04.いざ、ターナー領へ!
シェリルは、王都へやって来た時と同様、たった一人だけ連れてきていた侍女のドリーとともに、ターナー領へ帰ろうと思っていた。
しかし、どうしてだかお供が増えていた。
目立たないように紋章などはついていないが、それなりに立派な馬車に乗せられ、中にはシェリルとドリー、そしてネイトがいた。それに、帝国皇子の護衛ということで、最少人数ではあるが王立騎士団の精鋭が四名。馬車の前後左右について仕事にあたっていた。
シェリルとしては大きな誤算だ。どうしてネイトまでついてくるのか。
『俺が見つけたんだから、孵るまで見届ける義務がある。卵の中身も気になるが、それ以上にあんたが気になる』
そう言って、半ば強引にシェリルついてターナー領へ行くことを、王に認めさせた。
卵が気になるのはわかる。だが、「あんたが気になる」とは? 意味がわからない。
王都からターナー領まで、馬車で五日ほどかかる。長い道のりだが、馬車の乗り心地がよく、道中も比較的平和だったせいか、王都へ来る時よりも楽に帰ることができた。
しかし、ずっとネイトと一緒というのは正直きつかった。向こうは砕けた態度で話しかけてきたり、揶揄ってきたりするのだが、こちらも、というわけにはいかない。失礼のないようにと心がけながら話をするのは、結構骨だった。
そして、ようやくターナー領へ到着する。先触れを出していたので、両親をはじめ、使用人たちや一部の領民たちもシェリルたちを出迎えてくれた。
「おぉ、シェリル! よく帰ってきた!」
逞しい形をしている父・セドリックが、太い両腕でシェリルを抱きしめる。「うげっ」と下品な声をあげるところを寸でのところで踏みとどまり、シェリルはグイグイとセドリックの胸元を押した。
「お父様! 苦しいです! 加減をしてくださいっ!」
セドリックの少し後ろでは、母のローザがころころと笑っている。
「困った人ねぇ。シェリルがお嫁に行ったらどうなるのかしら?」
「シェリルはターナー家の跡取りだ! 嫁にはやらんっ」
「あらあら」
ふふ、と優雅に微笑みながらも、ローザは他の面々に視線を遣る。
「シェリル、こちらの方はもしかして……」
「はじめまして、ターナー男爵夫人。オルグレン帝国第三皇子、ネイトと申します。現在は、この国で勉強中の身です。実は、私が漆黒の卵を発見し、シェリル嬢が孵すことになったのですが、発見したからには最後まで見届けたいとこちらへ寄せていただきました。しばらくの間、お世話になります」
ネイトがローザに微笑み、挨拶をする。その微笑みは、いつもシェリルが見ているものではなく、あくまで外面用といった品格のあるものだった。
(さすがは皇子……。口は悪くても気品はあるのよね。それに、当たり前だけど、ちゃんとした挨拶もできる。砕けた口調しか聞いたことがなかったから、ちょっと驚いてしまったわ)
シェリルはそんな失礼なことを思う。だが、彼のことを見直した。
クラーク王国よりも格上であるオルグレン帝国、しかもその第三皇子が、小国の末端貴族相手に丁寧な言葉遣い。立場上、もっと偉そうにしてもおかしくはないのに、ネイトはきちんと礼を尽くしてくる。
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