看板に釘を打ちつけていく。時間はかかってしまったが、綺麗な看板を飾ることができた。
「ふぅ〜こんなんでいいんじゃない?」
《マスター。若干看板が曲がっています》
「クロノア!!細かいことは気にしない!!早く戻ろう!!」
早くお菓子が食べたいんだ!!
私は釘とハンマー、ハシゴを元の位置に戻して店へ入る。もちろんクロノアのことは完全無視!!
「吉太〜終わったよ〜」
「おぉ〜おかげで助かったわい」
吉太はテーブルにお菓子とお茶を用意して待っていてくれた。私は急いで椅子に座ってお菓子をパクッと口に入れる。
「ん〜!やっぱりお菓子は美味しいな〜」
「真日奈がそうやって食べてくれるとわしも嬉しいわ」
そう言って吉太もお菓子を食べる。
《しかし吉太郎様、マスターは看板を若干斜めに設置していました》
「クロノアっ!!余計なことは言わないでってずっと言ってるよね!?」
《いえ、余計なことではありません。事実です》
私とクロノアは画面越しにジリジリと火花を散らしていた。
「クロノア、いいんじゃよ。若干斜めだろうがわしは完璧を求めていないからのぉ」
「ほら〜?私の言った通りでしょ?」
《.........》
完全にいじけてしまったクロノア。呼んでも返答はない。たまには大人しくしていなさい!
「そういえば吉太はなんで書店をやってるの?クロノアの情報だと就職したって言ってたけど」
「もちろん最初は就職したさ。けどいろいろあっての今は小さな書店を開いてるものよ。本に囲まれて静かな生活ができる....生い先が短いわしとってはいいものじゃ」
当たり前だけど吉太はご高齢なんだ。自分の人生が長くないって分かってて書店をやっている。そんなところに私が乱入して良かったんだろうか?
「吉太の生活の邪魔しちゃったかな?」
「邪魔なんてことはない。むしろ話し相手ができて嬉しいことよ」
話し相手だなんて言われたらこっちも嬉しくなるよ。まぁ友達なんだけど。でも話し相手がいない?確かクロノアは家庭を持って幸せに的なこと言ってたはず....。
「ねぇ、吉太の家族って___」
《緊急事態!緊急事態!》
「わぁ、びっくりした!!」
私が吉太に聞こうとした時、いきなりクロノアが話し始めた。それも緊急事態らしい。
「なんで緊急事態??」
辺りを見回しても地震では無さそうだし、大雨....でもない。むしろ快晴。
《何者かのこの時代へと干渉が確認されました。あと10秒でここへやってきます》
「あ、あと10秒!!??」
10秒!?やばいやばい!!どうしよどうしよ!!
私は椅子から立ち上がってソワソワし始める。一方吉太を見ると....。
「お茶はやっぱり美味しいのぉ〜」
「だね〜......って!呑気にお茶飲んでる場合じゃないでしょ!!」
吉太は動こうともせずお茶を飲んでいる。慌ててる私とクロノア。同じ空間なのに温度差が激しい。
ブォー!!
「何あれ!!??」
急に空間に穴が空いた。いかにもタイムホールですって感じの穴。私は咄嗟に椅子の後ろに隠れて様子を伺う。するとそのタイムホールからスーツを着た男の人が出てきた。
「お久しぶりですね、裏屋さん」
「久しいなぁ、何年ぶりじゃ?」
「まだ2年ですよ」
「そうじゃったか!」
私を置いて話し始める2人。
吉太の友達?にしては年齢が離れてる気がするけど.......誰?あの人??
《確認しました。彼は北本誠司です》
「心を勝手に読まないの!!あ.....」
つい声を荒げてしまい、その瞬間に2人の目線がこっちに向く。
「あ、あははは〜どうも〜」
すると男の人が私に近づいてきた。
「貴方が“安西真日奈さん”ですね?」
「え、は、はい!そうです!」
「へぇ〜この子が....面白そうな子を拾いましたね裏屋さん」
「その子は拾ったのではない。わしの友達じゃ」
「ん??」という顔をしている北本。
そりゃあそうなるでしょう。だって側から見たらおじいちゃんと孫みたいなんだもん。
北本はもう一度私に振り向きなおした。
「自己紹介が遅れました。私、時環アカデミーガーディアン科の担任をしています北本誠司と申します」
「時環アカデミー??」
「はい。時環アカデミーとはエンドガーディアンを育成するための学校です。今回の件の報告を受け、校長先生から貴方を連れてくるように言われました」
今回の件...それは吉太郎の人生本をハッピーエンドにしたってことだ。
《マスター。この人物から悪意は感じ取れません。結論から申し上げますと“普通の人”です》
「あのさ、私調べてなんて一言も言ってないんだけど?まぁいいや、情報ありがとう」
少なくともクロノアが言うから安心できる人なのかも。吉太とも友達?みたいだったし、私に何かしてくる!?なんてことは現時点では起きなさそう。
「ん??それはクロノリング!!......の旧型??」
「左様....こやつが付けているリングは旧型じゃ!!」
「なんだって!?」
今度はクロノリングについての話をし始めた。北本さんに至っては私のリングをマジマジと見てるし、吉太は自慢げに話してるし......状況が理解できない。
「あ、あの!このリング.......クロノアがどうかしましたか?だってこのリングよく付けてるんですよね?」
吉太からはよく使うものって聞いてるし。なんだったら北本さんの腕にも同じの付いてるんだけど。
「今使われてるのは新型と呼ばれるクロノリング。私が付けている物だ。貴方が付けている旧型のクロノリングは何百年も前に製造が停止して現存しているものは少ない。ましてやAIシステムが損傷せず使えるとは......」
「えぇぇ!!そんなに貴重な物だったのこれ!!??」
だって吉太が「誰かが捨てた物」だとか言ってたし、クロノア普通に話すから旧型でも使ってる人いるんだ〜みたいな軽いノリだったんだけど!!??
《今後、私に対する態度を改めるよう要求します》
「....はいっ!今まで大変申し訳ありませんでしたぁぁ!!!」
私はとりあえずクロノアに謝罪する。クロノアを見ると「えっへん」と画面がにこやかになってた。本当にAIか?と疑いたくなる。そのやりとりを見て笑った北本。
「校長先生の見る目は劣っていなかったようですね。やはり貴方を時環アカデミーに連れていくしかないようだ」
私に一歩近づき手を差し出した北本。
悪い人じゃないのは分かってるけど.....。はい行きます!にはならないよね〜。
私が困惑していた時、割って入ってきたのは吉太。
「待つんじゃ北本くん」
「裏屋さん......」
「真日奈はまだ何も理解しとらん。校長が連れてこいと言ったのならば本人の意思を尊重しろと言われなかったかね?」
「言われましたが、実際に連れて行き見てもらった方が早いかと」
さっきの明るい雰囲気とは別の2人。どちらも真剣な表情で真っ直ぐ見合ってる。
「じゃが、本人の意思をまだ聞いておらん。それを聞いてからでもいいんじゃないのかね?」
「.............分かりました」
北本はスーツの着崩れを直して真日奈に問う。
「状況を理解できないのは分かっている。それでも校長先生の話を聞いてもらいたい。私と一緒に来てくれないだろうか?」
北本は頭を深く下げた。
「分からないことだらけで不安だと思う。だから私が言える範囲で答えよう」
その時の北本の目は真剣な眼差しだった。
クロノアを信じていないわけじゃないけどもし仮に北本さんが悪い人だったら......。そう考えたけどそんな人だったらここまでしないはず....。よし!今までの会話でずっと気になってたこと聞いてみよう!!
私は吉太の前に出て一対一で北本さんと話をする。
「あの....質問なんですけどさっき言ってたエンドガーディアン?ってなんですか?」
「.............はい?」
「え?........だからエンドガーディアンってなんですか?」
「まさかエンドガーディアンを知らない!?」
北本は驚きすぎて頭を抱えてた。私はバッと勢いよく振り返り後ろにいる吉太を見るとなんかニッコリしてた。
え?え?え?もしかして私変なこと聞いたの!!??
<続く>




