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13-2.密談(2)

 その言葉に、ネイトは小さく肩を竦める。


「俺じゃなくて、おそらくは……」

「シェリル嬢が王都ここへやって来たから?」


 先を越されたネイトは面白くない。ジロッと睨みつけてはみるが、コンラッドは穏やかに微笑むだけだ。

 にこにこと笑ってはいるが、彼は食えない男である。


「魔力量で聖女候補は決まるということだが、身分も関係あるんだろう? そうでないと、シェリルが候補の一人だという意味がわからん」

「身分もまったく関係がないわけじゃないけれど、基本的には魔力量重視だよ。あの三人の魔力量は拮抗しているんだ。だから、教育期間で適性も鑑みて、総合的に判断しようってことになっている。まぁ、シェリル嬢は早々にリタイアしたけれど」

「……」


 コンラッドのこの言葉を聞いて、ほんの一瞬、ネイトは訝しげな顔をした。

 会話に齟齬が見られたのだ。しかしこのことは、コンラッドの方は気付かなかったようだ。ネイトはそれを理解しながらも、あえてスルーする。


「しかし、彼女は聖獣の卵を孵化させ、また懐かれている。しかも言葉を聞くこともできるなんてね。こうなると、聖女は彼女ということに……」

「彼女はそれを望んでいない」


 ピシャリと言葉を遮るネイトに、コンラッドは面白そうに眉をあげた。椅子から立ち上がり、ネイトに近寄っていく。


「ふぅーん。ネイトは、シェリル嬢を聖女にしたくない、と」

「シェリルがそれを望んでいない」

「で、ネイトは?」


 チラリと窺うような視線を寄越すネイトに、コンラッドが揶揄い口調で更に重ねる。


「ネイト自身はどうなんだ? 本当は、この件を私と話し合いたかったんじゃないのかな?」


 言葉にするまでもなく、コンラッドにはネイトの言いたいことがわかっている。なにせ勘のいい男なのだ。やはり食えない。

 しかし、そんなことはとうの昔にわかっていることだ。ネイトだって、本音を隠して自分の主張が叶えられるとは思っていない。

 彼は、コンラッドの望む答えを口にした。


「お前の言うとおりだよ、コンラッド。俺は、シェリルを聖女にしたくない。彼女には叶えたい夢があるんだからな。それを見届けたいし、できれば手を貸したい。そのために……お前の協力が必要だ」

「意外と素直に答えたね。というか、できれば手を貸したいなんて、君がそんな殊勝なことを言うなんて驚きだ。まぁ君の中では「できれば」では、すでにないんだろうけどね」


 ネイトはクイと口角をあげる。


「わかってるじゃねぇか」

「君も立場ある身だ。それをどうやって乗り越えるのか、お手並み拝見といこう」

「それなら協力しろ。シェリルときゅいがターナー領へできるだけ早く帰れるよう、王と大神官に進言を」


 コンラッドはやれやれと肩を竦め、溜息をつく。しかしその表情は、ワクワクしている少年のようだった。

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