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03.漆黒の卵

 そんな毎日を過ごしていたある日、神殿に大事件が起こった。

 なんと、神殿の裏庭で、大人が両手で抱えなくてはならないほど大きな卵が見つかったのだ。


「かなり大きいらしいぞ」

「見つけたのは、ネイト殿下だって」

「何の卵だろう?」


 神官たちは大騒ぎしている。シェリルたち聖女候補も、何事かとハラハラしながら様子を見守っていた。


「卵ですって」

「裏庭に突然現れたなんて、どういうことなのでしょう? 動物や鳥が捨てていったとか……?」

「真っ黒な色をした卵を産む生物なんているのかしら? もしかすると……」

「恐ろしいですわ……」


 ベリンダとカレンが神官たちの話を耳にし、二人で身を寄せている。シェリルは二人から少し離れた場所で、外の様子に神経を尖らせていた。


 裏庭で見つかった卵は、漆黒の卵。しかも、それなりに大きい。

 漆黒の卵を産む生物など、聞いたことがない。神官たちも口々にそう言っていた。

 生物でなければ、何か。

 一番可能性が高いのは魔獣だ。瘴気に侵された獣は、魔獣になる。卵から産まれるのであれば、鳥の魔獣かもしれない。


 しかし、もう一つ可能性が残されていた。それは、聖獣の卵であること。

 聖獣とは、ゴード神の使いとも言われ、敬われるべき存在である。

 聖獣は、トラだったり狼だったり、ドラゴンだったりと、様々な形態をとる。そして、どんな形態であれ、卵から産まれるのだ。


 聖獣の卵である可能性が完全に否定されなければ、漆黒の卵を処分できないだろうとシェリルは考える。

 魔獣が生まれるかもしれないことを考えると、卵のうちに討伐しておいた方がいい。だが、もしも聖獣だった場合、ゴード神の怒りを買う恐れがある。そうなった場合、どのような災いがもたらされるかわからない。


 そうこうしていると、シェリルたちがいる神殿の中に、大神官をはじめ、聖女やコンラッド、卵の発見者であるネイトがやって来た。

 卵はおくるみのような柔らかな布にくるまれ、神官長が抱えている。白い布越しでも、卵の色は透けて見えていた。確かに黒い。


「大きいですわね……」

「えぇ。それに、真っ黒ですわ」


 ベリンダもカレンも顔色を青くしながら、神官長が抱える卵を見つめている。シェリルも同じように卵を見つめるが、心の中で首を傾げてしまった。


(真っ黒というから、どんなに禍々しいものかと思ったけれど……嫌な感じが全然しない。むしろ、清廉な空気を纏っているような気さえするわ。それに、なんて美しい黒なの)


 他の二人は怯えているが、シェリルに恐れはない。逆に、興味をそそられていた。


「聖女候補たちよ」


 大神官が三人に声をかける。すかさず、彼女たちは大神官に頭を垂れた。


「神殿の裏庭に落ちていた卵を、ネイト殿下が見つけてくださった。聖女様と私とで、これが悪しきものか良きものかを検分してみたのだが、判断がつかない。よって、この卵を孵すことにした」


 ヒッ、と隣から変な声がした。ベリンダとカレンである。二人は悲壮な表情をしていた。

 大神官が三人の前で事情を話す。こうなると、後の展開はもう決まっている。それは──


「三人で力を合わせ、この卵を孵すのだ。今日この瞬間から、卵の世話も修行の内に入る。異変があれば、すぐに知らせるように」

「承知いたしました」


 シェリルはすぐさま返事をしたが、あとの二人はおずおずと小さな声で応えるのみ。その声は震え、今にも泣きそうなほどに沈んでいた。

 それを見て気の毒に思ったのか、聖女が彼女たちに声をかける。


「例え魔獣の卵であっても、卵自体に危険はありません。それに、産まれそうになった時点で、卵は私たちが引き継ぎます。だから安心してちょうだい。決してあなたたちを危ないめには遭わせません」


 聖女の慈悲深い微笑みに、ベリンダもカレンも気持ちを浮上させる。コンラッドの前ということもようやく思い出したのか、彼女たちは瞳を輝かせながら言った。


「聖女様のご配慮に感謝いたします。私、精一杯お世話させていただきますわ!」

「ありがとうございます、聖女様。私も、大切にお世話いたします!」

「ありがとう、ベリンダさん、カレンさん」


 にっこりと微笑む聖女は、まさしく女神そのものだ。彼女の側に立っていた大神官も、満足そうにうんうんと頷いていた。

 そこで、シェリルは初めて声を発する。話がまとまりかけたその瞬間、この機を逃してはならないとばかりに声を張った。


「お待ちください、聖女様、大神官様」


 今までいるかいないかわからないほど存在感を消していたシェリルに、この場にいる全員が彼女に視線を向ける。シェリルは皆に向かって深く一礼し、後を続けた。

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