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10-2.いろいろ面倒臭い(2)

「聖女様だけは、ターナー領のことも考えてくれていたのよね。それだけでもありがたいことだわ。ね、きゅい」

「きゅいっ」


 きゅいはふかふかの絨毯の上で、コロコロと転がって遊んでいる。無邪気なものだ。

 だが、きゅいがこんな顔を見せるのは、シェリルとネイトの前だけだった。 

 聖女には、ほんの少し心を許したのか、普通に顔を見せるようになったし、ご飯もおとなしく食べている。最初は聖女が与えたものは全て拒否していたのだから、大きな成長である。


 しかし、相変わらず他の人間は全く寄せ付けない。王や大神官をはじめとする神殿関係者には、何を言われても反応しないし、聖女候補二人には威嚇までする。それはまぁ本気ではなく、可愛らしいものだが。なんなら、ネイトもしょっちゅうされている類のものだ。だが、あの二人にとっては恐怖だろう。

 見た目は小さくとも、聖獣だ。嫌われているなど、考えるだに恐ろしい。


「王様も他の人たちも、ターナー領を蔑視しすぎだわ。わざとそうしているみたい。共通の嫌われ者を作ることで、他の結束を固めるってやつよね。みみっちいというか、いやらしいっていうか」

「ぎゅっ」

「ターナー領を気遣ってくれるのは、聖女様だけなのかしら? 王子殿下たちはどうなんだろう? まぁ……ヘンリー殿下は嫌ってるわね。最初は口もきいてくれなかったし」

「ぎゅぎゅっ」

「コンラッド殿下はどうだろう? どちらかといえば、聖女様寄りのような気もするけれど……。でも、王太子殿下ともなれば、表面上は友好を示していても腹の中じゃどう思っているかなんてわからないし。第三王子殿下はまだお小さい、と言っても十二歳、そろそろ無邪気とは言えないお年頃よね。うーん……」

「きゅいいいっ」

「え?」


 きゅいが突然ジャンプし、シェリルの頭の上に乗る。そして、自分の手を乗せた。


「きゅ、きゅ、きゅう~」


 両手を右に左にと動かす。これはおそらく、撫でる仕草だろう。シェリルを慰めてくれているのかもしれない。……頭が重いが。


「ありがとう、きゅい」

「きゅう!」


 その時、ドアがノックされる音がした。そして、こちらが答える前に声がする。


「シェリル嬢、僕だ。時間はいいか?」


 声を聞いた途端、シェリルはへの字口になる。


「ヘンリー殿下……」


 毎日毎日飽きもせず、よくやる。仕事はきちんとしているのだろうか。

 ヘンリーに割く時間などない。そう言いたいところだが、言えるはずもない。

 シェリルは仕方なく、重い足取りでドアに向かった。きゅいを見ると、きゅい用の小さなベッドに潜り込み、姿を隠している。


「きゅい、すぐに戻るわ」


 小声で囁き、シェリルはドアを開けた。その瞬間、見事な作り笑顔と対面する。


「やぁ、シェリル嬢。今日こそは付き合ってもらうよ?」


(ええええ……嫌ですけど)


 そう思いながらも、かろうじて微笑みを浮かべるシェリルだった。

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