07.いきなりお別れ?
聖獣である真っ白な仔ドラゴン「きゅい」が生まれ、ターナー領は三日三晩祭りのような日が続いた。
聖獣が生まれてめでたいということもあるが、その愛くるしさに皆がメロメロになったせいもある。
特に、セドリックなどは始終目尻を下げ、にこにこにこにこしていた。だが、そんなセドリックよりも母ローザに懐いているところが悲しいところだ。
「きゅいちゃん、お肉をどうぞ」
「きゅいっ」
大きな口を開けて、分厚い肉にがぶりと噛りつく。
赤ちゃんだというのに分厚い肉もなんのその、肉だけでなく、魚も野菜も、とにかく何でも食べる。さすがドラゴンである。
きゅいはローザの膝に乗り、ご機嫌だ。隣にいるセドリックは、それが羨ましくて仕方がない。
「ドラゴンの性別はわかりづらいというが、きっとこいつは男なんだろうな」
呆れたようにネイトが言うので、シェリルは試しにきゅいに尋ねてみる。
「きゅい、あなたは男の子なの?」
「きゅう?」
「女の子?」
「きゅううう?」
本人もよくわからないようである。
「きゅい自身、わからないみたい。でも、育っていくうちにはっきりするかも。本人に自覚が出てくるかもしれないし。ちょっと楽しみね」
「きゅい!」
「まぁ! 女の子なら可愛くしてあげなくちゃね。きゅいちゃん用のお洋服を仕立てた方がいいかしら?」
ローザも何気に浮かれている。
ターナー家もそうだが、領民たちもきゅいを見かけると、皆一様に表情が緩む。シェリルにべったりとくっつき、大きな丸い瞳をきょろきょろさせている様子が、とんでもなく可愛いのだ。
きゅいにとって、目に入るもの全てが興味の対象で、鼻をひくひくさせて匂いを嗅いだり、口に入れようとしたり、こういうところは人の子どもと何ら変わらない。
きゅいは、シェリルに一番懐いている。その次がローザだ。あと、ドリーにもよく懐いている。
こうして考えてみると、きゅいは男性よりも女性に懐いている。シェリルの次に関わりのあるネイトにも懐いていないわけではないが、順位は低めだ。
「聖獣のくせにあざといんだな」
「ネイト様ったら」
「ぎゅうううう~」
きゅいがネイトに向かって唸る。意味はわかっていないだろうが、何となく良くないことだとわかるらしい。
そんなきゅいをデレデレ笑顔で眺めていたセドリックが、ふと気付いたようにシェリルに尋ねた。
「シェリル、きゅいはずっとターナー領にいられるんだよな? 神殿はなんと言って……」
「あああああああ!」
全員が驚きのあまり、ビクッと身体を震わせる。きゅいはバランスを崩し、後ろにひっくり返っていた。
「きゅう……」
「あぁっ! ごめんね、きゅい!」
「シェリル、突然大きな声を出してどうしたの?」
ひっくり返ったきゅいの身体を起こしながら、ローザがやれやれといった調子で言う。しかし、すぐに訝しげな顔をした。
「シェリル?」
「……忘れていました」
「え?」
シェリルはガクリと項垂れ、ぼそっと呟く。
「そうよね、神殿に報告しなきゃいけなかったわ。すっかり忘れていた……」
きゅいが魔獣だった場合、魔獣騎士団に討伐を任せることができるからと、卵をターナー領へ持ち帰る許可を得たのだ。そのことをすっかり失念していた。
卵は、元々神殿の裏庭に落ちていた。本来なら、神殿で孵すのが道理だ。そして、聖獣であるならその身柄も神殿にあるべき──
「きゅいを……神殿に返さなくちゃ……」
その言葉に、ターナー夫妻は大きなショックを受け、ネイトは複雑な表情を浮かべていた。




