馬車での野営?
で、俺たちは急ぎ準備を整えてから馬車で移動を始めた。
俺たちの領内では既に街道筋は魔物を狩りつくしたのでほとんど見ることはかなったのだが、あいにく道の整備までは手つかずで、正直道が相当悪い。
馬車での移動も正直俺にはきつかったが、お姉さん方や護衛も騎士や冒険者が言うにはどこも同じようなものらしい。
とにかくあまりにひどい場所ではゆっくりと馬車を進めるしかなく、そんな感じで移動するものだから、歩くよりもはるかに時間がかかるのは仕方がない。
時間ばかりかかったのであの関で一泊する羽目になるが……お隣にいるあの人たちは、やはりここに人を出す余裕はまだないらしい。
誰もいなかった。
この関は貴族領の境を守る大切なものだよな。
そんなのを放っておいても、今更か。
もともと俺に圧を掛けるために利用していたようなことだったらしく、俺の前の領主時代には、一応人は置いていたようなのだが、飾りのようなものだったと聞いている。
俺もここに初めて来たときに通ったことがあるが、本当にここに詰めていた兵士は二人しかおらず、その二人も暇そうにしていたっけか。
その後、この道を封鎖していた時にはそれなりにしっかりと兵士が詰め、関も機能していたようだが、俺は知らんし、俺のところにいた冒険者たちもあまりここには来ていなかったようだ。
ここら周辺にいる魔物にはあまり魅力が無かったとか。
魅力というよりも、俺の領都周辺の方が強力な魔物が多くいたらしく、ここまでくる必要も魅力もないと聞いている。
今ではモリブデンからも高ランク冒険者が多く着た関係で、すっかり領都周辺の魔物は姿を見なくなったが、それでもこっちに来る方より逆方面に向かった方が稼ぎが良いとも報告があったな。
はっきり言って、俺の領地は魔物巣窟とまで言われる前人未到の森と境をなして、いわば人類領域を守る砦のようなものらしいが、それなら国ももう少ししっかりと管理していればとも考えなくもない。
まあ、今回宰相が現地入りしたことからこれからは変わるかもしれないが、最初に俺が連れてきたの事務官たちではね~。
期待はできなかったことくらいは、うん、これ以上は考えない。
ここで野営してあすには宰相との対面だが、野営だよな。
関は目の前にあるが、とてもじゃないけど泊まろうという気は起きない。
なので、狭いがお姉さん方には馬車でのお泊りということで。
そういえば、俺と初めて会った時も同じように馬車での野営だったような。
俺は、馬車のそばで焚火でもして……ということを許してもらえなかった。
夜に俺も馬車内に引き込まれ……久しぶりにお姉さん方3人と。
お姉さん方をしばらく相手していなかったような気もするし、三人同時には本当に久しぶりだ。
まず貴族になってからは記憶が無いので、馬車内という制限がつくが、狭いなりに本当に上手に空間を使い……しっかりと搾り取られて……寝れなかったよ。
護衛で俺たちについてきた者たちにもお姉さん方との逢瀬を見られているから、今夜あたり手当てしないとまずそうだ。
とにかく、関から領都までの移動時間、俺は休みを頂き馬車内で寝ていたよ。
この時ばかりは役得だと思った。
お姉さん方の膝枕で寝かせてもらえたので、領都に着くころにはすっかりと英気を養い、宰相との対面もできるくらいまでには気力も復活していた。
夕方になるかならないかの時間に隣の領都の貴族屋敷前に馬車がついた。
今となってはよく知る事務官の出迎えを受け、俺とお姉さん方三人と一緒に宰相の前に出向く。
宰相は執務室で、書類に囲まれて難しい顔をしていたが、俺たちが部屋に入るとすぐに今までしていた仕事の手を休め、応接で俺たちを出迎えてきた。
「よくぞ私の要請を受け、ここまで来てくださいましたな、男爵」
「私はにわか貴族なので宰相に言われる『領域貴族会議』などというのを知りませんが、他の御領主の方は、もう……」
事前にお姉さん方から聞いていたので、絶対に俺の他はいないだろうということを知りながらも聞いてみた。
これは、こちらからのジャブのようなもので、真っ先に問い合わせが必要だとお姉さん方から指示があったためなのだが。
「いやいや、他の領主はこれませんので、私とあなたとだけで領域貴族会議を明日にでもすることになりますかね」
「良く知りませんが、領域貴族会議というのは、そういう物なのですか。てっきり少なくとも両隣、片方は私になるでしょうが、それくらいの領主またはその代理の方くらいは来ているものと思っておりましたので」
俺の問いに宰相は苦笑いを浮かべている。
こいつは分かっていて俺に嫌味を言ってきているのだな、少しくらいは聞いてやるがいい加減それくらいは察しろよって感じのような空気が流れ始める
隣でお姉さんの一人が軽く咳払いをして、この話は終わる。
「では、明日朝から話し合いですね」
「ええ、そのつもりですが」
「すみませんが、何のことについて話し合われるのでしょうか。確か頂いた招集状には何も書かれていませんでしたわよね」
これ以上俺に宰相を攻めさせるといい加減まずそうだと思ったのかお姉さん方に話の主導権が移り、必要な情報を宰相自身から聞き出している。
宰相から言質を取っておいて、多少は目をつぶるにしても、それ以上勢いで仕事を割り振られるのを防ぐ作戦のようだ。
「ここの惨状を見た男爵ならばおわかりでしょう。
このままでは冬は越せそうにありません……あ、男爵の協力でこの冬くらいはどうにかという感じですね。それでも、このままではここも潰れますね」
「潰れると言いましても……」
「ええ、ここだけで住めばよいのでしょうが、ここがつぶれますと、ここと王都を結ぶ街道上にある領地にも被害が出る恐れもあるので、是が非でも破綻の連鎖はここで食い止めねばと思いまして、近隣の領主にも協力を……」
「近隣と言いましても、俺以外にここと接する貴族の方は……」
さすがに俺も声を上げる。
あまりに理不尽ないいように少し腹が立ってきた。
そんな俺を宥めるようにお姉さんが話をここで切り上げ、宰相たちが用意してくれた部屋に移動していく。
「では、明日この領地の件での話し合いですね。 わかりました」
お姉さんの一人マリーさんが宰相にこう宣言して部屋から出て行った。




