33.相棒
次の朝、ターナー邸の前でケイシーが笛のようなものを吹くと、どこからともなく二頭の大きな生き物が駆けてきた。
音はしなかったのだが、これは人間には聞こえず、彼らだけ聞き取ることができるものなのだという。
白と黒、対のような二頭は、想像以上に大きい。今までどこに身を隠していたのだろうか。
「彼らは……どこにいたのでしょう?」
セドリックが仰天しながら尋ねると、瘴気の森の入り口、プリベロ畑付近で待機していたらしい。
「臭いは大丈夫だったのかしら?」
シェリルがそう呟くと、ケイシーが笑いながら言った。
「大丈夫。風上で待機させていたから。来た時は、畑の中でも低い場所だったから、危うく倒れそうになったよ。あの臭いは危険レベルだね! ヴァイスもノワールもあれにやられて、しばらくのたうち回っていたよ」
「ええ!? そ、それは申し訳なく……」
「シェリルが謝る必要はない。忠告を聞かない兄上が悪い。俺はちゃんと言ったのに、どうせ興味本位でわざとだろう? とばっちりを受けた二頭が哀れだな」
ネイトが呆れるようにそう言って、二頭に近付く。まず、黒の方がネイトに甘えるように鼻を近づけてきた。
「グゥ」
「ノワール、大変だったな。ヴァイスも」
「クゥ~」
白の方も「そうだ」というように声を出す。黒よりも若干高めの声だ。
ネイトはシェリルを振り返り、微笑みながら手を差し出す。
「シェリル、こっちへ」
「は、はい」
ネイトに近付き、その手を取る。すると、そのまま黒い方の鼻に寄せた。
「わっ」
「グゥゥゥ」
「ノワール、彼女は、俺の婚約者のシェリルだ。シェリルの言葉は俺の言葉と思え」
「グォン!」
ノワールは返事をするようにひと鳴きし、シェリルの手に鼻を擦りつける。シェリルの匂いを覚えるかのように。そして、オニキスのような美しい瞳で、じっとシェリルを見つめた。
「なんて美しいのかしら……」
「触ってみるか?」
「いいの?」
「あぁ」
ネイトが頷くので、シェリルはそっとノワールの毛を撫でる。
思ったよりもふわふわとしていて、触り心地は最高だ。いつまででも触っていたい。
「おぉ! これは素晴らしい!!」
「素敵……。とても美しいし、神々しいわね」
両親の方は、ヴァイスに触らせてもらっている。二人ともフェンリルの虜のようで、ぐるりと見て観察したり、もふもふを堪能したりと忙しくしていた。
「きゅいっ」
そんな時、ネイトの肩に乗っていたきゅいが、ノワールの背にひょいと飛び下りる。
「きゅい!」
「大丈夫だ、シェリル」
突然背中に乗られたというのに、ノワールはチラリと見ただけで、鳴き声一つあげない。むしろ、きゅいが落ちないように体を揺らして、背中の中央にくるよう調整した。
「きゅい~~っ」
きゅいはノワールの背に抱きつき、もふもふに顔を埋めてご機嫌になっている。
「きゃあ! きゅいちゃんがフェンリルに乗っているわ!」
「ぐはぁっ! これはたまらんっ!」
「フェンリルに聖獣が乗るなんて、なんだかすごいものを見せてもらっているな。きゅいくん、ヴァイスにも乗ってみない?」
ケイシーの言葉に、きゅいが鳴き声で応える。もちろん、了承の意だ。
シェリルはきゅいを抱っこし、ヴァイスの方へ連れて行く。
「ヴァイスさん、きゅいを乗せていい?」
「クゥクゥ」
ヴァイスはシェリルにすり寄り、どうぞ、というように見上げた。
ヴァイスの瞳は、サファイアのような深い青色だ。見惚れるような美しさである。
「それじゃ、乗せるわね」
「きゅいきゅいっ!」
きゅいはヴァイスの背に乗り、同じように抱きつく。こちらも気持ちがいいのか、顔を埋めてもふもふを堪能していた。
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