Chapter.2 人生本
「でもどうすれば結末をハッピーエンドで終わらせられるの?」
「向こうに扉があるじゃろう。」
このお店の奥。暗くてはっきりとは見えないが確かに古い洋風の扉がある。古く、暗いため自分からは行きたくはない。
「その扉に本をはめるとその本の中に入ることができる。つまり、お嬢さんが登場人物になって物語をハッピーエンドに導くのじゃ。」
「え!?私が登場人物になるの!?」
真日奈は驚いて咄嗟に立ち上がる。
それもそのはず。登場人物になってハッピーエンドにするなんて言われていないのだから。
「私、できるかな?」
「お嬢さんなら大丈夫じゃ。」
不安でいっぱいだったが、おじいさんの笑顔を見ればやはり安心する。というか変な自信が湧いてきた。
「私やってみる!」
真日奈はにっこりと笑って扉の方に歩き始めた。
「そうだお嬢さん。ちょっと待ってくれ」
おじいさんに呼ばれ歩く足を止めて振り返る。するとおじいさんは真剣な表情で話し始めた。
「言い忘れておったがいくつか注意点がある。まず1つ目じゃ。“自分の素性を知られてはならない”。お嬢さんがどういう目的でどこから来たのか。名前も含め言ってはいけない。」
「どうして?」
「さっきも話したと思うがこの本は誰かの人生が書かれた本じゃ。つまりその人の人生に入り込むことになる。お嬢さんの素性を明かせば、未来から来たと騒ぎになるであろう。そのためそういう決まりがあったような〜なかったような〜?」
「いや!おじいさんも分からんのかい!」
真剣な話の最後でボケられてはツッコミをせざるを得ない。真日奈にとってはさらに疑問が多くなるばかりだった。
「でもそんな決まり聞いたことないけど...」
頭をかしげ、おじいさんをみる。
「細かいことは気にするでない」
おじいさんに軽くスルーされてしまった。そしてまた真剣な話に戻そうという雰囲気になっていた。
「2つ目じゃ。“本に入ってから必ず24時間がたつまえに帰ってくる”。もし24時間以上たってしまうともう現実には戻って来れなくなってしまう」
「え!?じゃあ24時間でハッピーエンドにするの?むずくない?」
急に難易度がぐんと上がった気がした。
やはり不安は積もっていくばかりだ。
「それから最後にもう一つ重要な注意点じゃ。それは“絶対にハッピーエンドにすること”じゃ。」
真日奈は息を呑む。物語をハッピーエンドにする。その責任の重さを少しだが感じていた。
「いろいろ聞いてもらったができるかのう?」
おじいさんとは出会ってまもない。もちろん知り合いでもないし、助ける必要だってない。でも真日奈は笑顔でおじいさんに言葉を返す。
「大丈夫だよ!約束はちゃんと守る。じゃあ物語をハッピーエンドにしてくるよ!」
もう一度覚悟を決めて扉の前まで歩く。
扉にはおじいさんが言ってあったように本をはめる場所があった。真日奈は本をはめ込んで扉を開ける。扉の向こうは眩し過ぎて何も見えない。扉の中に進む前に、おじいさんの方を振り返る。おじいさんはにっこりと微笑んでいる。その微笑みを信じて扉の中にゆっくりと入っていく。
「ん?ここは?」
目を開けると公園にたっていた。扉は閉じたまま。真日奈は興味本位で扉を開けようと押したり引いたりいろいろ試してみるが開かない。どうやらハッピーエンドにならないと開かないようになっているらしい。
「ここからどうすればいいんだろう?」
とりあえずベンチに座る。周りを見渡すが普通の住宅街。強いて言うなら少し家が古いくらい。まだ頭が混乱しているのだと思い、背伸びをする。すると腕にスマートウォッチ?らしきものがついていた。
「何これ?私つけた覚えないんだけど?」
とりあえず画面をタッチしてみた。
すると画面が明るくなり、詳細が浮かび上がってきた。
「わっ!すご!えーと...」
[現在:昭和48年 現在地:参日公園
人物:裏屋 吉太郎 男 19歳]
そして顔写真も載っていた。
真日奈にとって内容よりも感動が先にあった。そして時刻表示も。
[残り時間:23時間40分]
この数字を見て、気合いを入れ直す。
が、とあることに気づく。
「え?でもこれ、自分から探しに行かないといけないパターンじゃない?」
スマートウォッチには必要最低限のことしか書いていなかった。そう。聞き込みから始めないといけないのだ。真日奈はまじか〜という表情になりつつもとりあえずベンチから立ち上がった。
「仕方ない。人が多そうなところに行くか〜」
人が多そうな場所へ歩き出した。
そして空を見上げた。空はまだ明るく快晴。
「道のりは長くても絶対ハッピーエンドにしてあげるんだから!」
<続く>
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次回!「Chapter.3 真日奈の苦悩」