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導きの灯火

作者: 暇人間

初投稿です。


私がそれに出会ったのは母方の実家の蔵でのことだった。


「それが気になるのかい?」

祖父は私にそう訪ねた。私はその少しデザインの古いデスクライトを見てから何故か惹きつけられるような感覚を覚えていた。


「それは君のお母さんのお兄さんが受験生の時に私が送ったものなんだよ。家族を起こすまいと薄暗い部屋で勉強をしていてね、それを見て僕はこのデスクライトを贈ったんだ。」

少し遠くを見るような、懐かしむような、それでいて寂しげに語る祖父を私は不思議そうに見つめていたのだろう。


「あぁ、なぜ私が贈ったものがここにあるのが不思議だったかな?少し前にお葬式があったのは覚えているかい?息子、いや君のお母さんのお兄さんのお葬式だったんだ。あいつは一人暮らしをしていてね、部屋に置いてあったものはこの蔵に一通り置いてあるんだ。整理するにはまだ心の準備がついていなくてね…。ここに持ってきた時は壊れてたのか付かなかったんだけど…ちょっと付くか試してみようか…よし、ちゃんと付くな」

そこで初めてどうして祖父が纏う雰囲気がこんなにも悲しげなのかを幼い私もようやく理解したのだと思う。


「もしよかったらこのデスクライトをもらってくれないかい?その方が息子もきっと喜ぶ、こんな薄暗い倉庫の肥やしになっているよりはきっとね…」

きっと様々な思い出がある品だったんだろう。でも確かにここに寂しく置かれているのは可哀想だ。

「そんな大事なものをもらってもいいの?」


「あぁ、僕もあいつもきっと喜ぶ。いや僕は嬉しいよ。ただ一つだけ、このライトは息子が言うには人生の重要な選択肢を選ぶ時点滅したり消えたりつかなくなることがあったらしい。今となっては本当かどうか息子に確かめるすべもないんだけどね」

きっと不思議な話が好きな僕を楽しませようとあいつが適当なことを言ったんだろう、祖父は少し苦笑しながらそう続けた。


「少なくとも俺は選択を後悔しなかった」

急に祖父の話し方と声色が変わったように感じた。私は薄暗い蔵の雰囲気に飲まれ空耳でも聞こえたのだろう、そう思うことにした。


「あぁ…えぇと何の話だったか…。そう!とにかくこのデスクライトを君にプレゼントしよう。大事に扱ってくれると僕も嬉しいな」

そう言いながら少し積もった埃を払って私に手渡してくれた。何だか手に馴染むような懐かしいような、私が持つことが当たり前のようにその時は感じられた。


「ありがとう、おじいちゃん。きっと大切にするね」

私がそういうと祖父は嬉しそうに微笑み私の頭を撫でてくれた、そして私達は蔵を後にした。





なぜこんな古い記憶を思い出したのだろう。

理由はわかりきっている。

譲り受けたデスクライトの不調だ。


祖父の話の通りこのデスクライトは私の人生の分岐と思われる時に点滅したり消えたり不調を起こすことがあった。

一度目は両親の離婚の時だ。

チカチカと点滅を繰り返すデスクライト。私はそれを両親の諍いを聞きながら見つめていた。

父と母どちらについていくか、子供には難しい選択であり私の気持ち一つで決まるようなものでは無かったかもしれないが最初は寂しげな背中をする父についていこうかと考えていた。

デスクライトの光は弱々しくなり点滅を繰り返し続けた。

結果的に私は母についていくことになった。それが決まった途端にデスクライトは以前のような煌めきを取り戻していた。

その時は引っ越しからの転校、急に変わった日常生活に追われ祖父から聞いた話を思い出す余裕もなかった。


次に不調が起きたのは高校受験の時だった。

デスクライトはついたり消えたりを繰り返すようになった。私は蛍光灯の寿命かと思い交換するも不調は変わらずデスクライト自体の故障化寿命だと思った。

しかし修理に出しても特に問題は見つからず代わりに中から「後悔のない選択を」という紙片が出てきた。

私はその当時二つの高校の間で悩んでいた。一つは友人の多く行く学校、もう一つは自分の将来の目標につながる高校。最初は友人の多い方を第一志望にしていた。

しかしそう決めた途端デスクライトは消えたままつかない時間が長くなった。

不安を覚えた私は改めて考え直し友人に流されず自分の目標につながる方を最終的に選んだ。


デスクライトは以前よりも煌々と輝くようになった、そう感じられた。



それ以降それは不調を起こすことなく私を照らし続けている。


今朝目覚め、まず私は傍らにあるそれを付ける、付かない。

もう一度スイッチを押し付ける動作を繰り返す、しかしそれは付くどころか反応すら見せなかった。

こんな変化は今まで一度も無く私は胸騒ぎを覚えながら会社へ向かった。


一日中もやもやを抱えながら業務に励むもどこか上の空が続く。

無難に自分の作業をこなし帰宅し一通り家事を済ませ次の日の準備を終える。

そしてベッドに入りここ数年常に傍らにあるそれのスイッチを押した。

なんてことはない、今度は当たり前のように、いつもそうであるかのように私を照らした。


なるほど、私はまた何か選択を迫られるのだろう。

ただどんな選択を?今までと違い何かを選ぶ、そんな事態に置かれては居ないはずだ。

不安を覚えながらもその日は眠りについた。


次の日、目覚めいつものようにスイッチを押す。付かない。

これはいよいよ今まで通りであるなら選択肢を迫られるのだろう。ただ、なぜ夜は普通に明かりがついたのか?このデスクライトはもしかして選択を迫られる時間を私に教えているのではないか?そんなことをなんとなくぼんやり思いつつ出社の準備を進めた。


いつもの様に変わらぬ道を歩き辿り着く。おそらく日中に何かがあるのだろう。

あの前触れがなければ心の準備をする暇も無く選択を迫られていたのだと考えると少し心に余裕を感じた。



そのまま何も起こること無く週末を迎えた。

私は何時から何時まで明かりが付かないのか実験をしてみることにした。

結果は7時から12時の間、午前中に何かあるのだろうか?


平日になりまた私はいつものルーチンワークを続け生きる。

しかしそれは突然起きた。

子供が道路に飛び出したのだ。これか?これが今回の私の選択肢か?

しかし今から?間に合うのか?仮に助かるとしても私と子供助かるにはどうすれば?

そんな考え全て無駄だった。


私は子供を助け代わりに轢かれた。

ここで死んでしまうことへの後悔は…まぁそれなりにある。まだまだしたいこともあったし家族とも最近は没交渉気味であった。

だけどまぁ…この選択を選んだことへの後悔は無かった。

頭の方で声がした、

「お前も俺と同じ選択をしたんだな、これは誇らしくもあり悲しくもある。ただただ生きて欲しかった。しかし一人の命を救ったことは立派でありどれだけの人間がこの選択肢を選べるだろう?いくら事前に心の準備が出来ていても、だ」


頭の上で偉そうに話す男、どこかで聞いた声だ。どこだったろう。もはや遠い昔だったように思える。

しかしこの言葉を受け私はどこか満足していた。あぁ、この選択で間違いはなかっただろう。


私の意識と共に消し忘れていたデスクライトの明かりも消えた。


拙い文章ですがこれからも色々と投稿出来ればと思っています。

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