ヤリマン公と会談
王都に到着してから数日が経った。
僕とアターシャはダンジョン報酬を換金する為、ヤリマン家ご用達の両替商や大商会と商談を重ねた。
そしてようやく換金の目途が立ったのだが――、合計でなんと白金貨41,670枚という途轍もない額になった。
因みにリンダナ領の年間予算が白金貨4,500枚だから、その9倍以上。
半分が僕達の取り分で、さらにそこから7割が僕とノエル、3割がティッシュの取り分となる。
そんな途方もない額を一度に受け取れるわけもなく、僕達の取り分である20,835枚の内、835枚は現金を受取り、残りの20,000枚は僕がヤリマン家に貸し付けるというかたちにして、ヤリマン家が一括管理することになった。僕が必要な時に用立てくれる。
ティッシュは先に交換した分から白金貨20枚を実家に送った。残りは僕に預けたいと言うので了承した。
王都滞在中、僕達はヤリマン家にお世話になっている。
そして今日、遠征に出ていたアターシャの父、オスカー・ヤリマン公爵が帰宅する。僕はこれから公爵と会い、爵位について打ち合わせする。
ヤリマン邸、応接室でアターシャと二人、待っていると執事を侍らせたヤリマン公が現れた。
僕はソファーから立ち上がり、貴族の礼をする。
「お久しぶりです。ヤリマン公爵閣下」
丸眼鏡を掛け、上質な背広を着る痩身で長身の男、オスカー・ヤリマンはハット帽子を取って微笑む。
「やぁゼツ君。久しぶりだね。いつ以来かな?」
「私が11の時、夜会でお会いしたのが最後、と記憶しております」
「もう6年も経つんだね。どおりで君も大きくなるわけだ。まぁ座りたまえ。僕も失礼するよ」
薄く笑みを浮かべ気さくな物腰であるが、油断ならない。彼はビッグベニス王国四大公爵家が一家当主。配下に数多の貴族を従えるこの国の最高権力者の一人なのだ。
ヤリマン公が席に着いたのを確認してから着席した。
「さて、この後は宴を用意している。難しい話を長々と続けるのは好きではないから要点だけ話そう」
「よろしくお願いします」
僕の要求は簡単だ。身分をこの国で最も位の低い爵位、男爵にしてもらうこと。
公爵には事前にアターシャから手紙でその旨を伝えてある。更にこの部屋に来る前、僕の横で澄まし顔のドレス姿で鎮座するアターシャが公爵に会って詳細を伝えている。
「ああそうだ……、君の要件を協議する前に、僕から相談があってね。構わないかい?」
「ええ、もちろん」
相談……?現状を考慮すると金のことかな?
「相談に入る前に伝えなければならないことがある。ポークと君の弟キュウの件なのだが……」
ポークは僕の父、キュウは僕の2個下の弟。年齢的にキュウは今頃、王都の貴族学院通っている筈だ。
「君の弟はいくつかの犯罪に加担しているようでね。その件でポークが巻き添えを嫌い、絶縁したのだけど、そのやり方が問題になっているのだよ」
「といいますと?」
「彼ね、”絶縁証明書”を偽造していたんだ。しかもそれを貴族相手に使用した」
肉親を絶縁する際、リンダナ家の場合、派閥の長であり王家代行を務めるヤリマン家から承諾をもらい”絶縁証明書”を発行してもらう必要がある。
王が庇護する高貴な身分貴族――、その一員を抜けるわけだから当然の措置であり、また跡目騒動を避ける目的ある。
そういった背景から、偽造した”絶縁証明書”を使用するというのは、無断で国王の名を語り詐欺を行うことと同義――、事と次第では重罪になる。
「それで父上はどうなるのですか?」
「既に陛下まで話がいっているから彼の爵位は没収だろうね。息子のディーが後を継いでいるから問題ないと思うが、ポークの配下が武力行使に出る可能性はある。君はどう思う?」
「そう仰られるということは、父上やリンダナ領の名主はこのことをまだ知らないのですね?」
「発覚したのは数日前だからね」
オスカーの眼鏡が光を反射し、彼の目は見えないが、僕を品定めしている雰囲気は伝わってくる。
貴族が冤罪や理不尽な理由で爵位を没収される場合、その配下が武力で主を守る、というのはよくあることだ。だが今のリンダナ領に父上を守る騎士はいない。
「その心配はありませんよ。父上を心から慕い忠誠を誓う配下はいませんから」
「だろうね」
僕も今更父上がどうなろうと知ったことではない。
「もう一つはリンダナ領の借金返済について――。ポークの不正発覚と時を同じくして、今年は利息も払えないとディー・リンダナから打診があったよ」
リンダナ家は王家から借金をしている。ただ僕が侯爵家にいた頃、領地経営は黒字に転換し返済しても貯金できたのに……。ここ数年、天候も安定しているから農業は問題ないはずだが……。
「現在リンダナ家の借金は白金貨にして約2,000枚、年利1%だから利息は白金貨20枚……、王家の返済は僕が立て替えたよ」
「私に払え――、ということですか?」
僕はヤリマン家に白金貨20,000枚を預けている。払おうと思えば余裕で払える。
だが今更だ。僕とリンダナ家の関係は5年前に終わっている。
「……ふっ。 利息も払えないようではディー・リンダナに領主は任せられない」
オスカーは不敵に笑う。
「そこで僕からの相談なんだが、パンティー姫は君との婚約を望んでいる。陛下に直談判するそうだ」
僕はアターシャを見る。今日までずっと一緒にいたのに、そんな話は聞いていないぞ。
「おほほほほ」
アターシャは僕とは目を合わせず、口元を手で隠して笑った。
「知っていると思うが、我が家はパンティー姫の母君を輩出している。故に彼女の後見人を務めている。そのパンティー姫が我が派閥の貴族と婚姻を結ぶ、それは当家の悲願でもあるのだよ。
――だから君、リンダナ領の領主にならないか?」
薄っすら笑みを浮かべるオスカー。
リンダナ家はヤリマン家の親戚筋であり、未来永劫配下である。そこに勇者のパンティー姫が加われば、ヤリマン家の権威は更に確固たるものになる。




