宰相の到着
まあ、俺も仕事が嫌いではないので、いや、貴族そのものがなりたくてなったわけでもなく、領地経営も完全に罰ゲーム状態なので、できればさっさとやめて逃げ出したいが、今となっては奴隷も数が多くなったこともあり、税金面だけでも、貴族でないと、少々不味くなるので我慢している。
だが、我慢しているのだ。
そう、俺の拝領した領地の経営ならば我慢はできるが、お隣の経営などできるか~!
そもそも、貴族が他の貴族領の経営に口など出せないと聞いている。
これは 寄り親ですらしないらしいが、そんなのお構いなくアイツラ俺にすがってきて面倒以外にない。
それもこれも、宰相が現地入りしたら、状況は変わるだろうし、宰相だって貴族なのだから、今までの慣習くらいは守るだろう。
翌日になり、先触れの言った通り、大名行列にしてはかなり地味だが、それでもそれなりの行列でモリブデンに宰相が入って来た。
さすが一国の宰相をお出迎えするのに、そのまま素通りさせる訳にもいかないようで、モリブデンの町の境にある門のところまで辺境伯旗下の男爵が数名宰相を出迎えていた。
そのお出迎えに、俺までも駆り出されているのだ。
納得がいかない。
俺は、モリブデン辺境伯旗下の貴族じゃない。
確かにモリブデンの町には世話になったし、その思いもあるから恩返しも不本意ではないが、それはあくまでフィットチーネさんを始め、俺を支えてくれたこの街の商人たちに対してだ。
だから、多少無理してまで治療院まで作り、街の健康にも貢献していこうとしたのだ。
尤も今となっては、その治療院も任せきりで、果たしてこの街の健康に貢献できているかは分からない……あ、治療院にも奴隷がいたけどあっちには福利厚生面で何もしてなかった。
後で寄ってみるか。
太陽が黄色くなる前に行かないと、本当に俺は治療院で……体の不調を治す所で死にそうになるのはいかがなものかと。
とりあえず、門前の出迎えに駆り出されたわけだが、その後については俺は解放されている。
で、俺はその足で港の治療院に向かう
治療院は、俺が考えていた以上に客??いや、患者がいたので、俺も手伝いさっさと集まる患者の面倒を見ている。
保険制度なく、また、治療費もあの手塚先生の作品にあるかの有名な『ブラックジャック』もはだしで逃げ出すとまでは言わないけど、かなりぼっている筈なのに、それでもこれほど集まるのは、ここが世界に開かれた港街ならではのようだ。
それこそモリブデンと航路で繋がる各地から、患者が集まるらしい。
ガーネットに時間ができたので、彼女の個室で軽く運動をしながら報告を聞く。
報告によると、先のように毎日のように患者が集まるので、人手不足を補うためにマリーさん達にお願いして、ガーネットさんの部下として二人の女性を買ってもらったとか。
女奴隷か。
だが、俺が買った訳でないので福利厚生面で考えなくともいいよね。
そう思っていたのだが、マーガレットさんと一緒に仲間となったサリーさん(お姉さん方とは別人)と、先に話の出た女奴隷二人を連れてやってきたので、そこから狭い部屋で運動会を始める。
夕食もここでご馳走になりながら、彼女たちは俺からタンパク質とその他もろもろの詰まった飲み物をたくさん搾り取り、俺は解放された。
解放された時にガーネットさんから「ご主人様、健康には十分にお気をつけてください」と言われた。
俺が言い返しそうになると、続けてマーガレットさんも「今日はお早くお休みくださいね、何やらお疲れのご様子ですので」だって。
あいつら知っていて、皮肉を言っているのだ。
ほとんど、いや、まったくといって良いくらいに面倒見てなかったからな。
正直忘れていたくらいだ。
領地を拝領した時に、住民の健康回復のために呼んだことはあったが、それ以降全くよりついていなかったし、忘れていたくらいだったからな。
そういえば、シーボーギウムに病院を作る計画もあったが、あれも計画だけで、何もしていなかった。
帰ったら、そっちをどうにかするか。
シーボーギウムとこことでローテーションを組めば、もう忘れることも無さそうだし、彼女たちから搾り取られることも少なくなるだろうしな。
疲れた体を引きずるように、俺は拠点を置く店に帰っていった。
店に帰っても、そのまま休める筈はなく、……本当に毎日が命がけだ。
翌日になり、俺は辺境伯から呼び出しを受け、モリブデン辺境伯邸に向かう。
そこで、宰相たち一行の世話を任され、そのまま港まで大名行列に加わり、あらかじめ用意していた船二艘に分乗してシーボーギウムに出向していった。
これから3日間は暇になるはずだったが、俺は宰相から色々と聞かれており、ほとんど自由になる時間が取れない。
今回もお姉さん方三人が俺のサポートそしてそばにいてくれているので、宰相に変な言質は取られることは無かったが、お姉さん方は船の中の3日間期待していたようで、機嫌の悪いこと悪いこと。
宰相たちに対する当たりがきつくて、そばで見ている俺の方がはらはらするくらいだ。
特に宰相本人には普通に対応しているが、彼の取り巻きたちには、とにかく酷い。
言葉こそ丁寧……あれが丁寧なのかは個々人の判断の分かれるところだろうが、一応敬語で対応しているが、言葉の端端に「お前らが無能だから、私たちの時間が取れないのだぞ、この糞野郎!」って感じに俺には心の声が聞こえてくる。
まあ、それでも無事に……といって良いものかは分からないが、3日目に小さな船団はシーボーギウムに到着した。
陸者の定めか、宰相たち一行は船酔いが最後まで治まらずに、それでも俺への尋問がやむことなく続けられたので、お姉さん方の機嫌も最後まで治ることなく到着となった。
「では、ここでお別れに……」とはならずに、一行を屋敷にご招待する羽目になる。
船の中でも現状を報告していたので、遠慮してさっさとお隣に言ってくれてもよさそうなのに、俺に接待でもしろと……違った。
貴族の慣習でもあることだし、領地訪問時のお屋敷訪問をしているほかに、船酔いが収まるまで悪いが休ませてって感じだった。
なので、歓迎のパーティーなど開く必要もなく、とにかく部屋をあてがえ、休ませている。




