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『おなごが困っていたら助けなさい』という祖父ちゃんの遺言を守って助けまくったら大変なことになった  作者: マノイ
同級生編

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5. おなごを守るための力とは武力だけではない

『おなごを守るための力とは武力だけではない』


 椙心流現代武術を学ぶ際に、祖父ちゃんは毎回必ず最初にこの心構えを教えてくれた。


 どれだけ強くてもそれだけでは救えないのだと。


 強さ以外の力も身に着けてはじめて女の子を守れるのだと。


 だから僕はそれらを譲り受け・・・・、そして自分でも準備をした。


 まさかそれらが役立つ日がこんなにも早く来てしまうとは。




 僕にはいきつけの喫茶店がいくつかある。


 その中でも特にお気に入りなのが、人気ひとけの少ない路地裏にひっそりと佇むように店を構えている『カフェ マグナカルテ』だ。


 いわゆる隠れた名店で、コーヒーだけでは無くて紅茶や甘味も美味しい。


 最近訪れていなかったので今日は久しぶりに学校帰りに行こうと思う。


「いらっしゃいませー」


 店に入ると女の子の声が聞こえて来た。


 いつもはダンディな店長さんが低音ボイスで迎えてくれるから、思わず違う店に入っちゃったのかと思ったよ。


 最近雇ったのかな。


「お好きな席へどうぞ」


 僕と同い年くらいの女の子だった。


 シックなタイプの露出が少ないメイド服を着ていてとても似合っている。


 ここのお店ってこんな女性用の制服があったんだ。


「アイスレモンティーと本日の一口ケーキで」

「はい、かしこまりました」


 笑顔が可愛くて愛想も良くて無駄に声を張らずに静かな店の雰囲気を壊していない。


 この女の子ならここで雇ってもらえるのも納得だね。


 常連さんも文句は言わないと思う。


 さて、畑尾さんにお勧めしてもらった『普通の』小説でも読みながらくつろぐかな。




 それからしばらく経った後、カランと扉が開く音がした。


 普段はその音すら気にならない程にリラックスしているのだけれど、その音がかなり乱暴だったため思わずそちらに目をやった。


 そこにはガラの悪い、どう見てもまともな職業について無さそうな男が三人いた。


「いらっしゃ……え!」

「よう、ネェちゃん。探したぜ」


 男達は迎え入れようとした店員の女の子を見つけると囲んだ。


「ど、どないしてここが」

「そんなつれないこと言うなよ。ネェちゃんが心配で探したんだぜ。まさかこんなくっそ地味なところで働いてるとはな」


 地味とは失礼な。


 雰囲気があるって言うんだよ。


「あの……お客様の迷惑になりますので後程来て頂けませんか?」

「あぁ?客に向かってその態度はねーだろ」

「そうそう、それにネェちゃんのパパが俺らから借りたお金を今すぐ返してくれるならすぐにでも帰ってやるぜ」


 大体事情は分かった。


 分からなくてもやることは変わらないけど。


「そこまでにしてください」

「あぁ?」

「なんだガキ」


 女の子が男に恐喝まがいのことをされていて黙ってられるわけが無いだろう。


 彼女と男達の間に体を滑り込ませて壁になる。


「椙山クン、アカンよ」


 あれ、僕の名前を知ってるんだ。

 もしかして同じ高校に通ってるのかな。


「そうそう、これは俺達とネェちゃんの問題なの。ガキはすっこんでろ!」

「いいえ、今はこの店の問題です。客として不躾な輩に帰って貰いたいのは当然のことです」

「なんだとこのクソガキャ!」


 凄んでくるが、まともに殺意を篭められない睨みなど全く怖くない。


 少しだけお手本を教えてあげるかな。


「ヒイッ!」


 おっとやりすぎるところだった。


 久しぶりなので加減が難しいなぁ。


 こんなんじゃ祖父ちゃんに怒られちゃうよ。


「チッ、行くぞ」

「兄貴!」

「ま、まってくだせい~!」


 男達はひとまず諦めたのか店を出て行った。


 この程度で逃げ出すとか、よく裏の世界でやっていけるな。


「大丈夫?」

「何で余計な事すんねん!」

「え?」


 女の子の様子を見たら、何故か僕に対して怒っていた。




「あのなぁ、あんなことしたら椙山クンも奴らに目ーつけられちまうよ。アタイのせいで君が危ない目に合うのは嫌や」

「僕のことを心配してくれたんだね。ありがとう」

「な、いや、そうやけど、なんか調子狂うやっちゃな」


 この女の子は検見川けみがわさん。

 やっぱり僕と同じ高校に通っていて同級生だった。


 接客時は丁寧な言葉遣いだけれど、こっちが素の話し方みたい。


 今は店長に許可をもらってカフェで事情を聞いているところだ。


「でも危ない目にあっているのは検見川さんも同じじゃないか。僕もそれは嫌だよ」

「おうふ、やっぱり聞いていた通りの人やな」

「聞いていた通り?」

「何でもあらへん」


 関さんや畑尾さんに何か聞いたのかな。


「それで返済の目途は立ってるの?」

「もちろんや。アタイがここで稼げばすぐにでも完済や」

「それは良かった。で、本当は?」

「……」


 そんなあからさまな嘘を信じるわけが無いよ。


「かんにんしてや。ワイが頑張って働いてお金を返してハッピーエンド。それでええやん」

「ダメ。そのハッピーエンドの中には検見川さんが含まれてないから」

「むぅ。案外しつこい男やのぅ」


 検見川さんが困っているのを助けられるなら、例え嫌われようとも粘り続けるよ。


『おなごに好かれるために守るのではない。おなごを守りたいから守るのじゃ』


 祖父ちゃん、僕もそう思うよ。


「あの男達、どう見ても普通の借金取りって雰囲気じゃなかったよ。お父さんの借金がどうとかって言ってたけど、本当の狙いはお金を返してもらう事じゃなくて検見川さんな気がする」

「……」


 あの男達の検見川さんを見つめる嫌らしい目つきがそのことを物語っていた。


「検見川さん可愛いから狙われるのも分かるけど心配だよ」

「か、可愛っ……かー、これが例のアレか。アカン、これはアカンでー」


 例のアレが何かは分からないけど、検見川さんが可愛いのは間違いないよ。

 特に愛嬌のある笑顔が素敵だと思う。


「ほらほら、白状しちゃいなよ」

「う~ん、う~ん」

「百万?二百万?」

「いやぁ、そのな、知ってどうするつもりなん?」


 どうするってそんなの決まってるじゃないか。


「僕が肩代わりするつもりだけど」

「は?」


 あいにくとお金には余裕があるんでね。

 変な人が寄って来るかもしれないから誰にも言ってないけど。


「いやいやいや、意味が分からへん。百万や二百万を肩代わりって親に黙って勝手に決めて良い事じゃあらへんよ」

「僕のお金だから自由に使えるよ」

「ふぁっ!?」


 小学生の頃から小遣いやお年玉を原資に株で稼いだんだよね。


 株取引の知識はもちろん全部祖父ちゃん仕込みだ。


「で、でも流石に三千万は無理やろ!」


 ふ~ん、結構な金額の借金があるんだね。


「分かった。三千万ね。準備しておくから契約書を用意しといて。後正確な金額も」

「ちょっちょっ……………………マジで?」

「うん。余裕だよ」


 資産は億を軽く超えるからね。

 三千万程度なら何も問題無い。


 普段は使わないでひたすら増やしているだけで使い道が決まってないお金だから、女の子を助けるためなら気持ち良く使えるよ。


「いや、でも、それは流石にアカンっていうか」


 分かってる。

 そんな大金を突然赤の他人から支援されても、恩が大きすぎて罪悪感で気持ちが押し潰されちゃうよね。


「じゃあさ、僕からお金を借りてよ」

「へ?」

「もちろん無利子で、返済期間は特に設けない。いつの日にか返してくれれば良いよ」


 だからあげるのではなくて貸すことにする。

 借りをいずれ返せるのだと思えば、少しは気が楽になるだろう。


「あの怪しい男達にいつまでも付きまとわれるのと、将来的にいつか僕に返せば良いっていうの、どっちが良い?」

「その言い方は卑怯やわ」

「検見川さんが助かるなら卑怯でも何でも良いよ」

「ぐうっ……」


 よしよし、これで検見川さんは観念してくれたみたい。


「なぁ椙山クン、なんでアタイにこんなに親切にしてくれるん?」

「なんでって、困っている人を助けるのは普通の事でしょ?」

「……」


 だよね、祖父ちゃん。




 さて、後は最後の仕上げをしないと。


 といっても僕がやることはもうほとんど無いんだけどね。


「そうそう検見川さん」

「なんや」

「しばらくはここで働いてくれないかな」

「ええけど、なんでや」

「検見川さんのメイド服が似合ってて可愛いから」

「んなっ!」


 あはは、真っ赤になっちゃって可愛い。


 似合っているのは本当だけど、理由は他にある。


 僕はチラリと店長に目線をやった。


「……」


 店長はこくりと頷くと何処かに電話をかけた。


 これで奴らがこの店に来ることは無いだろうし、もしあくどい方法で検見川さんのお父さんを騙したのなら二度と表舞台には出られなくなるだろう。

 あるいは検見川さんのお父さん自身に大きな問題がある場合は、手痛い『説教』を受けて貰って二度と同じことを起こさないように変わるはずだ。


 このお店は僕が祖父ちゃんから譲り受けた『権力』が集う場所。


 表と裏の世界の重鎮達が客として訪れる、知る人にとっては魔境とも言えるお店。


 そんなことすら知らない三下が訪れても、本来なら軽くいなされて追い返されるだけ。


 今回は取るに足らない相手だったからか、みんなが僕に彼女を守るようにとヒーロー役を譲ってくれた。


 検見川さんがこのお店で働いている以上は、彼女の安全は守られて万が一すら起きないだろう。




 後日、僕は検見川さんが居ない日にこの店を訪れて店長さんや常連さんにお礼を言った。


「御大の忘れ形見である君のためならこのくらいどうってことない」

「ねぇねぇ和也くん、あの子との仲はどうなったの。もうやっちゃった?」

「おいおい、はしたねーな。和也は御大とは違ってそういうタイプじゃねーだろ」

「不思議だよな。御大とそっくりなのに、何故か草食系なんだよな」

「奥様がそれだけ頑張ったってことじゃないの」


 こんな風に気さくに話しかけてくれるけれども、総理大臣や警視総監や最高裁判所長官とかが混じってるんだよなぁ。


 祖父ちゃんは何者だったんだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんでもアリで笑ってしまった こういうの大好きです
[一言] 祖父ちゃん何者w 無自覚系主人公だけどめちゃくちゃ面白い。
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