ここで働かせてください!
ここがギルドの本部…
本部はとても大きく、横には馬車がたくさん止まっていて商人らしき人や傭兵のような格好をした人で賑わっていた。
えーっと、スキルの鑑定所は…ここかな?
隅っこのこじんまりとした場所にスキルの鑑定所はあった。そこにいた今にも倒れそうなおじいさんに話しかける。
「すみません、スキル鑑定をお願いします。」
「かしこまりました、ギルドカードはお持ちですかな?」
試しに昨日貰ったカードを出してみる。
「お預かりします。それではこちらに手を当ててスキル鑑定と唱えてくだされ。」
差し出された半透明の板に手を当てて、
「スキル鑑定」
そう唱えると板が光り『製菓』と『翻訳』という2つの文字が出てきた。
「『翻訳』はどんな言語でも読み書きができるスキルですなぁ。私も長いこと生きていますがなかなかに見ないスキルですなぁ。
習熟度を上げれば王城に務めることもできるでしょうな。
もう一つのスキルは…はて…この『製菓』というスキルは見たことがありませんのぉ。
もう少し詳しく鑑定ができるものがあればよいのじゃがのぉ。
まぁお嬢さんまずは『翻訳』を使ってみるとよい。『翻訳』は使うにつれてどんどん訳せる言葉が増え、最高クラスになると古代語まで………でき………いや……さらに…………、……………………………、…」
鑑定が終わるとおじいさんは急に饒舌に喋り始めた。
「そうじゃのう、……も珍しい……2つはまあ…、じゃが、…………」
「おじいさん?、おじいさん!!!」
「はっすまんすまん、つい興奮してしまってのぉ。わしは元々スキルの研究をしとって、退職後ここで働き始めたんじゃ。」
「それはそうと、そのわしですら見たことのない『製菓』とはどんなスキルじゃろうか。なにか心当たりはないか?そうじゃのう…似たようなスキルには『製薬』や『創薬』はたまた『…』………も、『……』は同型か?
しかし菓子と言っても……、いや……。
…………、これも、…………まあ………。」
おじいさんはそのまま自分の世界に入りなかなか戻ってこず、私がスキル鑑定板で叩いたら戻って来るかと悩み板を手に取った頃、近くにいた職員の方が助けてくれた。
「コントスさ〜ん、次やったらそのまま老人ホームにぶっ込んでやるってお弟子さんに言われてましたよね〜!」
「すみません長くなってしまって。」
そう言って職員の方はおじいさんを奥に連れていき、スキルの表示されるようになったギルドカードを渡してくれた。
私は結局『製菓』と『翻訳』がどんなスキルか深く考えないまま職業を探すため、求人情報を見に行くことにした。
求人のコーナーには求めている働き手の条件が書かれた紙が貼ってあった。
「どれどれ食堂の給仕が2件、これは給料が家を借りるには心もとないよね。
できたら住み込みがいいんだけどなかなかないな〜。」
スキルを使った仕事も募集されていて給料もいいものの、どれも戦闘系らしき『身体強化』や『剛剣』などの募集だ。
面白いものになると手紙の速達『瞬足』募集なんてものもある。
やっぱり『製菓』はないよね。『翻訳』は本の書き換えみたいなのがあるけど、性に合わないしな…
いろいろ見て回っていると1つパン屋さんの住み込み、3食込み、仕事内容がパン作り、店番、あと子供の世話が少しという求人を見つけた。まあ住み込みのお手伝いさん(パン屋特化)みたいなものみたいだ。
(よし、これにしよう!)
近くにいた人に依頼の受け方を聞いてみた。
「依頼ってどうやって受けるんですか?」
「ここの依頼の紙を持って採用してもらえるか聞きに行くんだよ。採用だったら紙にサインして契約完了。もしだめだったらここに来てその紙を貼り直すってわけさ。
もしその紙無くしたら罰金だからな。
気をつけろよ。」
親切な人にお礼を言ってパン屋さんに行ってみることにする。
「すみません。この依頼を見て来たさくらと申します。店主の方はいらっしゃいますか?」
「おう、嬢ちゃん俺が店主のリードだ。
おい、タリア、求人見て来てくれた嬢ちゃんがいるぞ〜!
すまんな、ちょっとそこで待っててくれ。」
店に行くと人の良さそうな髭もじゃのおじさんがパンを売っていた。店においてあるパンはどれも美味しそうで、まだ昼には早いのに多くのお客さんがいた。
しばらくすると店の奥からタリアと呼ばれた4,5歳の子供を抱えた奥さんが出てきた。
「あらあら、ありがとうね来てくれて。
待たせてしまってごめんなさいね、この子と上の子が喧嘩しちゃってて。」
「私はタリア、今店に立ってる旦那と一緒にフェルシモっていうパン屋を営んでるの。あなたの名前は?」
「私はさくらと言います。料理や一通りの家事ができます。親戚の子供の面倒を以前見ていたこともあり、お子さんのお守りもできます。
だから!ここで働かせてください!!」
「こちらこそよろしくお願いします。
さくらさん。」
タリアさんも笑って採用を決めてくれた。
ギルドから持ってきていた紙にサインをしていたちょうどその時、さっきタリアさんが言っていた上の子が出てきた。
「なぁ、母ちゃん森に赤瓜採りにいってくる!」
「気をつけて言ってらっしゃいよ!」
「は〜いってそこにいんの昨日の変な姉ちゃんじゃん!?どうしたんだよ。」
「あんた、ここの子供だったの!?
というか変なって言うな!」
なんと昨日森で出会ったネイアスはここのパン屋の息子だったらしい。このクソガキの面倒を…と思うと気が重い。それにしてもちょっと世間が狭すぎると思う。
「あら昨日ネイアスが言ってた人はあなただったのね。大変だったわね、攫われて来たなら家もないでしょう。ここに泊まってく?」
「へぇ〜、姉ちゃんここに泊まるんだ。」
「住み込みでうちの手伝いをしてくれるさくらさんだよ。ネイアスあんたちゃんと言う事聞きなさいよ。」
「はーい」
「ほら、ネイアスあんたはさっさと森に行ってきな。さくらちゃんあなたの部屋はここの二階に用意するから、荷物とかを持ってきちまいな。」
「わかりました。ありがとうございます!
あとここの厨房を少し端っこの方でいいので貸していただけませんか?」
「いいけど、どうするんだい?」
「少し和菓子という故郷のお菓子を作りたくて。」
「お菓子なんていいのかい?うちの奴らすぐ食べちまうよ。」
「材料は私が持っていたものがあるので、
ここで働かせて貰えるお礼に作らせてください!」
これでとうとう衣食住と念願の和菓子が作れる場所をゲットできた!!
そもそも私はここに転移してしまう前は和菓子を作ろうとしていたのだ。
自分の持つ『製菓』のスキルも試したいし頑張るぞ!
そうして私は和菓子の材料を取りにギルドへ戻った。