14. ギャップこそが魅力なのじゃ
新章の最初は軽めのお話から。
多分ギャップ云々を特に感じる話にはなってません。
『ギャップこそが魅力なのじゃ』
それは女の子だけではなくて男も同じ。
だからギャップになり得る何かを身につけること。
祖父ちゃんのこの教えのおかげで僕は男だからという先入観なしに好きなものを好きと思えるようになった。
そしてその中には女の子と話が合う物も含まれていて、そのことについてずっと話がしたかったんだ。
『今日の放課後、生徒会室に来るように』
その日、登校するとこんな手紙が僕の机の中に入っていた。
生徒会からの呼び出し。
僕に一体何の用だろうか。
「椙山様、らぶれたぁでございますか?」
「違いますよ。そしてなんで朝から二年生の教室に来てるんですか」
「挨拶は大事でございます」
「僕もそう思いますけど、クラスメイトや偶然会った人だけで良いと思うんですが」
「でしたら明日からは昇降口でお待ちしております」
「偶然って言いましたよね!?」
僕の知り合いの女の子達はどうしてこうも話が通じない人が多いのだろうか。
「そういえば片栗先輩、今の生徒会ってどんな感じの人達がやってるのか知ってますか?」
「生徒会でございますか?」
「うん、去年の生徒会選挙は見たけどあまり覚えてないんですよね」
確か女の子の立候補が多かったはず。
「今は全員女子でございますね」
「全員!?」
「まさか椙山様。彼女達も毒牙にかけなさるのですか?」
「まるで僕が何度も女の子を毒牙にかけたような言い方は止めてくれませんか?」
「…………」
だからそこで無言にならないでよ。
そしてクラスメイトの女の子達。
君達がジト目でこっち見てるのも気付いているんだからね。
僕は無実だ!
「もしかしたら椙山様の方が毒牙にかけられてしまうかもしれません。何卒お気を付け下さい」
「え?どういうこと?」
「名残惜しいですがお時間でございます。それではまた」
「ちょっと待って!説明してから戻って!」
もしかして男子を徹底的に弄るタイプの女の子の集まりとか。
それは苦手だなぁ。
僕、放課後どうなっちゃうんだろう。
だからと言って行かないわけにはいかない。
僕は放課後になると生徒会室へと向かった。
ノックをすると中から声が返って来た。
「は~い、開けて入って来て……会長!?」
「マズい、誰か会長を止めろ!」
「きゃああああ!」
「副会ちょおおおお!」
「行かせん。行かせんぞおおおお!」
…………なにこれ。
部屋の中から何かが盛大に暴れている音が聞こえる。
話の内容から察するに生徒会長が悪さしているのかな。
あの爽やかな人が?
生徒会そのものの印象はほとんど無いけれど、生徒会長だけは強く印象に残っている。
女の子ながらイケメン王子様って感じの人でハキハキした言動と爽やかな雰囲気が特徴的。
そして男の僕でも思わずついて行きたくなるような天性のリーダーシップの持ち主だ。
決して暴れるようなタイプには見えなかったんだけれど、一体何が起きているのだろうか。
しばらくすると中が静かになり、扉が開いた。
「やぁ、騒がせてしまってすまないな」
キラリンという擬音が似合いそうな笑みを浮かべた生徒会長だ。
会長はそのまま外に出て扉を閉めた。
「会長お戻りください!」
「自分だけなんてズルイです!」
「そうだそうだ!横暴だ!」
「あれ、鍵がかかってる」
「ヒドイ、内側の鍵が壊されてるぞ」
「おい、窓から出るぞ。絶対に二人っきりにさせるな!」
「はい!」
あの、部屋の中から不穏な会話が聞こえてくるんですけど。
「さっそくで悪いが移動しようか。ここだと色々と問題がありそうだからな」
「はぁ……」
会長は何事も無かったかのように歩き始め、僕をある部屋に先導した。
「生徒指導室?」
「ああ、といっても別にオレがキミを指導するわけでは無いから安心してくれ。空いていてバレにくい場所ということで先生にお願いして借りただけさ」
外から生徒会役員の女の子達と思える声が聞こえて来る。
「何処に行った!?」
「ダメです、見当たりません」
「こっちもです」
「くそ……どうしても私達にチャンスを与えない気か!」
よし、決めた。
気にするのは止めよう。
会長に事情を聞いたところで不毛な答えしか返って来ない気がするし、そもそも余計なことをすると色々と泥沼化する気がする。
「それで僕に何の用事があるのでしょうか」
「うむ。用件は二つある」
「二つですか」
「ああ、まず一つ目だが、これはキミへのお願いだ」
「お願いですか?」
「単刀直入に言おう。『問題を起こさないでくれよ』」
「……」
何の事だろうか。
なんて流石にとぼけることは出来ない。
僕と女の子達のやりとりが何故か全校生徒を巻き込んだ騒ぎになりかけているのだから。
「勘違いしないで欲しい。別にキミ達が問題を起こしているから注意しているわけではないんだ」
「そうなんですか?」
昼休みの騒ぎに対する注意とか、不純異性交遊を疑われているとか、そういう話かと思ったのに。
「キミ達は全力で青春を送っていて、他の生徒達もそれに便乗しているだけのことさ。何も問題は無いよ。今はね」
「…………気をつけます」
おふざけであってもエスカレートして怪我人が出る程の騒ぎになるかもしれない。
特に全校生徒という大人数で一つの騒ぎに加わると感覚がマヒして普段はやらないような危険な行為をやってしまう可能性もある。
それに単純に女の子達の謎の戦の行く末も気になるところだ。
今のところは言葉でジャブを打ちあっているような雰囲気だけれど、それも今後エスカレートするかもしれない。
『刀傷沙汰になってからが本番じゃ』
祖父ちゃんは黙って!
「いやいや、繰り返しになるが勘違いしないでくれ。キミはこれまで通りのキミで居てくれて構わないさ」
「そうなんですか?」
「ああ。キミの行いは全て把握しているし、それらが間違いでは無かったことも分かっている。彼女達の行動の意味も分かる。だからキミは彼女達が問題を起こさないようにほんの少しだけ注意して見てくれるだけで良いよ。もし本格的に問題が起きそうだったら我々が介入してなんとかするからさ」
「ですがそれでは生徒会にご迷惑をおかけしてしまいます」
「構わないさ。むしろ遠慮なく迷惑をかけてくれ。だってオレ達は『生徒会』なんだよ。生徒達の青春をサポート出来るのなら本望さ」
会長格好良い。
こんな風に全肯定されて任せなさいなんて自信満々に言われたら信じざるを得ないじゃないか。
これがリーダーシップってやつなのかな。
「オレとしては特に言う必要も無いことだと思うんだがな。風紀委員長や先生から頼まれちまったんだよ」
「信頼されてるんですね」
「嬉しいけどよ、オレだって……いや、なんでもねぇ」
会長の言いたいことは何となく分かった。
きっと頼られるだけじゃなくて頼らせてもらって引っ張って欲しいと思う時もあるのだろう。
そりゃあそうだ。
だって会長だって一人の女の子なんだから。
「僕で良ければ力になりますから遠慮なく頼って下さいね」
会長の心の負担を軽くするためにとの言葉が口をついて出た。
「…………なるほど。これがキミの力か。これほどまでに威力があるとは。道理でみんなが夢中になるわけだ」
「会長?」
「いや、気にするな。それよりも二つ目の用件に移ろう」
一瞬だけ会長から山瀬さん達と似たようなオーラが発生したような気がするけれど気のせいだよね。
「二つ目なんだが、その、うん、あれだ」
「言いにくい事ですか?」
会長でも言い辛い事ってあるんだ。
何でもはっきりと爽やかに言い切るイメージがあったから少し驚きだ。
「言いにくい、わけでも、なくはなくはないような、そうでないような」
「あはは、どっちなんですか」
「いや、スマン。それじゃあ聞くぞ」
「はい」
そうして会長が告げた言葉は予想外の質問だった。
「それ、どこで手に入れたんだ?」
「え?」
会長が指さしたのは僕の鞄についている小さなぬいぐるみ。
「『まねこねこ』のぬいぐるみは山瀬さんから貰いました」
「ああ、そっちは知っているんだ。もう一個の小さい『まねこねこ』を一体どこで手に入れたんだ?」
「これは僕の手作りなんです」
「手作り!?」
「はい。ちょっと出来が悪くて恥ずかしいんですけど」
会長は金魚みたいに口をパクパクして驚いている。
餌を放り投げてみたいな。
「ま、待ってくれ。キミはそれを自分で作ったと言うのか!?」
「はい、僕はぬいぐるみを集めたり作るのが趣味なんです」
「なんだって!」
まだ誰にも言った事ないんだけどね。
やっぱり少し恥ずかしくて。
「なんということだ。まさかキミにそのような趣味があったなんて」
「ひきました?」
「そんなことあるものか!確かに意外ではあったが素敵な趣味じゃないか」
「あはは、ありがとうございます」
ああ、良かった。
ひかれたらショックだったもん。
でも意外って思われたってことは祖父ちゃんの教え通りにギャップに感じて貰えてるってことなのかな。
「そこで、だ。キミにお願いがあるのだが」
「なんでしょう」
「これの小さい版を作って貰えないか!」
「え?」
会長はポケットから小さめのぬいぐるみキーホルダーを取り出した。
『レオカー』という車とライオンを合体させたようなぬいぐるみで一昔前に流行ったものだ。
「わぁ、会長は『レオカー』好きなんですね」
「変……かな」
「そんなことないですよ。会長の一般的なイメージとは違うかもしれませんが、可愛くて似合ってますよ」
「可愛いとは何がだ?」
「もちろん会長がですよ」
「ふぁっ!?」
イケメンタイプで凛々しいけれど、こうして話をすると普通に可愛いらしい女の子だ。
ぬいぐるみが好きだと言われても自然に感じるくらいに。
「『レオカー』の小さいのなら僕が作ったのがあるので、プレゼントしますね?」
「いいのか?」
「はい、沢山ありますから」
「沢山あるのか?」
「実は僕の部屋、こんな感じなんです」
僕のお部屋初公開。
実は部屋中がぬいぐるみだらけで置く場所が無くて困っていた。
「だから小さいのに限らず、気に入ったのがあると貰ってくれると嬉しいです」
「本当か!」
ぬいぐるみ好きな人に貰ってもらえるなら、僕も嬉しいからね。
会長の反応的にかなりのぬいぐるみ好きと見た。
きっと大事にしてくれるだろう。
「しかしオレは貰いっぱなしだな。君の部屋も見せて貰ってしまったし」
「気にしないでください。その代わりに時々で良いからぬいぐるみ談義をしませんか?」
「もちろんさ。ってそれだと結局オレが嬉しいだけじゃないか」
「あはは、そうでも無いですよ。オススメのぬいぐるみとか教えて貰えたら嬉しいですから」
「そ、そうか。それならまぁ……」
会長がこんなにチョロくて良いのだろうか。
好きなものをエサに悪い人に騙されないように注意しないとダメかもね。
「……あれ、オレって条件クリアしているような。しまった、生徒会の連中になんて言えば良いんだ」
生徒会室に放り込んでみたい




