面倒以外にないお付き合い
モリブデン領主直接の出迎えで俺たちは中に入り、王都から来たという先触れの騎士と面会している。
「宰相様は明日、ここモリブデンに到着なさいます。
今回はめぐる箇所が多いと聞いております。
それに、宰相様からの伝言で、つき次第すぐにここを発ちたいとありましたので、御準備をお願いしたいとありました。
また、モリブデンの領主様においては、十分な時間が割けなかったことを詫びております」
「ああ、わしのことはどうでもよい。
しかし、直接出向くとなると、向うは……」
「聞いておりませんか。
私も詳しくは聞いておりませんが、私の友人が向こうに行っておりますが、相当苦労していると少し前にもらった手紙にはありましたが、そのあたりシーボーギウム卿は何か知りませんか」
俺は、二人から聞かれたので、ありのままをお伝えすると、二人とも固まっていた。
俺の横でサリーさんが教えてくれた。
「レイ様、その言いようですと、すでに破綻したと言っているのと同じですよ」
「でも、これでもかなり抑えめに貴族的になるよう話したつもりなのだが」
「レイ様の言う貴族的というのがよくわかりませんが、確かに私も聞いておりますから知ってはおりますが、確かにそうですね……いっそのこと正直にお話しした方がよろしいのでは」
俺たちの会話を聞いていたモリブデンの領主は驚いて聞いてきた。
「シーボーギウム卿、今の話……」
「ええ、正直にいますとはっきり言って酷いですね。
まあ、私がお国入りした時のシーボーギウムよりはましなくらいでしょうか。
少なくとも領民は逃げ出さずに領都におりましたし、あの段階では領民が飢えている者も、少なくとも館周辺にはおりませんでいたから」
「館周辺? それは……」
今度は先触れでやってきている騎士が聞いてきたので、俺は正直に答える。
「どこの町にもあるスラムはまだ見ておりませんので」
「ちょっと待てくれ、シーボーギウム卿。
貴殿の話だと、貴殿のお国入りした時の……」
「ええ、あれは酷いものでしたよ。
領主館にいた人でも、数日何も食べていないものがいたくらいでしたので」
そこから俺は、あの時のことを包み隠さず丁寧に説明していく。
交代で領地入りしていたサリーさんも途中で自分の見た様子などを話してくれたので、俺の話が大げさでないことは二人には伝わったが、その後二人からしきりに感心されていた。
「よくぞ、よくぞ、領地を復興させたものだな」
「ええ、私はうわさでしか聞きませんが、シーボーギウムの活況は聞いておりますので」
俺が国入りした当時のことを説明しても、モリブデンの領主を始め宰相のお仲間として先触れに来た騎士も信じてもらえなかった。
それどころか、モリブデンの領主は、港町の領主だけあり船主や、それに近い人達からの情報を持っていて、最近のシーボーギウムの状況をかなり正確に把握していただけに、俺の話を全く受け入れてもらえない。
それでも、嘘は言えないので、俺がそこまでの復興経緯を説明すると同時に、港の有る領都以外の村をすべて制裁したことを話す。
「え? 領都以外は、どこにも人は住んでいないと」
「ええ、領主様。
村を閉鎖するときには、相当反対はされましたが……」
「シーボーギウム卿。 なぜ、反対されてまで村を潰されたのですか」
俺は、当時を思い出して説明していく
「一つには食料の問題ですね」
「ちょっと待ってください。
食糧生産を担う村を潰されたのですよね」
確かに、どの貴族領に言えることだが、領都以外の村の役割は食糧生産が挙げられる。
鉱山など特産品生産も有るには有るが、殆どの場合、周りの村で生産された食料を人口の多い領都で消費するのが普通だ。
俺の拝領したシーボーギウムのかつてはその役割を担っていたようだが、先の流行り病の影響と、何より為政者の暴走により、どの村も餓死を待つばかりになっていた。
他から食料を持ち込むしか手はないので、無駄を省くというよりも現実的な手段として、領民を餓死から守るための領都に集めたのだ。
そのあたりを説明すると当然のように次に質問が来る。
「そんなに酷いのなら、反対するものなど……」
「ええ、庶民は喜んで領都に移住してきましたが、村での特権階級の殆どが反対して移住を拒みましたね」
「その後はどうなりました?」
「反対した特権階級、この場合村長と、その取り巻きですが、最終的にはお隣の領に逃げていったようですよ。
逃げた先で、同じように逃げていた商人と結託して色々と悪さを仕掛けて来たようですがね~」
そうなのだ、隣の領主と俺等との険悪な関係を利用して、俺を落とし込もうとしてきたようだが、結局のところ現状に落ち着くというか、領主といっしょに自滅したようで、領主は国によってお取り潰しになったが、他の連中はどうなったかな知らない。
だが、先にあちらの現状を見た俺から言わせると、連中があそこで今でも生きていけるとは思えないので、外に逃げたか、本当に自滅して奴隷に落ちていったかはしらないが。
一生懸命にこと細かく説明したのだが、最後まで俺の話しを信じてもらえなかったようだ。
貴族同士の付き合いというのが有るらしく仕方なくお邪魔していたが、役割を終えた俺は領主の館から解放されて、店に戻っていった。
先触れの騎士は、明日まで宰相を領主の館で待つことになるらしい。
俺も誘われたが、帰国の準備が有ると言って勘弁してもらい、帰ることが許された。
他に領地を持つ貴族が他の貴族領内に屋敷を持つことは珍しくは有るが、ないわけではないが、店まで持つのは無いそうだ。
俺の場合、ここでの商売がそもそもの始まりなので、そのまま商いをしているが、貴族的には褒められたことではないらしい。
それでも、俺の成り立ちをよく知るモリブデンの領主は、貴族になる以前のままの状態での活動を許してもらってる。
まあ、普通の貴族は商売そのものを自身ではせずに、血族に任せるか、かなり親しい関係の商人に商売をさせるが、俺には血族そのものがまだ居ない。
そのうちたくさんできそうだが、それはおいておくとして、親しい商人はフィットチーネさんを始め王都にもいるが、それでも俺の商売とはなにか違うし、任せることができないので、現状のようになっている。
俺の店は、モリブデンの港にそれなりに貢献もしているので、別にモリブデンの領主にとっても悪いことではないだろう。
それに何より、ほとんど俺はここには居ないしね。
貴族の俺が店先に立って商売しているわけでもないので、他の貴族とあまり変わりがないだろう。




