04-2.いざ、ターナー領へ!(2)
「ネイト殿下、ターナー領領主、セドリック=ターナーです。娘から話は聞いております。何もないところですが、ごゆっくりお過ごしください。邸も手狭で申し訳ありませんが、ご滞在いただけるよう準備は整っております」
セドリックがにこやかに挨拶すると、ネイトも笑顔を見せる。先ほどとは違い、屈託のない笑みだ。
「ありがとう、ターナー男爵。私のことは、身分を気にせず扱ってください」
そう言って、手を差し出す。セドリックはその手を取り、上機嫌な顔になった。
「身分を気にせずともよいと? 言質は取りましたよ。いやいや、私としてもありがたい! 武骨なもので、礼儀作法やら何やらは不得手でしてな」
「殿下などと呼ばなくても大丈夫ですよ」
「いや、それはさすがにできないでしょう。それより、私のことはセドリックと名前でお呼びください」
「では、セドリック殿」
「いやぁ、何だか照れますな!」
二人で声をあげて笑っている。どうやら、互いに気に入ったらしい。
ネイトが「見事な筋肉だ。ぜひ見習いたい」などと言えば、セドリックは「騎士団で一緒に鍛えますよ」なんて誘っている。
この短時間でこれほど打ち解けるとは思わず、シェリルは思わずポカンと呆けてしまった。
「シェリルお嬢様、こちらの卵は、お嬢様のお部屋でよろしいのですか?」
ドリーの声でハッとする。彼女が漆黒の卵を大切に抱え、シェリルの少し後ろに控えていた。
シェリルは卵を自分の部屋に持って行くよう指示すると、王立騎士団の面々を振り返る。
彼らは、ネイトとシェリルをここまで護衛することが仕事だったはず。シェリルは、彼らに労いの言葉をかけた。
「ターナー領まで護衛いただき、ありがとうございました。ネイト殿下が王都に戻られる際には、改めてご連絡させていただきますわ」
「よろしくお願いいたします、シェリル様」
シェリルが挨拶をしていると、ネイトもやって来て彼らを労う。
王家は、彼らをターナー領に滞在させ、ネイトを護衛させようとしたのだが、ネイトがそれを固辞した。彼は、護衛は必要ないと言い張ったのだ。
『道中も本当は必要なかったけどな。俺も腕には覚えがあるし、シェリル嬢、あんたもだろう?』
ネイトの前でそれらしき素振りなどを見せたことがないのに、わかったような口をきく彼に、若干戦慄した。
(ターナー家が武に秀でていると知って? でも、家がそうであっても娘もそうとは限らないわ。なのに、ネイト殿下は、私がある程度戦えることを知っているかのように言う……)
緋色の瞳に見つめられると、隠していることさえも全て暴かれてしまうような気がする。
騎士たちが帰途につくのをぼんやり見送っていると、ネイトが身を屈め、シェリルの耳側で囁いた。
「しばらくの間、同じ屋根の下だ。よろしくな」
同じ邸にいるからと言って、何かできるわけではない。
にもかかわらず、何かするつもりだとでも言いたげな甘い声に、シェリルの身体はぞくりと震えた。




