6. 大変なことになった 1
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
どうしてこうなった。
きっかけは昼休みに草間さんが僕の席に来て発した一言だった。
「…………一緒に食べよ」
その瞬間、教室内にピシリと亀裂が入ったような音が聞こえたけど、その音の原因がどこにあるのか僕には分からなかった。
そして僕がそのことを不思議に思っている間に、草間さんは机をくっつけて準備を始めてしまった。
特に断る理由も無いし、むしろクラスメイトの女の子と一緒にお弁当を食べるなんて高校に入って初めての事だったから声をかけてくれて嬉しかった。
だから何も言わずに草間さんの準備が終わるのを待っていたんだけれど、そこに山瀬さんもやってきたんだ。
「私も一緒に食べる!」
「チッ」
山瀬さんも僕の返事を待たずに机をくっつけ始めた。
二人とも、そこは別の人の席だからね。
ちゃんと許可を取るんだよ。
その席の本来の使用者を探したら、遠くの方で『どうぞどうぞ』ってジェスチャーしてくれた。
良い人だ。
後でお礼を言わないと。
とか考えていたら、更に他の人もやってきた。
しかも今度は別のクラスの女の子。
「私もご一緒して良いかしら」
「わ、わわわわっ、わたしも参加しますぅ!」
「アタイもいるぜ」
関さん、畑尾さん、検見川さんだ。
そして冒頭のシーンになった。
五人は無言でお互いに目を合わせようとしない。
おかしいなぁ。
人生ではじめて女子と一緒にお弁当を食べる幸せな瞬間のはずなのに、なんでこんなに体が震えるんだろう。
五人ともお弁当に手を付けてないんだけど、これってまさか僕が何か言わなきゃダメなの?
よ、よし……
「そ、それじゃあ食べよっか」
「うん!」
「はい!」
「はーい!」
「……」
「あいよ!」
元気な返事が返って来た。
草間さんも無言だけど勢いよく首を縦に振ってる。
これで雰囲気が明るくなったかな。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
ってまた無言なの!?
何か話をしようよ!
やっぱり僕が話を振らなきゃダメなのかな。
でも誰か一人に振ったらダメだって僕の中の何がか警鐘を鳴らしている。
じゃあどうしたら良いの!?
そうだ、誰かに話をするんじゃなくて、みんなに話しかければ良いんだ。
「み、みんなは知り合いなの?」
よし、これなら大丈夫でしょ。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
だからなんで無言なの!?
いや、正確には答えてくれてるけどさ。
みんな小さく首を横に振っただけなんだよぅ。
「じゃ、じゃあさ、自己紹介とか、どうかな。時計回りで」
そもそもお互いに知り合いじゃないのに輪に入って来たのメンタル強すぎませんか。
僕がどうにか口火を切ったことで、ようやく彼女達は口を開いた。
「時計回りなら私からだね。私は山瀬美香。椙山君に私の女の部分を守ってもらったの。だからいつか『恩返し』するつもり」
「……」
「……」
「……」
「……」
男に乱暴されそうなところを助けたから『私の女の部分』って表現は間違ってはいないけれど、なんでそんな意味深な表現するのかな。
そしてなんで『恩返し』の所を自分の体を抱きながら意味ありげにゆっくりと言ったのかな。
これまた何故か分からないけれど、四人が山瀬さんをめっちゃ睨んでるよ。
「次は私ですね。私は五組の関彩音。椙山君には家族を救ってもらったの。だからいつか椙山君を家族に私の特別な人だって紹介したいと思っているわ」
「……」
「……」
「……」
「……」
勉強を教えただけだよね!?
僕が教えた事で関さんが奨学金を貰って家計の助けになって妹さん達も大学に行けるようになるってことなら間接的に救ったことにはなるかもだけど、敢えてそんな回りくどい表現する必要なくない!?
それに家族に紹介するってところ、なんか別の意味を含んでませんか。
やっぱり四人とも関さんを睨んでる!
「私は一組の畑尾晶ですぅ!なんと山瀬君に頭を撫でて貰いましたぁ!」
「……」
「……」
「……」
「……」
そこ紹介するの!?
趣味関連で仲良くなりましたで良いじゃん!
なんか今何かが折れる音がしたんですけど。
ヒイイ、山瀬さんと検見川さんが割りばし折ってるうううう!
「…………草間翔子。…………あ~ん…………処女を…………奪ってもらった」
「……」
「……」
「……」
「……」
言い方!
言い方がアウトだよ!
ほら、動揺して関さんが机に頭を何度も打ち付けてるよ。
「アタイは検見川希美。アタイの春は椙山君に買われちゃった」
「……」
「……」
「……」
「……」
おいいいいいいいい!
買ってないから!
借金を肩代わりしただけでしょ!
なんで春なんてヤバイ表現するのさ!
ほらぁ、四人とも驚いて僕の方を見てるじゃん。
死んだ目に見えるのは気のせい……だよね?
「みんな冗談が上手いんだから。あはは」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
笑って!?
じゃないと本気に聞こえるから!
「さ、さぁさぁ自己紹介も済んだことだし、お弁当食べながらお話ししよう」
この流れだと、また無言の気まずい空気になっちゃうのかな。
僕が話題を考えなければならないんだろうけど、何を振っても謎のギスギスした空気は解消されない気がする。
助けて祖父ちゃん!
と思っていたら、なんと一人だけ行動を起こした女の子がいた。
「…………あ~ん」
草間さんが、ナポリタンを巻いたフォークを僕の口に向かって差し出して来た。
怖っ!
四人が僕らをガン見してるんだけど。
目力凄い!
「く、草間さん?」
「…………あ~ん」
草間さんは退く気が無いみたい。
僕としては喜んで食べたいところだけど、これを口にしたらヤバい気がする。
具体的には、五人のお弁当が全て僕の胃袋に強制的に収まる流れになりそう。
無理無理無理無理!
僕はそんな大食漢じゃないんだよ。
どうにか……どうにかしないと!
草間さんを傷つけずにこの状況を乗り越える案を考えないと。
食べないのは選択肢としてあり得ない。
それなら……!
「あ、ありがとう頂くよ。代わりに僕のおかずも一つあげるね。みんなも交換しようよ」
これならおかずの交換会になるから、一つ交換するだけでなんとかなるかも。
僕が甘かった。
いや、確かに結果的には一つ交換するだけで大丈夫なのかもしれない。
でも量とは関係ない問題が発生したんだ。
「あ~ん」
「あ~ん」
「あ~ん」
「あ~ん」
他のみんなも僕におかずを同じように差し出して来た。
あの……真顔でじっと見つめて来るの止めて貰えませんか。
あ~んはそもそも甘いシチュエーションのはずなのに、なんでこんなに空気がピリピリしてるんですか。
うう、誰のから食べても波乱が起きそう。
どうすれば……どうすればこの危機を乗り越えられるの!?
「い、頂きます!」
ええい、もうどうにでもなれ!
僕は時計回りに順番に口に入れた。
「ど、どれもすごく美味しいよ!」
判定は……!
「やっぱり」
「分かってたわ」
「知ってましたぁ」
「……むぅ」
「せやな」
なんで僕を残念そうな目で見るのさ。
こんな時ばかり息が合ってるんだから。
いいもん、これで危機は乗り越え……え?
あの、なんでみんなお口を開けてるんですか。
その、勝手におかずを持っていってくれて構いませんよ。
まさか僕もあ~んをしなきゃダメなの!?
くっ……だったら今度も時計回りで順番関係なく……
うわ。
な、なんだ今の猛烈な寒気は!?
『やっぱり私が椙山くんの一番だね!』
『最初に会ったというだけの癖に!』
『これじゃあ私ずっと真ん中じゃないですか!』
『……ずるい』
『アタイはどうせ後回しにされる程度の女や』
恐ろしい幻聴が聞こえた!
あわわわ、毎回時計回りにするのはダメだ。
じゃあ今回は逆回りで。
「あ、あ~ん」
判定は……!
「やっぱり」
「分かってたわ」
「知ってましたぁ」
「……むぅ」
「せやな」
なんで反応がさっきと同じなのさ!
僕頑張ったよね。
みんなに満足してもらえるように頑張ったよね。
うう、祖父ちゃん、女の子の扱いが僕にはまだ分からないよー
「これ以上は可哀想だね」
「ええ、普通に食べましょう」
「次回に期待ですぅ」
「…………仕方ない」
「期待しとるでぇ」
え、え、どういうこと。
なんか普通にご飯食べ始めて談笑してるんだけど。
さっきまでのギスギスは何処に行ったの!?
良く分からないけどこれで僕も安心してお弁当を食べられるよ。
「それで椙山くんの香りに包まれちゃったの!」
「ふ~ん、私なんか駅前のカフェでデートしたのよ」
「わ、わわ、私は二人だけの秘密がありますぅ」
「…………認知された」
「アタイは死ぬまで続く契約をしたんよ」
談笑……してるんだよね?
もう初夏だっていうのに、なんか寒いなぁ……
こちらの話で一区切りになります。
よろしければブクマ&評価をお願い致します。
今後はここまでと同じようにヒロインを助けてからの修羅場の流れで物語を進める予定です。
キャラの深堀とか知りません。
ひたすらヒロインを増やしてヤバいことにするのが目的のお話です。




