8. おのこであっても部屋を清潔に保つのじゃ
『おのこであっても部屋は清潔に保つのじゃ』
一人暮らしの男性の部屋は汚い。
世間にはそのようなイメージがあるらしいけれど、祖父ちゃんはそれを男としてあってはならないことだと一蹴した。
自分の身の回りの世話すら出来ない人間は女の子の扱いも雑になるのだと。
それに部屋が綺麗な方が暮らしていて気持ち良いだろうと。
僕も心からそう思う。
女の子にも掃除や整理整頓が好きであって欲しいと強いるつもりは無いけれど、もしそんな相手と出会えて仲良くなれたらとても嬉しいかな。
「こ、ここっこここっこ、これどうぞぉ!」
やっぱり鶏かな?
「ありがとう、とても楽しみだよ」
「絶対に面白いので期待してくださいぃ!」
僕は畑尾さんからオススメの小説を借りていた。
もちろんBLではない一般向けのものだ。
畑尾さんはBL作品以外でも面白い漫画や小説をたくさん持っていて僕に貸してくれる。
「そ、そそそ、それであのぅ……」
畑尾さんは頭を僕の方に向けて少しずつ近づいて来た。
これはアレだよね。
よ~し頑張って撫でちゃうぞ。
「…………そこまで」
「むしろあたしにやってください!」
と思ったら畑尾さんの動きは草間さんと金森さんに止められてしまった。
畑尾さんは本を貸してくれる時に何故かいつも僕を空き教室に呼び出し、それを見た草間さんが何故かついてきて、これまた何故かいつの間にか金森さんも着いて来る。
「むうぅぅぅ!」
なでなでを止められた畑尾さんはおかんむりだ。
畑尾さんを撫でるのは気持ち良いから僕も残念だ。
「…………二人とも…………帰る」
「え~先輩に撫でてもらいましょうよ!」
「そうですぅ」
「…………同じクラス…………いつでもチャンス…………ふっ」
「ずるい!」
「ずるいですぅ!」
草間さんが二人を引き摺って空き教室を出て行ってしまった。
線が細いのにあんなに力があるなんて、草間さんは本当に不思議な女の子だ。
さて、僕も帰るかな。
「えいっ!えいっ!」
「?」
帰る前にお手洗いに寄ってから先ほどまで畑尾さん達と居た空き教室の前を通ったら、中から女の子の声が聞こえて来た。
なんとなく中をチラリと見たら、とんでもない光景が目に飛び込んで来た。
「えいっ!えいっ!」
「!?」
なんと小柄な女の子が箒にまたがってジャンプしていたのだ。
可愛すぎる。
しかもとても大きなお胸の持ち主で、ジャンプするたびに大きく揺れていた。
僕だって女の子の胸やお尻に興味はあるさ。
ただ失礼だから普段は凝視しないだけ。
でもこの女の子のお胸はあまりにも立派だったから思わず見てしまった。
いけないいけない、視線を逸らさないと。
制服のリボンの色から察するに先輩かな。
もし今の姿を見られていると気付いたらきっととてつもなく恥ずかしいだろうな。
よし、気付かれないうちにそぉっと廊下を通り抜けて……
「!?」
「あ」
目が合ってしまった。
途端に先輩の顔が羞恥で真っ赤に染まるのが廊下からでも分かった。
どうしよう。
「椙山様、どうかこのことはご内密にお願い致します」
「土下座は止めて!」
畑尾さんといい、今のJKは土下座がブームなのだろうか。
「ほら、制服が汚れちゃいましたよ」
「お見苦しいところをお見せ致しました」
先輩は立ち上がり、前かがみになってスカートについた埃をパンパンと払う。
狙ってやってるわけじゃ無いよね。
鋼の意思で自制しているのに、思わず覗き込もうとしてしまう。
なんという破壊力のある大きさなんだ。
「そういえば先輩、どうして僕の名前を?」
「この学校に椙山様の事を存じ上げない生徒はおりませんよ?」
「なんで!?」
僕、別に生徒会に入ってたり全校集会で前に出たりしたこと無いよ?
それなのに全校生徒が僕の事を知っているなんて変でしょ。
分かった、この先輩なりの冗談だよね。
本気で僕の言葉を不思議そうに思っている顔だけど演技だよね。
そうに違いない。
「椙山様は有名人でございますから」
「ふ、ふ~ん。照れちゃうなぁ」
そんなに自然に言われても騙されないからね。
そうだ、気になることと言えばもう一つある。
「先輩は何で僕に様付けするんですか?僕は後輩ですからもっと気楽に呼んで下さい」
「無理でございます」
「え?」
「無理でございます」
「……」
きっぱりと断られちゃった。
様付けなんてむず痒いから止めて欲しいんだけど。
「これがわたくしの普段の話し方でございますので、どうかご容赦ください」
「そ、そうなんだ」
それなら無理に変えて貰うのは悪いかな。
先輩のクラスメイトはもう慣れているのかな。
「それじゃあ僕は行きますね」
「はい、お恥ずかしいところをお見せしてしまい、大変申し訳ございませんでした」
「あはは、とても可愛かったから気にしないでください」
「っ!」
おっと、フォローになってなかったかな。
恥ずかしい感覚を思い出させちゃったかも。
このまま僕が居たら冷静になれないかもしれないからさっさと帰ることにしよう。
そう思い、僕は空き教室を後にした。
……
…………
……………………またジャンプしてないかな?
僕の中の好奇心が悪さをしてしまった。
こっそりと戻って来て空き教室で先輩がまた可愛らしい事をしていないか確認したくなってしまったのだ。
「え?」
しかし先輩は違うことをやっていた。
空き教室を普通に掃除していたのだ。
何故先輩が空き教室を掃除しているのか。
僕には思い当たることがあった。
うちの高校では空き教室や特別教室を月に一度だけどこかのクラスが掃除するルールになっている。
掃除はクラス単位で持ち回りなのだけれど強制ではないので実質ボランティア活動だ。
今日は先輩のクラスがこの空き教室の掃除担当で、参加者が先輩しかいないのではないだろうか。
窓から覗き見るに先輩は楽しそうに掃除をしているが、広い教室を一人で掃除するのは大変だ。
僕は迷わずにまた空き教室の中に入った。
「僕も手伝います」
「え?」
驚く先輩を無視して、僕は掃除用具入れのロッカーへと向かった。
「なんで戻って来てるの!?ダメえ!」
「え?」
「どうしてお戻りになられたのでしょうか。わたくし一人で問題ございませんのでお気遣いなく」
やっぱり素の話し方じゃなかった!
危うく騙されるところだったよ。
「一人でこれだけ広い教室を掃除するのは大変でしょう」
「掃除は好きですので問題ございません」
「奇遇ですね。僕も掃除が大好きだからやりたいんです。ダメでしょうか」
「わたくしから掃除の楽しみを奪わないでくださいませんか」
「ダメです。僕は悪い後輩だから強引にでも先輩の大切なものを奪っちゃいます」
「たたっ大切なものぉ!?」
あれ、今なにかとんでもなく誤解を招く言い方をしてしまったような。
う~ん、気にしたらダメだと祖父ちゃんの声で幻聴が聞こえたからスルーしよう。
それよりあのことを確認しないと。
「先輩、本当は普通にお話する人ですよね」
「何のことでしょうか」
「普通に話してもらえるくらいに先輩と仲良くなりたいです」
「わたくしにもチャンスが!?」
「機会?」
先輩は頑なに掃除の手助けを断ろうとするけれど、僕はそれをスルーして強引に掃除に加わった。
こんな大変なことを先輩だけに任せるわけにはいかないもの。
先輩の名前は片栗 聖依子。
僕の想像通りに片栗先輩のクラスがこの空き教室の掃除担当らしい。
「それにしても片栗先輩しか来ないなんて悲しいですね」
「そう仰らないでください。きっと皆様お忙しいのです」
いくらボランティアとはいえ、もう少しくらい参加してくれても良いのに。
掃除好きとしては少し悲しい。
「椙山様は掃除がお上手でございますね」
「片栗先輩こそとても手慣れてますね」
普段から掃除をしているのが良く分かる手つきだ。
掃除が好きと言うのも本当なのだろう。
「椙山様はどうしてこちらにいらしたのでしょうか?」
「どうしてって……ああ、そうですね。三年生の階には二年生は中々足を踏み入れないものですもんね」
僕は畑尾さん達とのやりとりを片栗先輩に簡単に説明した。
「畑尾様も条件、ではなくて椙山様のお知り合いだったのでございますね」
「うん」
どうやら片栗先輩が空き教室を掃除するためにカギを借りて来て、畑尾さんが掃除を少しだけ待ってもらうようにお願いしたらしい。
そして僕がお手洗いに行っている間に片栗先輩が戻って来て掃除を始める前に可愛いジャンプをしてたんだね。
「椙山様は今後もこちらの教室を使用する予定がおありでしょうか」
「それは畑尾さん次第……ううん、もしかしたら使うかもしれません」
確証は全く無い。
でもこの部屋を今後も良く使うことになるだろうと、そんな予感があった。
「でしたら気合を入れて磨きあげましょう」
「そうですね。ジャンプして飛べなくて床についちゃっても制服が汚れないようにしたいですね」
「椙山様の意地悪!」
口調はまだ硬いけれど少しは打ち解けられたかな。
「片栗先輩、また先輩が一人の時は僕に声をかけて下さいね」
「そんな……ご迷惑をおかけするわけには」
「こんなに楽しい事を独り占めなんてずるいです」
「ずるいのは椙山様でございます!」
「あははは、なんのことでしょうか」
初めて出来た年上の女の子の友達は、先輩らしくなくて綺麗好きな素敵な人だった。
「そうだ、僕に声をかけるって言っても探してもらうのは悪いので、こちらに連絡してもらえませんか?」
「え!?」
いつでも教室にいるわけじゃないからね。
スマホに連絡してもらう方が片栗先輩も楽だと思う。
でも僕なんかと連絡先を交換し合うのは嫌かな。
「先輩が嫌なら別の方法を考え……」
「これが私のIDです!」
良かった。
嫌じゃなかったらしい。
断られたらショックだったよ。
「ちなみに、畑尾様とも連絡先を交換なさってますか?」
「ううん、女性と連絡先を交換するのは先輩が初めてですよ」
「はじっ!?」
そこ驚くところかな。
僕、今まで女の子とほとんど縁が無かったんだもん。
でも最近女の子と仲良くなる機会が増えたから聞いておけば良かったかな。
いやいや僕から用も無く聞いたら気持ち悪いって思われちゃうよ。
先輩の場合みたいに理由があれば聞けるんだけどなぁ。
「条件満たしててもこれはアウト。殺される。絶対に殺される。誰にも言えない……」
最近のJKは小声で殺されるってつぶやくのが流行っているのかな。
別に僕が女の子と連絡先を交換してないことくらい、誰に言っても構わないよ。
それにさっきはスルーしたけど条件って何だろう。
他の女の子も似たようなことつぶやくんだよね。
う~ん、女の子って良く分からない。
えいっ!(たゆん)えいっ!(たゆん)
ハーレムルーム誕生(活用はもうしばらく後)




