35-2.ターナー領品質(2)
ノワールがついていれば、魔獣はもちろん、よからぬ輩がいても問題ない。
そこらの暴漢ならシェリルは返り討ちにしてしまえるし、手練れの者に襲われたとしても、ノワールには敵わない。彼は、送り迎えをしながら、ボディーガードも兼ねているというわけだ。
帝国との取引が始まってから、それぞれが大忙しだった。
セドリックやローザは取引上の書類を作成したり、あれこれ手配をしたりとてんてこ舞いだし、領民たちはクリフの手伝いをしたり、帝国からもたらされた痩せた土地でも育つ作物を育てたりと、こちらも忙しい。
しかし、皆はその忙しさを楽しんでいた。働けば働くだけ成果が出るのだ。それは、なんとありがたいことだろうか。
領民たちが手にする報酬も、少しずつ上がっていっている。他の領に比べればまだまだかもしれないが、追い越す日も近いだろう。ターナー領は豊かになっていく、皆がそれを信じられた。
そしてネイトは、帝国との橋渡し役として活躍していた。王都のコンラッドとも連絡を取り合っているようだ。そういうこともあり、現在の王都の状況を一番正確に把握しているのは彼であった。
ネイトとしては、シェリルと行動をともにしたいのだが、それが難しい今、シェリルやきゅいを守る役目を相棒に譲るしかなかった。
そういったことで、ノワールが常にシェリルときゅいの側に侍るようになり、プリベロ畑へ行く際には、二人を背に乗せて行くようになったのだった。
「きゅきゅっ、きゅ~~、きゅいきゅいっ、きゅーいきゅいっ♪」
プリベロを摘んでいる時、きゅいはいつも歌うように鳴いている。いや、本当に歌っているのかもしれない。人でいう、鼻歌のようなものか。
小さな手で懸命にプチプチと花や葉を摘んでいるきゅいは、いじらしく、可愛らしい。カゴに入れる時も、適当に入れるのではなく、花と葉を分けて入れているのだ。シェリルたちもそうしているのだが、きゅいはそういったこともよく見ている。
「あら、もうそんなに摘んだのね」
「きゅきゅうっ!」
作業にもかなり慣れたようで、だんだんとそのスピードも上がっている。そして、シェリルのカゴも、そろそろいっぱいになろうとしていた。
「それじゃ、一旦調合室に持っていきましょうか」
「きゅい!」
最近では、毎日のようにプリベロ畑へ足を運んでいる。そうしないと、納品が間に合わないのだ。シェリルたちの想像以上に、薬やポーションはとてもよく売れていた。
帝国では、ターナー領産の粉薬や塗り薬は、帝国のものより割高に設定されている。しかし、その効果が皆に知れ渡ると、割高であってもどんどん売れた。多少高くても、よく効く方がいい。そして帝国では、そちらを選べるほどの経済力が、平民にもあるのだ。
ポーションも、売れ行きは上々だ。きゅいの力が加わった赤蓋の特製ポーションは一般には出回っていないが、通常の白蓋のポーションは皇都で話題になっているという。
「もっと早く、この効能がわかればよかったのに」
通常ポーションには、肌を艶やかに、滑らかにする効果があったのだ。それだけでなく、肌トラブルにも効果的ということもあり、女性たちの圧倒的な支持を受けていた。
ドリーがポーションを浴びてしまったあの日、ローザの気付きがなければ、見過ごされていたであろう。
あの後、白蓋ポーションを領内の女性たちに配り、効果を試してみた。すると、全員にその効果があったというのだから驚きだ。
それ以降、主に怪我や病で使用されていた白蓋ポーションは、化粧品としても使われるようになった。領民たちにも手の届く価格設定にしたことも大きかった。もちろんこれは、領民だけの特別価格である。
帝国では、ターナー領で売られている価格よりも倍以上は高い。それでも手頃に手に入れられると、帝国民の家庭にどんどん浸透していっているとの話だった。
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