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02-2.聖女候補としての日々(2)

 朝食の後は、聖女の教育を受ける。そして昼食、休憩。その後は、ゴード神への祈りと続く。

 夕方になる前に、干していた洗濯物を取り込んで畳み、所定の位置へと戻す。それが終われば、夕食まではちょっとした自由時間だ。そして夕食を済ませた後は、軽く湯あみをして、就寝。朝が早いので、さっさと寝ないと身体が持たない。

 ……それは、シェリルに限ってのことだが。


 毎日あれこれとやることがあり、忙しい。なので、夕食までの自由時間が、彼女たちの唯一の癒しの時だった。

 神殿の庭を散策したり、互いの部屋で簡単な茶会をしたり、神殿の外に出るのでなければ特に行動の制限はない。ベリンダとカレンは、神殿に商人を呼びつけて、買い物を楽しんだりもしていた。


 本来ならば、聖女候補としての教育期間であり、修行期間でもあるこんな時に、こういった行動は褒められたものではない。しかし、神官たちは見て見ぬ振りをしていた。神官長もである。

 彼は、この件について大神官には報告せずにいた。仮に報告していたなら、彼女たちに一言あってしかるべきだろう。だが、後々彼女たちの親が出張ってくるのも厄介なので、大神官以外の人間の胸の内に収められていた。


 *


 時折、王太子が友人を連れ、彼女たちの様子を見に来る時がある。そんな時のベリンダとカレンのはしゃぎようといったらない。


「あぁ、この服が忌々しいわ!」

「せっかく殿下にお会いできるというのに、最高の私を見せられないなんて!」


 未来の夫になるかもしれない男と会うのに、みすぼらしい格好。

 修行中なので仕方のないこととはいえ、二人にとっては拷問にも等しい。

 服装はどうしようもないので、せめて髪を綺麗に整えて飾りをつけたり、できるだけ美しく見えるように化粧をしたりと、普段まったく見せない努力をここぞとばかりに発揮する。


「ベリンダ嬢、カレン嬢、シェリル嬢、聖女教育は順調かな? 皆、優秀だと神官長から聞いているよ。よく頑張っているね」


 王太子であるコンラッドが優しく微笑むと、ベリンダもカレンも頬を紅潮させ、瞳を潤ませる。


「コンラッド殿下、勿体ないお言葉でございますわ。私たちは日々、聖女様である王妃陛下のお力になりたいと願い、懸命に努力しておりますの」

「コンラッド殿下のお顔を拝見するだけで、いくらでも頑張ろうと思えるのですわ」


 二人の熱烈アピールにも、コンラッドは優雅な笑みを絶やさない。その隣では、彼の友である男が、皮肉げな笑みを浮かべていた。


 彼の名は、ネイト=オルグレン。大陸の数多くの国を傘下に置く巨大帝国・オルグレン帝国の第三皇子である。

 ネイトは現在クラーク王国に遊学中であり、コンラッドと同じ年ということもあって、二人は親しい間柄だった。

 金髪で琥珀色の瞳を持つ優しげな雰囲気のコンラッドとは対照的で、彼の髪は濃紺、そして緋色の瞳を持っていた。

 並んでいる様は、まるで光と闇──。


 二人とも見目麗しい容姿で、ベリンダとカレンは最初「王太子妃になれなかった方が、帝国皇子を落とす」などと言っていた。しかしそれは、あっという間に崩れ去る。


「本当に三人全員が優秀なのかねぇ? 俺にはとても信じられないが」

「ネイト、努力している者に向かってそれはないよ。ごめんね、ネイトは根はいい奴なんだけど、口が悪いんだ」

「い、いえ……大丈夫ですわ」

「もっ、問題ございませんわ」


 二人が尻込みしつつ返事をする。

 ネイトはその容姿とは反し、口が悪く、令嬢に対しても容赦ない人物だったのだ。

 それがわかった途端、ベリンダもカレンもネイトを恋愛……いや、婚姻の対象から排除した。


 シェリルは、そんな様子をただ傍観しているだけだ。

 彼女にとって、王太子も帝国皇子も興味の対象ではない。彼女の目指すところはたった一つ。

 ──いかにして早く、ターナー領へ帰るか。

 それだけだった。


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