やっと日常が
しかし、「休むのなら寝ていろよ!」と言いたくなるが、宰相はしつこく俺に色々とまだ聞いてくる。
俺の屋敷の中を見たら、おおよそ想像がつくだろうと言いたいが、ここでの生活は王都のような貴族然とした生活は望めないと実情を隠すことなく説明している。
それに、俺はあのチート能力のアイテムボックス通信を使い、船の中からだがお隣から事務官を呼んでいる。
なので、宰相たちの出迎えには間に合い、地元に残る者たちと一緒に出迎え、一緒に俺の屋敷で一泊している。
俺としては、この後の面倒はよろしくというつもりだったが、先ほどから何やら風向きが怪しくなっていた。
俺が現地から呼んだ事務官をはじめ宰相たちは、どうしても俺のことを巻き込みたいようだ。
俺も貴族の慣習に従ったぞ。
だから、あなた方も貴族の慣習に従い、お隣の政に俺を関与させるな。
俺は何度も言葉こそ丁寧にそれを発しており、お姉さん方はもう遠慮なく取り巻きたちにはいっているが、宰相だけは俺のことをまだ開放したくは無さそうだ。
幸いなのが、王都から宰相と一緒に付いてきた無能な取り巻きたちが、もう俺の協力などいらないだろうと宰相に話していることだ。
尤も、それを聞いた先行して現地入りした事務官は血相を変えて否定しながら、その者たちの無礼な態度を俺に詫びてきている。
俺の機嫌を少しでも損なわないようにと必死さがあまりに悲壮感であふれているのだ。
可哀想なくらい、惨めに見えるがそれでも俺は同情などしないぞ。
ここで仏心を出そうものなら、そのまま地獄行きが見えている。
なんで仏様の近くに地獄があるのかと、俺は問いたいが、ここでは絶対に仏心は厳禁だ。
ここは、成り上がりだろうが貴族然として振る舞うつもりだ。
翌日に、屋敷前で宰相一行のお見送りをしようとしたところ、宰相が『なんで?』って顔をしている。
ここまで来たら、隣の領地まで案内するでしょって感じなのでしょうか。
そんなっハズないででしょ、貴族は自領以外は知らんというのがデフォだと教えられているし、今まで面倒見ていたのが異常なのだとお姉さん方を始め周りから散々怒られているのだ。
そのあたりも昨日の粗末な夕食の席で説明したのだが、どこまで聞いていたのか。
まあ、とりあえず少しごちゃごちゃとあったが、無事に宰相たちは問題の領地に向け出発していく。
途中の関まではうちからの護衛は出したが、これすら破格の対応だとか。
こういうことをする貴族はなくないらしく、ゴマをすりたい貴族などは結構あるらしいが俺は真逆だ。
これ以上宰相たちに絡まれたくはないのだが、前に事務官たちを送り届けたときの護衛についた騎士たちの能力というか、武力、とにかく自国の貴族や、盗賊程度にはまあ使えるかもしれないが、少なくともうちの領内にいる魔獣たちに対しては明らかに力不足を感じたので、やむを得ずといった感じだ。
特にあのクマのような魔獣、あれに対してはアイツラは何ら役に立たない。
下手をすると俺達が保護してきた借金奴隷たちよりも役立たずかもしれない。
まあ、考えなくともあんな目立つ派手な鎧を着ていたら、魔獣たちに目をつけられるし、何より、動作が間に合いそうにない。
鎧を脱ぐだけでもだいぶ違うのだろうが、多分それはできないんどあろう。
そういう意味でも、少なくともうちの領内で襲われるのだけは避けようとした措置だ。
最も、最近は街道筋では、クマどころか他の魔獣も見なくなるくらいまでは街道そばの魔獣は狩っているので、余計な心配だったかもしれない。
あの関を超えたら……後は知らん。
少なくとも、うちよりは強い魔獣は出ないらしいので、大丈夫だろう。
うちの領地から王都に向けては、出没する魔獣について脅威度が弱くなるらしい。
なんでもうちがそういう強力な魔獣たちが生息する境界を守る最前線らしい。
何せ王都と反対側には人の侵入を阻むという『致死の森』なんて言われる物騒な地域があり、シーボーギウムはそこから国を守る最前線の領地……らしい。
他の貴族を含め、国としても、現状から更に森の方に領地を広げて行きたくとも、その魔獣たちが行く手をはらみ、それができていない。
うちの領地の南側にもほかの領主が収める領地があり、その領地も暗黒の森と呼ばれる地域には離れその先には進めない……らしい。
俺は知らんが。
それでも、出没する魔獣の脅威度からしたら格段に下がるらしく、それこそ上級の冒険者が頻繁に出入りしているとか。
うちの場合は、最上級と呼ばれる冒険者でも、うちの領内で活動中だ。
あの『致死の森』には絶対に入らないらしい。
それはうちだけでなく他の国でも同様でというか、少なくともこの国に伝わる話では、その先には国はないらしい。
そのうち、その先についても探索してみたいが、さすがに『致死の森』はちょっとね。
『暗黒の森』ならば覗いて見たいとは思うが、まず領内の安定経営が最優先だ。
その最優先事項を外圧で簡単に踏みにじられているのが今の俺が置かれている状況なのだ。
どうにか説得が成功したことで宰相が現地に入りして現状を把握するので、これからは余計な手間は減るだろう。
街道を閉じていた関も開かれるだろうが……あの関誰もいなかったけど、俺がここに来たときには閉じていたんだよな。
宰相たち一行がここを離れると、やっと俺にも日常が戻る。
色々とやりかけの仕事を、特に子どもたちに任せているチョークと黒板の製造だが、こちらについてはモリブデンでの反響が大きくなってきているので真剣に考えないとまずい。
俺が、子どもたちを探しているとサリーさんが、俺に教えてくれた。
「子どもたち全員を隣に屋敷を確保しましたので、そちらに移しております」
製造工場の方は、俺が準備までしたけど、住まいの方までは考えが追いつかなかった。
だって、あの子達は毎日しっかりと帰っていくから家があるとばかり思っていたけど、ほとんどストリートチルドレンに近い生活をしていたらしい。
孤児や身寄りのない老人たちについては最初に保護したけど、どうしてもストリートチルドレンのような子どもたちはなくならない。
片親でもいれば、スラムに一応の住居などがあり、そちらに帰っていくようだったが、それって、決していい状態ではない。
お姉さん方は俺が始めた事業だからといって、特に目をかけてくれていて、それぞれの住居について調べ、家族寮のような感じで住居を用意して、大人たちについても仕事の斡旋を始めていた。
お姉さん方には感謝しかないが、本当に、この領地はどうになしないとまずいな。
工場に行くと、朝早くから子どもたちはチョーク作りを始めていて、順調に生産量を増やしている。
しかし、これってブラック職場になっていないよね。
そちらも心配で、そのあたりまで調べようかとしていたら、邪魔が入る。
お隣から事務官の一人が宰相からの親書を携えてやってきた。




