07-3.いきなりお別れ?(3)
そして、シェリルはチラリとネイトを見遣った。
聖獣が生まれるのを見届けたネイトは、もうターナー領にいる必要はない。
生まれてすぐに神殿へ報告していれば、彼はもっと早く王都に帰ることができたのに、どうして何も言わなかったのだろうか。父に言われるまですっかり忘れていたシェリルは、それが不思議でならない。
「なんだよ?」
「いえ、あの、えっと……」
こっそり見ていたのがバレており、シェリルがおどおどしていると、ネイトはニヤリと口角を上げる。そして、更にシェリルを自分の方へと引き寄せた。
「ネ、ネイト様っ」
「ぎゅ……」
シェリルとネイトに挟まれているきゅいは、ぎゅむっと潰されている。
きゅいを解放しようとするが、シェリルはネイトの腕に抱えられたまま動けない。そうこうしていると、シェリルの耳元で蕩けるような甘い声がした。
「俺に見惚れてた?」
ぶんぶんと激しく首を横に振る。だが、囁きはまだ続く。
「残念。それじゃ、どうしてこいつが生まれた時に、俺が何も言わなかったのかってことか?」
きゅいを見ながらそう言ったネイトを振り仰ぐ。
彼はシェリルの考えを読めるのだろうか。そう思ってしまうくらい、驚いた。
シェリルの表情を見て、ネイトが笑う。図星だな、と呟き、シェリルをそっと解放した。
「王家と神殿は、こいつを側に置きたがる。当然だ。聖獣は平和と力の象徴、聖獣の加護があれば、魔物に襲われる危険性がほとんどなくなるんだからな。それに、ゴード神の使いである聖獣がいる国に手出しなどできない。聖獣は最強の護りだ。だが、生まれてきたこいつは、信じられないほどシェリルに懐いた。まるで母親を慕うかのように。だから……すぐに引き離すのは酷だと思って、何も言わなかったんだよ。……だが、それはそれで残酷だったのかもな」
少し寂しげな顔をするネイトに、シェリルの胸がトクンと鳴る。まさか、そんなことを考えてくれていたとは思わなかった。
これは、ネイトの思いやりだ。シェリルときゅいを思う、とても優しい思い。シェリルは、その思いに笑みが零れる。
「ううん、残酷なんかじゃない。きゅいと一緒に過ごせたことで、得られたものは多いの。一緒に過ごせて、本当によかった。神殿に行けば、聖獣として崇められ、大切にされて、私たちの「きゅい」じゃなくなってしまうけれど、私にとって、ターナー領の皆にとっては「きゅい」に変わりない。可愛いきゅいと過ごせたことは、私たちの宝だわ」
「シェリル……」
「きゅいっ! きゅい、きゅいいぃっ!」
きゅいは何かを訴えるようにシェリルに向かって鳴き、ベロリと頬を舐めた。
「きゃあっ!」
「お前っ! なんてこと……」
「きゅいっ!」
得意げな顔をするきゅいに、ネイトは苦虫を噛み潰したような顔になる。
そんな対照的な二人を見て、シェリルは思わず笑ってしまったのだった。




