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7.何をどうしたいか

「そこに誰かいるんですかぁ」

 

 その少女の声は震えておりながらも芯が通っており、その心の強さがうかがえるものだった。ううむ、どこか聞き覚えがあるような。

 ともかく、声をかけられて無視するのは忍びない。おーいとでも返そうと思ってたのだが……

 

「いや、声が出ないんだけど」

 

 なんでや、この間はバカでかい声出ただろ。おかげで件の娘をビビらせたのは申し訳なく思っている。

 のどに手を当ててみても一切震えない。そんなこんなでどうしようもなくうだうだしていると、当然のようにユウが言った。

 

「ここにいる限り、太郎の声は外には聞こえないよ」

 

 なんだと。

 というかそもそも、”ここ”ってどこなんだ。今更だが疑問に思う。今まで慌ただしかったり、消えかけたりなんだりで気にしている暇がなかったが、考えれば考えるほど意味が分からない。

 ここに連れてこられた後一度思考力が落ちたのを思い出す。あの時はユウが直してくれたかに思えたが、よく考えると思考が本当に正常ならあれほどユウの話よりも気になることだらけで頭に入ってこなかったはずだ。洗脳でもされてたのかしら。

 

「ああ、あれは君に集中してもらうため、ちょっとばかり手を抜いたからね。余計なこと考えないように、思考力を一部戻さなかったんだよ」

 

 さらっととんでもないこと言いやがった。今はもう完璧に戻したから安心してね、じゃないんだよ。とまぁ、色々と言いたいことはあるが、生殺与奪の権は奴にあることに気が付いたので口をつぐむことにした。沈黙は金。

 俺が黙ったのに合わせて、ユウが説明を再開する。

 

「あらためて、ここは僕が作り出した空間だよ。君はこの世界にやってきたばかりの時は植物に憑依する形で魂だけで存在していた。世界を超えるのにだいぶエネルギーを消耗していた君を保護するために必要だったわけね」

 

 正直、うしろで女の子の声がちょくちょく聞こえるせいで全く頭に入ってこない。かいつまんでいってくれ。

 

「今まで君がいたのが植物の体そのものなんだったら、ここは植物という存在の奥底に迫る場所、的な?内面空間?に限りなく近い場所かな」

 

 なんで疑問形なんだよ。なんかわかりやすい例えとかないものか……。ああ、将軍の一心浄土的なやつか。

 

「は?なにそれ?」

「しいて言うなら、人の内面空間的な?」

「それ、なんも変わってないじゃん……」

 

 俺の突飛な発言にユウはあきれた様子で大きなため息をした。そういえば俺、生前から具体例出すのへたくそだったわ。

 ともかく。つまりなんだ、俺が今居着かせてもらってるこの草の存在そのものに関わる重要な場所って理解しておけばいいか。やはり文字に起こすとますます意味が分からんが、よく考えたらそこまで拘ることでもない。というか考えるのめんどくさいわ。

 そんなこんな話しているうちに、いつのまにか少女の声が聞こえなくなっていることに気が付いた。

 

「いなくなっちゃったのかねぇ」

「くだらない話してるからだよ」

 

 どうやらユウも色々面倒になったらしい。気が合うね。

 しかし、本当にいなくなってしまったのか。実を言えば何か気配を感じるので、いなくなったわけではないと思う。気配を感じるトンデモセンスを習得したことに喜びたいところだが、それ以上に少女の存在が気にかかる。助けでも求めていたら大変だぞ。

 ここから出たい、と言うまでもなくユウの方で準備してくれてたみたいだ。目の前の光球が光を増していた。

 そういやお休みとやらも大丈夫なのか。それも気になったが大丈夫らしい。あの一瞬で回復できるものなんかねぇ。疑わしいけど、そういうのは向こうの方が詳しいべ。

 いやぁ、以心伝心で本当に便利ね、これ。

 

「さて、そろそろ戻るよ」

 

 ユウがそう言うと、俺の体がおぼろげに光りながら霧散し始めた。というか、今まで全裸だったのね俺。よくよく見れば光の塊が人間の形をしているだけで局部は一切見えないが、それでも全裸は全裸。一文化人として恥ずべき格好だ。なのに、今でさえ違和感も羞恥心もゼロ。人間、他者がいないとここまで身辺に無頓着になれるのか。恐ろしい。

 今更だけどコイツ、もしかして凄い存在じゃないのか。この汚泥を一掃しようとしてたり、俺にお仕置きビーム放ったり、ラジバンダリ。聞いても絶対教えてくれないだろうけど、気になるわ。話を聞くに俺と同じく転生者だったぽいけど、石に憑依するなんてコイツも難儀だねぇ。

 なんて思っていると、すっかり体も薄くなってきた。なかなか無い体験だから、少しばかりワクワクするね。

 ユウを見ればポワポワしていた光が収まってきている。俺の体も向こうが透けるぐらいになってきてるしマジでそろそろだな。

 あ、そうだ。

 

「よし。これで準備OKだから、すぐに戻れるよ。もう君のこと信用してないからサポートは欠かさないつもりだけど、くれぐれも無茶はしないように......、なに?」

「みてみて、クロマキースーツ」

「はよ行け」

 

 俺の渾身のモノボケはユウによって軽く流されてしまった。さらには次の瞬間に風でも吹いたのか、俺の体は完全にかき消されてしまった。そんなぁ。物理的にも流すことないやろ。

 

 ユウはひときわ大きなため息をすると、世界は暗転し光球の輪郭が際立つ。そしてユウは室内灯のようにあっけなく消え、そこには何も残らなかった。

 

 

 かつて彼は救世主であった。

 生まれてより世界に根付く邪悪を打ち滅ぼさんと、自ら志願して征伐の旅に出た。

 彼に生まれながらの才能はなかったが、人一倍の努力家であった。自分を客観視して努力を怠らない強い人間であった。

 旅の中で彼は多くを知り、多くのものを得て、多くの者を失った。それでも、旅を辞めなかった。

 望郷の念を胸に旅を続け、気がつけば旅は終わり、世界に平和が訪れていた。

 かつて彼は救世主であった。

 平和な世界に、救世主は必要ない。

 彼が望んだ帰郷が叶うことはなかった。

 

 

 目を開け、理解した。

 確かに、元の場所だ。

 俺の本体はどこにあるのかと探そうとして、直感で分かった。きっとあの草に違いないのだが、なんかデカくなっている。どういうこと?いや、そんなことよりも。

 大事なのは声をかけてきた少女だ。異世界での第一村人だ、大切にしたい。......ユウはノーカンね。石だし。

 とは言っても当たりは草と木だらけで相当深い森だ。そうそう人なんて見当たらないと思うが。っと、見つけた。よく考えたら森の中なんて人は滅多にいないし、逆に目立つね。というか、あの特徴的な格好。言っちゃ悪いけど芋っぽい感じの。やっぱり、この間俺にビビって逃げ帰った娘だ。いや、違ったらごめん。

 見ればこちらに向かってきている。どうやら辺りを見回ってきたあとに戻ってきた感じっぽいな。顔も見えたけど......、多分同じだろう。

 

 さて、どう声をかけよう。すぐそこまで迫っているから考える時間はない。かと言って何も考えないと、同じ轍を踏むことになる。人と話している時ならチー牛的独り言で済んでも、どこから聞こえるかわからなかったらそれはもう軽くホラーだ。あの女の子も相当勇気出して戻ってきたんだから、できる限り優しくしてあげなくては。

 こういう困った時はとりあえずユウに聞くというのが鉄板になっていたが、なんか気配がしない。石碑の方にも戻っていないっぽいし、どうしたんだろ。まあ、なら俺だけでやるしかない。人に声かけるだけだ。別に隠キャじゃあるまいし、まして無理をするというわけでもないから大丈夫だ。

 前に声が出た時の感覚、数日前だからあんま覚えてないけど、を必死に思い出す。確か、なんだっけ?

 そうだ、声の発生源と対称を線で結ぶイメージ。

 あのときは逆だった。イメージを掴めたのは俺がユウの声聞く側だったときだったけど、そこは問題なかろう。

 俺が、あの娘に、伝える。

 魂が発するエネルギーが強ければ、他の魂に波及する。

 そういった明確なイメージを持つのだ。イメトレとかあんまやったことないけど、やるしかない。伝えことだけカッコで包んで、他はそこら辺に捨て置くイメージ......。

 なんてしている間に、少女はすぐそこまで来ていた。さあさあ、やるぞやるぞ......。

 ......、どんな感じで声をかけよう。

 仕方がない。隠キャではなかったものの、女子が得意というわけでもなかった。誰でも初対面の人とは、アッスーとしか言えないものである。仕方ない仕方ない。

 というかそもそも、誰に話しかけられてるか分からないから怖いのだ。草が喋ってるとか言ったらヤバいだろ。

 ああもう来てる、てかそろそろ帰りたさそうな顔してるわ。なんかないかなんかないか......。

 

「......誰か、そこにいるんですかぁ?」

 

 ええい、ままよ!

 

 

「なんだ、私を呼んだのは君か?」

 

 どうだ。

 魔法とかいうスピリチュアルなのがアリな世界だ。ちょうどそこにそれっぽい石碑あるし、森の精とか九十九神とかでそれっぽいワンダーな存在で通らんか。

 どうだ。

 これで、どうだ!?

 

「......」

 

 いやダメで草。

 流石に異世界でもこれはド不自然か。

誤字報告や感想などあらば、ぜひ書いていってください。

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