第5層で
ダンジョン2日目。
僕達は5層へ降りる洞窟の途中で一晩野営し、現在5層の入口に立っている。
「ティッシュ、昨日話した通りやってみてくれ」
「わかったニャン。 イメージが大切ニャンね……」
ティッシュは真剣な顔に変わり、1メートル程の棒を地面に立てて倒れないように棒の先端を人差し指で押さえる。
そして――。
「アクティブスキル〈勝負の選択〉ッ!」
ティッシュが指で押さえているただの木の棒が金色に輝く。彼女は棒を放した。
倒れた棒はカランッと音を立てて地面を転がり、そして金色の光が消えた。
棒が倒れた方向を僕達は見詰める。
「探索しながら注意深く進もう」
僕がそう言うとノエルとティッシュはコクリと頷く。
5層からはギルドにマップがない。近年では4層すら使われていないようだから、5層より先に行く冒険者はまずいないのだろう。
1層ごとに一周30キロのドーム型というかなり広いマップで、人が作った道があるのは2層まで。
3層からは家よりも大きい岩の密集地帯を飛び越えたり迂回したりしながら進まなければならない。
4層まで行けば日帰りで帰ってこれなくなるはずだ。モンスターの多いダンジョンで野営するのはかなり危険で、そこまでして4層へ行こうとは誰も思わないのだろう。
つまり、5層からは直径約10キロの円形である広大なダンジョンの中で3、4箇所しかない下層へ降りる道を自力で探さなければならないわけだ。 しかもその道は岩陰にあったり、洞穴であったりして、注視しながら探さなければ見落としてしまうような外見だ。
羅針盤を見ながらティッシュが示した方向へ200メートルくらい進むと大きな岩と岩が重なり、その隙間に人が一人通れる程の穴が空いた場所に出た。
「如何にもって感じだわ」
とノエルが言う。
「モンスターの巣の可能性もある。先に僕が中を覗いてみるよ」
僕はストレングスやインテリジェンスの数値が異常に高い。それらには防御力を高める効果があり、モンスターに不意打ちをくらっても殆どダメージを受けない。仮に怪我をしてもパッシブスキル〈ゼツリン〉ですぐに回復してしまう。故に僕はこういう役目に向いている。
洞窟の中に入るとそこら中から大きな岩が張り出してはいるが道は下へ続いていた。 間違いない。6層に下りるルートだ。
当初、僕とノエルの二人でこのダンジョンに挑戦する予定だった。 僕のプランではノエルをどこか安全な場所で待機させておいて、一人でダンジョンの中を走り回り、このような抜け道を探すつもりでいた。 僕は寝る必要がないから一日中探せばその層の抜け道を見付けられるとふんでいたのだ。
それが5層へ下りて僅か10分で、6層へ下りる抜け道を見つけてしまった。 僕とノエルだけだったら、下手をすれば見付けるのに一日かかったかもしれない。
「ティッシュ、お手柄だ」
二人の顔が明るくなる。
「それじゃ……」
ノエルは驚きティッシュを見る。
「ああ、6層へ下りる道だ」
「ティッシュ、凄い!」
「ニャ!! アッチのスキル、初めて冒険で役に立ったニャン!w」
ティッシュは口元を手で押さえ嬉しそうにしている。
◇
6層へ下りながら僕達は話す。
「5層ではモンスターと遭遇しなかったね」とノエル
「そうだね。これもティッシュのスキルの副産物なのかもしれないな」と僕
「ギルドの受付で言ってたニャンけど、二人はレベル40なんでしょ? 6層のモンスターと戦えるの?」と不安そうにティッシュ。
「あぁ、えっと、ノエルはレベル40なんだけど……」自分のレベルを言っていいものか迷いながら僕。
「ゼツ君はレベル296だよ」真顔でノエル。
「絶対、嘘ッ!もう騙されないニャン!」
「まぁ戦えばわかるよ」言っちゃったならしょうがないと僕。
「ティッシュはレベルいくつなの?」
ノエルが尋ねる。 ティッシュは少し沈黙してから口を開いた。
「5……、ニャン」
僕のインテリジェンスが低そうだと教えてくれていたけど、そこまでとは……。
「アッチの加護は戦闘向きじゃにゃいから、パーティーに誘われないニャン。 それに冒険者のパーティーは経験値の取り合いで、役に立てないとラストアタックさせてもらえないから全然経験値稼げないニャンよ」
少し落ち込んだ様子でティッシュは言う。
そんな話をしながら進んていると出口が見えてきた。
ゴッゴッゴッゴッゴッゴッ
ゴッゴッゴッゴッゴッゴッ
ゴッゴッゴッゴッゴッゴッ
外からは岩が擦れる大きな音が幾つも鳴っている。僕達は洞窟の出口から顔を覗かせて外を見た。
すると体長10メートル、太さは僕の身長程もある、岩でできたミミズの群れがいた。余りの巨大さ、もの凄い迫力だ。
「B級モンスターのロックワームだ」
僕は呟く。
ノエルの隣りではティッシュがガクガクと震えている。
「あんなの剣で叩いても傷すら付けられないニャン。 動きは遅そうだから逃げるニャンよ」
ノエルは震えるティッシュの肩を抱く。
「あれは私でも勝てないけど……」
それからノエルは僕を見詰めた。
「問題ないよ。全部狩ろう」
僕は真直に言う。




