29-5.進化したポーション(5)
「きゅきゅきゅっ! きゅ~~~きゅっ!」
シンとなってしまった応接に、きゅいの高い声が響き渡った。
「きゅいちゃん?」
「きゅいっ!」
きゅいは、ローザの膝の上で足をバタバタとさせる。
「何か言いたいことがあるのね? シェリル、きゅいちゃんを」
「はい」
シェリルはローザからきゅいを受け取り、額を合わせた。
『だいじょおぶ! ねいとのかぞく、しぇりるすき。せどりくもろーざもすき』
「え? まだ会っていないのに、どうしてわかるの?」
『ねいとのはなし、きいてる。ねいとのかぞく、ねいとしんじてる。それに、きゅいもわかる。あってなくてもわかるの!』
「そう……なのね」
シェリルがきゅいの言葉を皆に通訳して聞かせると、セドリックとローザは目に見えて安堵していた。他の誰より聖獣の言うことなので、これ以上の信頼はない。
それに、よく考えればネイトがいるのだ。彼がターナー家にとって悪くなるようなことをするわけがないし、兄の訪問を許可してほしいというなら、異論などあるはずもない。
本当は、ターナー家の許可を取ってから決めたかったらしいが、その前に兄ケイシーはこちらに向かって出発してしまったらしい。
そんな裏話を明かした後、やれやれというようにネイトは大きく息を吐き出した。なるほど、ネイトが自由気ままと言うはずである。
「ネイト様、ケイシー殿下は……どうしてターナー領に?」
皆が落ち着いたのを見計らい、シェリルが尋ねると、ちょうど応接のドアがノックされた。その後、ドリーの声がする。
入室の許可を出すと、ドリーが新しい紅茶を運んできた。話に夢中になっていたせいで、最初に用意されていたお茶はすでにぬるくなってしまっている。
ドリーは手際よく皆に紅茶を淹れ直し、そのまま退出しようとした。その時、ふと気付いたようにローザが彼女に声をかけた。
「あら? ドリー、お肌のお手入れを変えたの?」
「え?」
きょとんとしているドリーにローザは近づいていき、彼女の頬に触れる。
「やっぱりだわ! 吸いついてくるようなしっとりとした感触、それに弾力もあって。肌色もいつもより綺麗に見えるわよ。これは絶対にお手入れを変えたか、何かいいことがあったかね!」
自信満々にそう宣言するローザに、ドリーはひたすら戸惑っている。何故なら、どちらにも心当たりがないからだ。
「あの、特にそういったことはないのですが……」
「あら、ごめんなさい。殿方の前でする話じゃなかったわね。ドリー、後でこっそり教えてくれないかしら?」
「いえ、ローザ様、本当に私……」
困っているドリーを見兼ね、シェリルは助け船を出そうとした。だが、改めてドリーを見て、はてと首を傾げる。
「でも……お母様の言うとおりよ、ドリー。でも変だわ。さっきまではこんな感じじゃ……」
首を傾げている女性たちを見て、ネイトが何気なく呟く。
「ポーションの効果、とか?」
その瞬間、シェリルとドリーが同時に叫んだ。
「それよ!(です!)」
「え? どういうことなの?」
「きゅいきゅいぃ?」
「おいおい、お前たち、私にもわかるように説明してくれないか?」
合点がいったように頷きあうシェリルとドリー、訳がわからず戸惑うローザにきゅい、そしてセドリック、きっかけを作ったネイトは「嘘だろ」と驚いている。
「さっき、きゅいが粗相をしたと言ったでしょう? それ、きゅいがポーションの瓶を倒してしまって、中身を零してしまったの。で、ドリーにそのポーションがかかってしまって」
「そうです、それしか考えられません! だって私、本当に何も変えていないんですもの!」
シェリルとドリーの主張に、皆が目を丸くしていた。
シェリルだって信じられない。普段作っていたポーションに、こんな効能があったなんて。しかも、速攻で効果が表れるなど──。
「ドリーがかかったポーションに、こいつの力は?」
ネイトの問いに、シェリルが首を横に振る。
「きゅいの力は入っていないの。蓋は閉じてもらっていたけれど」
「ということは、シェリルの力か」
「ポーションにそんな力があるなんて! 早速私も試してみましょう!」
ローザは嬉々としている。
それはそうだ。肌を美しくしてくれる美容液のような効果があるなら、女性ならぜひ使ってみたいと思うのは性である。
「よくわからんが、新しい効能が発見されたんだな。となると、ターナー領のポーションの価値は益々上がるな!」
「えぇ、そのとおりよ!」
喜ぶ両親を前に、シェリルも気持ちが高ぶってくる。
きゅいの力を加えた新生ポーションと合わせ、これまでのポーションも他の領地や王都に卸すことができれば。そして、それがものすごく売れたとしたら。
「ターナー領は、貧乏から脱出できる……?」
「脱出できるどころか、一気に豊かになるだろうな」
見上げると、ネイトが優しく微笑んでいた。つられるように、シェリルも微笑む。
「どうしよう、嬉しすぎるわ!」
「そうだな」
「でも、ちゃんと販売することができるかしら?」
いいように卸値を設定され、利益を横取りされる可能性もなくはない。
しかし、ネイトは自信ありげにニヤリと笑った。
「大丈夫。それは全く問題ない」
「きゅいっ」
同意するように、シェリルの腕の中できゅいが元気よく鳴いた。




