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『おなごが困っていたら助けなさい』という祖父ちゃんの遺言を守って助けまくったら大変なことになった  作者: マノイ
先輩後輩編

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10. おのこたるもの修羅場から決して逃げ出してはいかん

『おのこたるもの修羅場から決して逃げ出してはいかん』


 ただしおなご関連は除く。


 追加の内容はともかく、人生には必ず修羅場があるというのが祖父ちゃんの考えだ。


 男ならばそこで逃げずに立ち向かえと。


 はなから逃げることを選択肢に入れるような軟弱な男にはなるなと。


 分かったよ、祖父ちゃん。


 でもこれは祖父ちゃんの言っていた修羅場とは違うと思うんだ……




「……」

「……」

「……」


 無言で机に向かい、手に持ったペンをひたすら動かし続ける三人。

 この作業を一体何時間続けているのだろうか。


 作業開始時は雑談をしながら和気わき藹々あいあいと作業していたものの、今では三人とも死んだような目を浮かべて黙々と作業に徹している。


 カラン、と音が鳴った。


 僕の右隣の女の子が、持っていたペンを床に落としたのだ。

 それはミスではない。

 その女の子は机に顔を突っ伏して両腕が力なくだらんと下げられていた。


「検見川さん……」

「椙山クン、アタイはもうダメや。後はよろしゅう……たのん……ます」

「検見川さあああああん!」


 どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 僕はこうなるきっかけとなった時の事を思い出した。




「バイト?」

「そや、知り合いの先輩から誘われてな。せやから明日はここのバイトは休みや」


 カフェ、マグナカルテ。


 とある日の放課後、僕はいきつけのこの店に訪れ、バイトをしている検見川さんと世間話をしていた。


「どうして僕にその話を?」

「だって椙山クンってアタシに会いに来てるんでしょ」

「うん、だから明日は来ないかな」

「う゛っ……動揺せぇへんのな」

「あははは」


 メイド服の検見川さんの姿を見るのが最近楽しみになっているのは本当だけどね。


「先輩ってOBの人?」

「ちゃうで。三年の先輩や」

「え?現役の高校生がバイト募集してるの?」

「せやで」


 てっきり社会人とか、せめて大学生かと思ってた。


「高校生が商売してるんだ。許可とるの大変そう」

「ちゃうちゃう、そんな御大層なもんじゃあらへんよ。先輩が困ってる・・・・からちょっと手伝うみたいな感じや」

「なんだ。そういうことだったんだ」


 引っ越しのお手伝いとか、そんな感じの話なのかな。


 でもそうか……困ってる・・・・んだ。


「ちなみにその人は女の人?」

「せやけどなんでそんなこと……あ」

「僕も手伝おうか?」

「アカンアカン!絶対にアカン!」

「何で?女性じゃないと駄目なこと?」

「ちゃうけど……ダメなものはダメや!」

「え~その人に確認してみてよ。何で困ってるか分からないけど人手が必要なら嬉しいでしょ」

「人手は確かに……でも……これ以上……ライバルは……ぐぬぬ」


 検見川さんは悩みに悩んだ結果、僕のお手伝いを断った。


 でも僕は諦めないよ。


 だって悩んだってことは本当は僕が居た方が楽になる作業のはずなんだ。

 検見川さんとその先輩さんが苦しむのを分かっていて見過ごすことは出来ない。




「なんでついてくるんや!」

「お手伝いするためだよ」

「昨日アカンって断ったやん」

「検見川さんの助けになりたくて」

「うぐっ……本気で言ってるからタチ悪すぎやで!」

「何を言われてもついていきまーす」

「ストーカー!ストーカーやー!」


 翌日の放課後、僕は検見川さんを探して一緒に先輩さんのところへ向かうことにした。

 直接本人に助けが必要か確認するためだ。


「お~いのぞっち。廊下で何騒いで……ウソ、椙山君!?」

「アカン、おしまいや……」


 どうやらその先輩さんが登場のようだ。


「ちょっとのぞっち。なんで椙山君がここにいるの?」

「たまたまそこで会って」

「先輩が困っていると聞いて助けになれないかなと思いまして」

「ウソ、見た目通りめっちゃええ子やん!」

「あはは、ありがとうございます。それで助けは必要でしょうか?」

「必要必要!猫の手も借りたいくらいだったの!これで何とかなるかも!」


 やっぱり僕が必要だったんじゃないか。

 検見川さんはなんで頑なに断ろうとしてたんだろう。


「良かったです。それで何をすれば良いのでしょうか」

「ウソ、何も聞いていないのに助けてくれようとしたの?」

「まぁそうですね」

「ウソ、マジで嬉しいわあ。詳しくは部室で説明するね」

「部室?」

「うん、私は文芸部の最後の勇者なのだ。どやぁ」

「え?」


 文芸部。

 ほとんどの高校に存在するであろう定番の部活。


 うちの高校にもあるけれど、確か部員がほとんど居ないって聞いたことがある。

 定番の部活だから潰さずに残しているとか、たった一人でも部員がいるなら潰れないとか、色々と噂はあるけど、どれが真実かは分からない。


「先輩は文芸部の部長さんなんですね」

「一人だけだから自動的にそうなっちゃったね。でも部長とか呼ばなくて良いよ。私は佐川さがわ文枝ふみえ。だからふーみんって呼んでね」

「ふー、え?」

「私はカズ君って呼ぶから」


 初対面の先輩をふーみんとは呼び辛いですよ。

 普通に佐川先輩って呼ぼう。


 僕がそう思っていたら検見川さんは全く別の所が気になっていたらしい。


「アウトオオオオ!」

「検見川さん?」

「先輩馴れ馴れしすぎです!」

「え~カズ君良いじゃん。恋人呼びみたいで」

「緊急招集はつど」

「和也君にするね」

「それもアカン!」

「僕はそれで良いですよ」

「ウソ!いいの!?」

「椙山クン!なんてことを!」

「え?」


 カズ君でも良かったけどね。

 女の人がフレンドリーに接してくれるのは嬉しいし。


 しかもふーみん、じゃなくて佐川先輩は表情豊か系の美人さんだから、そんな素敵な人にカズ君呼びされて嬉しくないわけが無い。


「もうこれ条件クリアしたようなものだよね」

「ぐぬぬ……」


 また出た。

 謎の条件だ。


 この学校の女の子の間で何か流行っているのかな。


 そんなこんなで話しながら廊下を歩いていたら文芸部についた。


 部室棟の一角にある小さな部屋。


 佐川先輩はそこを開けると僕達に宣言した。


「それでは朝まで・・・よろしくお願いします!」


 文芸部で困りごと。

 この時点で気付くべきだった。


 自ら戦場へと足を踏み入れてしまったことに。



 

「検見川さあああああん!」


 そして冒頭のシーンへと戻る。

 外は真っ暗どころか、すでに日が変わっている時間。


 僕達は文芸部の部室に入った時からぶっ続けで作業を続けていた。


「ウソ!のぞっち……どうか安らかに」

「死んでませんから!」


 ここからは僕と佐川先輩の二人だけでやらなければならない。

 タイムリミットは日が昇るまで。


 何故ならば今作っているものを今日の・・・即売会・・・に持って行かなければならないからだ。


「和也君、ファイト!」

「佐川先輩は強いですね」

「慣れてるからね~」


 まだ体力が有り余っている様子だ。

 僕も体力はある方だと自負しているけれど、流石に慣れない作業を延々と続けているので疲れてくる。


「そういえば今さらですが、良く泊まりの許可が出ましたね」

「ずっと前の先輩が文芸部だけの特例を作ったみたい。なのでイベント前日の金曜日だけは申請すればこうしてエンドレス作業おっけー」

「何すればそんなことが出来るんですか!?」

「凄いよね。文芸部の伝説となっているみたいだよ」


 それにしても、せめて顧問同伴が必須とか徹夜はダメとかそういう条件がつきそうなものなのに。


「何々?もしかして和也君、私と二人きりで意識しちゃってる?」

「検見川さんもいますよ」

「そんな子いません」

「ひどっ」


 先輩のために倒れるまで頑張ってくれた後輩になんてことを言うんですか。


「馬鹿な事言ってないで手を動かして下さい」

「ウソ、和也君がそんな酷い事を言うなんて」

「佐川先輩が進めないと僕の作業が出来ないんですよ」

「それじゃあ私がやらなければ和也君は手が空いている訳ね」

「先輩?」

「ごめんなさい」


 疲れていて気分転換したいのは分かるけれど、まだ全然終わる気配が無いのだからもうひと踏ん張りして欲しいところだ。


「でも和也君、本当に意識しないの?だって外は真っ暗で夜遅くにこんな美人さんと一つ屋根の下にいるんだよ」

「自分で美人って言うんですか。違いありませんけど」

「……」

「そこはいつもみたいに『ウソ!』って驚いて下さいよ」


 ガチで照れられると僕も反応に困る。


「はぁ、部屋の中が紙だらけだったり机の上がペンだらけだったりグロッキーになった検見川さんがいなければ多少はドキドキしたかもしれませんね」

「あはは、だよねー」


 佐川先輩はようやく手を動かし始めた。


「そういえば和也君はお腹減ってない?」

「今はまだ大丈夫です」

「もし減ってきたらお菓子買ってあるから遠慮なく食べてね」

「はい」

「それと疲れてもう無理ってなったら」

「仮眠する場所があるんですか?それなら検見川さんを運ん」

「栄養ドリンクも沢山用意してあるから!」

「…………」


 せっかく部室の隅のゴミ箱付近に並べられている空き瓶の存在を気付かないようにしてたのに。

 というか、これ本当に終わるの?




「終わったー!」


 終わっちゃった。

 人間やれば出来るものなんだなぁ。


 外はすでに日が登り、鳥のさえずりが聞こえてくる。

 今からならイベントには十分間に合うらしい。


 ……家に帰ってお風呂に入って着替える時間も入れてますよね?

 というか徹夜明けでそのままイベント参加って大丈夫だろうか。

 売り子は別にいるって話だから大丈夫だとは思うけど心配だ。


「いやぁ、修羅場を乗り越えたこの爽快感はたまらないねぇ。和也君もそう思うでしょ」

「まぁやりとげた感はありますね」


 それよりも滅茶苦茶眠いからさっさと帰って寝たい気持ちの方が大きいけど。


「でしょでしょ。また次があったら手伝ってよ」


 なんだかんだ言ってこれまで経験したことが無いことで楽しかったからもちろん次も……

 あれ、何か嫌な予感がするぞ。


「佐川先輩。もしかしてですが、敢えて締切ギリギリにしてこの状況を楽しんでませんか?」

「…………」


 図星だった。


「自業自得なのでもう手伝いません」

「ウソ!」

「そこ驚くところじゃないでしょ」


 まったく、なんて人だ。


「いいもん。またのぞっちにお願いするから」

「だーめーでーすー!」

「ウソ!」

「先輩の自爆に検見川さんを巻き込むのは絶対に認められません。断固阻止しますから」

「そんなぁ」


 ようやく分かった。

 なんで他に助けがいないのか。


 佐川先輩の知り合いは先輩の自業自得だって知ってるから助けなかったんだ。

 検見川さんが助けに来たのは以前困ってた時に助けてくれた恩があるとかそんな感じだろう。


「うわあああん、もうこれから一人っきりだよおおおお!」

「まったく、最初から計画立てて作業してるなら、別に困って無くても空いていれば手伝いますよ」

「ウソ、ほんと?」

「はい、ただし最初から他の人をあてにするのはやめてくださいね」

「もちろん!」


 泣いたり笑ったり忙しい人だ。


「あの、和也君?」

「なんですか?」

「無茶苦茶やらせた私が言うのもなんだけど、どうしてそこまでしてくれるの?」

「何言ってるんですか。困っている女性を助けるのは……いや、僕も楽しかったからですよ」

「ウソ……!」


 最後の『ウソ』だけは妙に感情が籠っていたように聞こえたのは、気のせいだろうか。

お姉さんっぽい先輩を出しませんでしたね。

申し訳ないです。


包容力のある系は別で考えます。

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― 新着の感想 ―
[一言] わざとって、この女は学校の厚意を何と思っているのでしょうか。 学校は、時間外の作業を禁止するべきだと思います。 でなければ、他の生徒達に示しがつきません。
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