12. 大変なことになった 2の1
お ま た せ
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
うん、知ってた。
いつかこうなるだろうなって。
ここしばらくの間、僕は毎週水曜日の昼休みに山瀬さん達と一緒に御飯を食べている。
相手の女の子達はずっと固定の五人だったんだけれど、何故か今日になって突然新たに六人が追加されたんだ。
それに伴い人数が多くなったので中庭に移動することになった。
うちの高校の中庭は芝生が植えられていて、天気の良い日には主に女の子達を中心にここでお昼ご飯を食べる人が結構いる。
今日は何故か僕達しかいないけれど……
「くっそ~椙山の奴うちの綺麗どころを総ナメしやがって!」
「羨ましすぎる!」
「いいなぁあたしも混ざりた~い」
「はぁ……格好良すぎる」
「もう耐えられない。俺あいつをぶん殴って来る」
「冗談でもそんなこと言うなって。女子達にフルボッコにされるぞ」
「くそおおおお!」
聞こえない。
僕は何も聞こえない。
中庭を囲む二つの棟の窓辺や連絡通路が人だかりになっているなんて見えてない。
なんでこんな羞恥プレイなのに女の子達は平気そうにギスってるのさ!
「そ、それじゃあやっぱり最初は自己紹介からかな」
女の子達は無表情かつ無言で誰とも目を合わせようとしていないので、僕が口火を切るしかない。
「はいはーい!あたしからいきまーす!」
最初に立候補したのは金森さんだった。
となると新規組からの流れになるのかな。
金森さんか……紫陽花の件を大げさに言うのかな。
私の大切なもの、みたいな感じで。
でもそれなら以前に似たような紹介があったから驚かずに素直にボケとして受け止められるはずだ。
「あたしは一年三組の金森茉莉です。椙山先輩からラ〇ジュースをもらいました」
ちょおおおお!
何言ってるの!?
本気で意味が分からないんだけど!
えと、えと……あれか!
スポドリをプレゼントしたことだ!
台詞のチョイスおかしくないかな。
そもそもラ〇ジュースって男のじゃなくて……
「椙山先輩のえっち」
「ち、違!」
痛恨のミスをやっちまったああああ!
絶対に視線を下に向けちゃダメだったのに。
ほら、みんなも僕の事を軽蔑……
「私のラヴ……」
「私のラヴ……」
「私のラヴ……」
「……私のラヴ……」
「アタイのラヴ……」
「私のラヴ……」
「わたくしのラヴ……」
「ワタシのラヴ……」
「私のラヴ……」
「私達のラヴ……」
「私達のラヴ……」
「さぁ、次の人の紹介に移ろうか!」
危ない。
いきなり詰む所だった。
油断したらダメだと改めて分かったよ。
チクショウ!
「それでは次はわたくしが。わたくしは三年一組の片栗聖依子。片栗粉と覚えて下さいませ」
おお、ちょっとした冗談を交えた良い感じの自己紹介だ。
片栗先輩は連絡先を交換したことを言いそう。
そしてみんなとも交換する流れになるかな。
おかしいなぁ。
女の子と連絡先が交換できるなんて嬉しいのに嫌な予感しかしないぞ。
「椙山様には調教をして頂いております」
「おいいいい!」
ついにツッコミが思わず口に出ちゃったよ。
全く予想外の発言なんですが!
うわああああ、女の子達だけじゃなくて全校生徒が白い目で見てるうううう。
いや、流石にこれは聞かないと。
「片栗先輩?どういうことですか!?」
「それでは椙山様、試しにお電話ください」
「へ?」
電話って、片栗先輩に?
それと調教に何の関係が……
怖いけどかけてみよう。
僕はごくりと息を呑んで発信ボタンを押した。
「やんっ」
おいこらスマホを何処に入れてるんすかああああ!
バイブレーションの音がすると共に体のとあるところを押さえてもじもじ……
よし、切ろう。
電話も話もだ。
「はい、次の人ー」
おかしいな。
山瀬さん達の時よりも酷いことになってるぞ。
「次は私だね」
あれ、出会った順番かと思ったら片栗先輩の隣には佐川先輩が座ってる。
何か意味があるのかな。
まぁいいか。
佐川先輩の場合は今度こそ何を言うか分かっている。
「私は三年五組の佐川文枝。椙山君からはふ~みんって呼ばれてて、朝チュンした仲だよ」
ほらね。
あの徹夜した日の事を誤解が招くように言うと思ったんだ。
これなら予想出来てたから余裕でいなせるね。
「ふ~みん呼びはしてませんし、朝チュンしたとか紛らわしい言い方しないでくださいね」
「ウソ!あんなに熱くて激しい夜を過ごしたのに」
「何言ってるんですか、静かだったじゃないですか」
「そう……だね……」
集中して原稿に向かっていたことを熱中と言う意味なら熱かったかもしれないけれど、激しくは無かったでしょう。
でも佐川先輩なんで照れてるのかな。
僕の言葉で照れる要素なんて無かったよね。
あれ、みんながざわついてる。
どうしたんだろう。
「……声を押し殺すの……大変だったんだから」
しまった!
これじゃあ佐川先輩と一晩一緒だったことを認めたことになるじゃないか!
しかもそれって学校だから大声出して宿直の先生に怒られないようにしてるって意味だよね。
チクショウ。
まさか僕が返答でやらかすように罠を張ってたなんて!
「もういいや……次の人おねがいしまーす」
訂正するのも疲れて来た。
そもそもあの日、僕が先輩の原稿を手伝ってたことを検見川さんが知ってるはずだから後でフォローしてくれるよね。
『実はアタイも一緒に三人で……』
そんな未来は信じない!
「次は」
「私達」
知り合ったばかりの八乙女姉妹だ。
「私は姉の八乙女麻衣。三年三組」
「私は妹の八乙女芽衣。一年五組」
彼女達の場合は違う意味で背筋が震える。
主にトラウマ的な意味で。
「私達は椙山君と」
「裸のお付き合いをした」
この程度だと動じなくなって来た自分が嫌だ。
「お付き合いはしてないでしょうに」
「片方だけでも」
「お付き合いで良いと思う」
「そういうものかな」
まぁ水着で混浴してても裸のお付き合いって言いそうだし良いのかな。
「ね、ねぇ椙山君」
「なぁに、山瀬さん」
「裸……見たの?」
「見てない見てない!逆だよ!」
「え?」
もう、変なこと言わないよ。
僕は見られた方だって。
「採寸する時にね……あ、下は短パンだからね!」
ちょっと恥ずかしかったけれど、その後にそれ以上に恥ずかしい目にあったから印象にあまり残ってない。
「引き締まった」
「良い体だった」
あはは、照れるなぁ。
椙心流現代武術の鍛錬は今も欠かしていないから、体つきにはそれなりに自信があるつもりだよ。
「写真」
「買う人」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
「……はい!」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」
うわ、あまりの爆音に校舎がビリビリ震えた!
いつの間に写真撮ったの!?
というか勝手に売らないでよ!
大量の女の子の声が聞こえたけど悪ノリだよね!?
はぁ……
自己紹介だけでどうしてこんなことに。
もうここで終わりで良いよね。
次の人に振りたくないんだけど。
だって次はあの女の子だよ。
絶対に超爆弾発言するでしょおおおお!
「ワタシの番。きた」
お願いだから、捕まらない程度のネタにしてね。
「松木鷹音。一年四組」
胃が……胃が痛い……
「ワタシは椙山センパイに悪い男から助けて貰った」
……え?
それだけ?
本当に?
本当の本当に?
罠を仕掛けてるとか無しに?
「以上」
終わっちゃった!
そんな馬鹿な。
でもどれだけ僕が疑っても、松木さんはそれ以上話をしなかった。
松木さあああああん!
僕は勘違いしてたよ。
君はこんなにも素敵な女の子だったんだね!
僕の馬鹿!
こんな素敵な女の子を疑うなんて最低じゃないか。
「そんな技があったなんて!」
「敢えて普通に自己紹介なさって椙山様の好感度を鷲掴みになさるとは」
「ウソ!だから順番を変えてって言ったのね!」
「これは」
「予想外」
確かにみんながふざけたから松木さんの普通の自己紹介が印象に残りはしたけど、こんな素敵な女の子がそれを狙ってやっているわけがないでしょ。
「こらこら、そんなこと言ったら松木さんに失礼でしょ」
「椙山センパイ。ありがとうございます」
嬉しくってたっぷり甘やかしちゃいたい気分だよ。
これまでの緊張感から解放されたのもあって思わず頬が緩んじゃう。
「!?」
「!?」
「!?」
「!?」
「!?」
「!?」
「!?」
「!?」
「!?」
「!?」
別に驚くところじゃないでしょ。
「ううう……まさかのギャップ狙い」
「恐ろしい子がやってきたわね」
「私もあんな風に好かれたいですぅ」
「…………危険」
「アタイ達の裏をかくなんて」
みんな酷い事言うなぁ。
むしろみんなが松木さんを見習ってよ。
「あんな邪悪な笑み」
「見たこと無い」
山瀬さん達の言葉が気になってそちらを見ていたら、八乙女姉妹が不穏なことを言ってる。
邪悪な笑み?
なんのことだろう。
もう一度松木さんの方を見るけど、いつも通りのすまし顔だ。
ううん、これは逆に松木さんがみんなの中で浮いてしまうかもしれない。
心配だなぁ。
僕がある程度フォローしてあげないとダメかも。
「ウソ!舌なめずりしてる」
僕がそう少し考え事をしていたらまたしても奇妙な発言が聞こえて来た。
見回したけど誰もそんなことしてないよ。
松木さんもやっぱり普通のすまし顔だ。
「さぁさぁ、次は山瀬さん達の番だよ」
「ううん、私達はいいの」
「え、何で?」
「私達の詳細データは全女子が知ってるからですぅ」
「何でそうなるの!?」
女の子達の情報ネットワークってそこまで共有してるの?
あれ、でも変だぞ。
「金森さん達は自己紹介してたよね?」
「……後発組の……データベースは……未完成」
「後発組って何!?データベース!?」
「条件ですわ」
「また条件だよ!」
「気にしなくてエエよー」
「気にするよ!」
やっぱりこの学校はどこか変だ。
特に女の子達が学校全体で何か変なことをやっている気がする。
しかも僕に関係することで。
いや、深くは考えないようにしよう。
女の子達が僕に言うつもりがないのなら、無理に聞き出す必要は無い。
『おなごの秘密は化粧と似たようなものじゃ』
真実が隠されていて少しばかりミステリアスな方が魅力的じゃろう。
祖父ちゃん。
今のところ魅力につながっていない気がするのは気のせいかな。
自己紹介だけで長くなったのでまさかの分割です。
女の戦いはまだ無いけどラ〇ジュース思いついたから本当はもう終わらせようかと思いましたが。




