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第4話 吉太郎

私は疑問をぶつけてみた。


「.......」


うん!返答はなし!思った以上に手強いかも?っていうかそもそも初対面だし、自己紹介するのが先では!?


私はゴホンッ!と咳払いをして自己紹介を始める。


「え〜と初めまして!私は真.....じゃない愛菜っていうんだ」


早速おじいさんとの約束破るところだった。自分の名前を素直に言うところだったよ〜.......次から気をつけないと!


「初対面の見ず知らずの人に言われてもって思うかもしれないけどなんでずっと部屋にいるの?友達は?学校楽しくないの?」


ストレートに相手に聞く!これが私の強みだ!!(いつも相手を怒らせる方が多いんだけど)。それ以外の方法で聞く手もあったけどなんか私には合わないんだよね〜。


「友達には話しにくいけど逆に見ず知らずの人だからこそ話せることってあるじゃん??」


私は相手の出方を伺いながら話し続けるが反応はない。反応なさすぎて本当にこの部屋に人がいるのだろうかと疑うレベル。


何を話せばいいんだろう?理由が分からないし、話す話題も思いつかないし....。いっそゲームの話する?でも昔にゲームなんてないし....ああーもうっ!!


「話してくれなきゃ分かんないから言ってんでしょ!?」


私はやけになって言ってしまった。


やばい....非常にやばい!もはやピンチ!!怒るとかそんなつもりなんて一切なかったけど話が一方通行すぎて怒鳴っちゃったよ....こう言う時ってどうしたら___


「.......言っても分からないよ」


ドアの向こう側から突然声が聞こえた。聞き間違いかと思って驚いたけど、一旦深呼吸をする。


「スゥ〜ハァ〜......言っても分からないってどういうこと?」

「そのままだよ、言っても分からない」

「でも、言ってくれないと私も分からないよ。ゆっくりでいいから話せる?話聞くまで私ここから離れないから」


そう言ってドアに背を向けてペタッと座り込んだ。


怒鳴っちゃった時はどうしようか焦ったけど案外大丈夫なタイプだった。よかった〜安心安心!


そのまま座り込んでしばらく待っているとドアの向かうからさっきと同じ男の人の声が聞こえた。


「君は学校楽しい?」

「うん!楽しいよ!」

「そっか....じゃあ尚更、僕のことは分からない」

「私は分からないから聞いてるんだけど?」

「...そっ。どうしても聞きたいなら言ってもいいけど絶対に笑うよ?僕に2度と近づくことなんてなくなると思うからいいんだけど...」

「笑わないよ、約束する。私約束破ったこと一度もないんだよ?」


顔はお互い見えないのにニコッと笑う。ちなみに約束破ったこと一度もないは嘘。結構盛りました。それぐらいしないと話してくれなさそうだしね。


「僕は小学校に入学してから順調に楽しい学校生活を送っていたんだ。何も変わらない日常。でも小学5年生の時、同じクラスの女の子が帰り道に落とし物をしたんだ。ちょうど後ろを歩いていた僕は拾って返そうと思ったんだけど前を見たらどこにもいなかった。明日返せばいいやって思ってそのまま家に持って帰った」


どうやらその女の子が落とした物は”お手玉“。そのお手玉は落とした女の子がいつも持ち歩いて遊んでいた物だったらしい。


なんというか.....うん、なんとなく分かってはいたけど昔の遊びってお手玉とかだよね。危うく「いつの時代の遊びしてるの?」ってツッコミを入れるところだった。危ない、危ない....。


「それで女の子に返したの?」

「あぁ、返した。そして”ありがとう“って礼まで言われた。だけど本当はその子のお手玉を返したくなかったんだ。なんでそう思ったのか自分でも分からない。そんな気持ちのまま、中学校に上がって普通に過ごした。そして学校生活を送っていく上で気づいたんだ。僕は可愛いくてオシャレな物が好きなんだって。女子が持ってるオシャレな物を見るといいなって思うし、かわいいぬいぐるみとかも好きだ。だけど僕は男だ。そんなのが好きだなんて言ったらみんな離れていく。だから今だってこうしてみんなは離れてるんだ。笑うだろう?」


思い返せば私も似たようなことがあった。いつもジャージやズボンばっかり。たまにはスカートとか履いて女の子らしくしなさいって何度も言われた。私がいる時代では多様性とか言われてるから男の子がオシャレ好きなんて驚かないし、離れもしないけどここは昭和。当時は男の子らしく!女の子らしく!が当たり前だったんだろうな...でも....。


「吉太郎はすごいよ。強いんだね。オシャレが好きって自分で言えるじゃん?自分の好きなことは好きだって言えるじゃん?それだけ強いならいつか分かってくれる人と出会えるかもよ?」

「...笑わ、ないのか?」

「だって好きなんでしょ?人の好きな物笑ってどうするのさ?なんかくれるの??」

「いや、何もないけど...珍しいなお前」

「私は勉強とか全然できないけど、人を見る目だけはあるから!」


座ったままエッヘン!と胸を張る(胸を張るほどのことではない)。


「でも僕はずっと1人のままだ。僕という存在を隠してみんなと一緒に暮らした方がいい。偽りの僕として」

「吉太郎がそういうならそれでいいかもしれないけど、それでいいの?自分の心に嘘をつき続けるってことだよ。心に嘘をつきながら好きな物を抑える辛さ、逆に好きな物を好きだと言って周りが離れていく辛さ、どっちも辛いけどどっちの方が辛い?」


しばらくの沈黙が続いた。


私は好きだっていうことをオープンにして言える性格だからいいけど吉太郎は違う。でも私だったら?私がこの時代に生まれて私が好きなものを好きだと言ったら笑われて離れられる...そんな立場だったら?私はどうしたんだろう。


「私だったら...周りが離れてもいいから好きを貫く。自分に嘘ついて生きていくなんて私が私じゃないみたい。だから離れていく怖さを乗り越えて前に進む。いつか私の側にいてくれる人に出会うために」


そう...今はまだ出会っていないだけ。この先に恐怖を乗り越えた先に出会うべき人がいるんだ。成長した自分と出会うべき人が。


「...でも僕はその恐怖になんて勝てないよ。だって友達もいないし...」

「友達?私たちってもう友達なんじゃないの??」

「え、?」

「吉太郎と私はもう友達でしょ!」


吉太郎はドアの手前までゆっくりと静かに歩いて来た。このドアを開ければその友達がいる。けれど本当に開けていいのか。ドアを開けるのが友達になるのが僕にとっては怖い。


「なんで...どうしてそこまで僕に構うの?君にとってはなんのメリットもない」

「メリットとかデメリットとか関係ないの。第一友達にこれやったからお返しちょうだい〜なんてしないでしょ?その人といて楽しいかどうかで私は判断してる」

「!、、、じゃあ僕といて楽しいの?」

「楽しいから友達だって言ってるんでしょ?何言ってるの??」


吉太郎は気づいた。ドアの向かうにいるのは離れていくクラスメイトでもなく、偽りの僕を知っている家族でもない。本当の僕を見てくれて友達だって言ってくれる人なんだ。


キィィィー


ドアが開いて私はびっくりして上を向いた。するとそこには男の子が立っていた。この人が吉太郎だって私はなんとなく勘でわかった。


「君は面白い人だね」


吉太郎は手を差し出した。私はニコッと笑ってその手を掴んで立ち上がる。


「よく言われるよ、吉太郎」

「部屋でゆっくりお茶でも飲むといい。あと名前...........なんだっけ?」

「いや、名前は覚えてよ!!」


「ごめんごめん」と吉太郎は謝っていた。けどさっきより声が明るくなった気がした。そのまま部屋にお邪魔させてもらってちゃんと!!自己紹介もした。もちろん愛菜って名前で。


「あ、吉太郎って言いずらいから吉太でいい?」

「僕はいいけど、普通”太郎“とか”吉“とかだよね?」

「まぁまぁ〜細かいことは気にしないでねっ??」


私は座って部屋を見渡す。いかにも昔の部屋!って感じだけどレトロっていう雰囲気がして案外落ち着く。


「ところで愛菜はなんで僕のこと知ってたの?学校でも会ったことないし、両親の知り合いでもないよね?」


ミスったぁぁ!!!”吉太郎“っていう人を探すのに必死でその後の言い訳考えてなかったぁぁ!!


「え〜と....その...両親の親戚の知り合いのいとこの知り合いですごく頭良い子がいるんだよって話聞いてて実際に会って話がしたくて探してたんだ〜」


めちゃくちゃな言い訳+当てずっぽうな事しか言えなかった。こんなので通用するわけない。なんて言ったら分かってもらえるんだろう?いっそ未来から来たんですとか言ってみるとか_____


「それ赤の他人だよね?でも面白いなぁ愛菜は!」

「え、そ、そう??」


なんか笑ってる。意外と通用した?ていうか当てずっぽうで言ったやつマジで当たってたの!?


「確かに勉強はずっとやってたから頭は良い方ではあるかな。けどここまでして訪ねて来た人は初めてだよ」

「いや〜あははは....」


よっしゃっ!!なんとか誤魔化せた!!意外にも通用するんだな〜さすが私!才能あるんじゃない??


私は喜びのあまり忘れてたけど腕についている時計をハッと思って見た。


【残り時間:20時間】


まだ20時間はある。けど扉開いたのかな。これで吉太の物語をハッピーエンドにできたのかな??


「せっかく来てくれて悪いんだけど勉強は教えられないや。僕もめんどくさがりやだからね!」

「だ、だよねー!」


私はとりあえず話を合わせる。

にしてもどうしたものか。ドアが開いたかも分からない。一度確認するべき?でももし開いてなかったら何すれば良いんだろう??


ん〜と頭を悩ませていた私。それに気づいたのか吉太郎は急に立ち上がり、ジャンバーを着込んだ。


「え?吉太??」

「勉強は教えられないから代わりに買い物行こうよ。ついて来てくれるか?」

「うん、いいよ!」


悩んでても仕方ない!!困った時は行動あるのみ!ということで吉太と一緒に買い物に出かけることにした。


<続く>

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