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死んだ街コレクション?


 やっと、やっとのことで俺たちは領都の城壁にたどり着いた。

 正直、ここまでの道中が「魔物バイキング」の食べ放題コースだったので、城壁を見上げた瞬間は本気で涙腺が危なかった。

 ああ、堅牢な石積みよ……。無機質な灰色の壁が、これほどまでに人間らしい温もりを感じさせるなんて誰が想像しただろうか。


 だが、安心も束の間。

 城門――大木戸は、ガッチリと閉ざされていた。

 まるで「今から数時間のあいだ、世界中の鍵穴を塞ぎます」みたいな、強烈な閉鎖感だ。

 これほど頑丈に閉じていると、逆に「ここって本当に街なのか? むしろ巨大な貯金箱じゃないのか?」と疑いたくなる。


 俺たちが目の前でわちゃわちゃと手を振ったり、「ごめんくださーい!」とジーナが声を張り上げたりしても、一向に開く気配はない。

 どうやら中の人は完全に居留守を決め込んでいるらしい。いや、最悪、本当に誰もいないのかもしれん。


「し、閉まってますね……」


 と、事務官の一人が小声でつぶやく。

 おいおい、見れば分かることをわざわざ実況するな。俺は疲れた実況中継なんて聞きたくないんだ。


 そんな中、この街出身だという冒険者が「あー、やっぱり正面は無理か」と苦笑しながら、裏口みたいな小道へ案内してくれた。

 どうやら住人だけが知る「抜け道」があるらしい。城壁って基本的にそういう抜け道がつきものなんだな……いや、それ城壁としてどうなんだ。


 とにかく俺たちは、その抜け道を使ってどうにか領都内へ潜入――いや、正規入城を果たした。


 そして、俺はすぐに違和感を覚えた。


 ……静かだ。

 おかしいくらいに静かだ。


 ここは領都だぞ?

 本来なら昼前の今頃、行商人が店を広げ、子供たちが道端で駆け回り、酔っ払いが朝から酒場の軒先で二日酔いの反省会をしていてもいいはずなのに。

 なのに、見渡す限り人影ゼロ。鳥ですら「こんな街、縁起でもねぇ」と言わんばかりに飛び去っていった。


「……あれ? これ、デジャブか?」


 俺は首をひねった。

 そうだ。

 初めて自分の領地に足を踏み入れたときも、似たような状況だったじゃないか。

 人通りゼロ、街全体が死んだように沈んでいた。

 まさか……この国って「死んだ街コレクション」を趣味で集めているのか?


 不思議に思いつつも、俺たちは中央にある領主館へ向かうことにした。

 途中で、俺はふと冒険者ギルドの前を通りかかる。

 ここには以前、冒険者として通りすがったことがあった。

 そのときは、それなりに活気があったはずなのに……。


 今は看板の塗装も剥げかけ、扉は軋んでいる。まるで廃屋寸前だ。

 俺は「領主館に行く前に、ちょっと情報収集だ」と提案し、俺といつものサーシャとダーナだけを引き連れて中へ。


 ギルド内は、予想以上に寂れていた。

 広いホールに、いるのはカウンターに座る職員一人と、暇そうにカードを切っている冒険者二人だけ。

 しかも、その冒険者たちも「暇だからここで時間を潰してます」オーラを全力で放っている。


「いらっしゃいませ……」


 職員の声が、心底やる気なさそうで、逆に同情を誘った。

 俺は事情を聞くことにした。


 話を聞くと、どうやらこの街の衰退は領主のせいらしい。

 ギルドに無理難題を押しつけ、理不尽な依頼を連発。

 しかも冒険者を半ば強制的に動員して、俺の街を襲撃させようとしたことまであるらしい。


「もちろんギルドとしては、貴族同士の戦争に介入するわけにはいかないんですけどね……」


 と職員は肩をすくめた。


「それでも領主は聞く耳を持たず、無理やり冒険者を引っ張っていったんですよ」


 結果、冒険者たちは次々と去り、依頼は消え、街から活気が失われていった。

 そのうえ、ある日を境に領主からの接触すら途絶え、ギルドは完全に放置されているという。


 なるほど……街が死んでいた理由は、領主がポンコツすぎたからか。

 俺は職員に、領主が既に没落していること、そして今後は宰相の派遣した事務官によって運営が立て直されることを伝えた。


 職員は一瞬きょとんとした顔をしたが、やがて安堵の笑みを浮かべた。

 ……まあ、そりゃそうだ。

 ポンコツ上司が消えて、新しい管理者が来るとなれば希望も持てるってもんだ。


 俺がギルドでそんな会話をしている間、例の事務官たちはどうしていたかというと――


 ええ、まだノロノロと領主館に向かって歩いていた。

 合流したとき、俺は心底あきれた。


「お前ら、どんだけ歩みが遅いんだよ」


 もうツッコミを通り越して、感嘆の域に達していた。


 そして、いよいよ領主館に到着。


 館の扉を押し開けると……そこにあったのは、驚きの光景だった。

 いや、正直、想像はしていたんだ。していたんだけどさ。


 ――もぬけの殻。


 本当に、誰一人いない。

 俺が領主館に初めて入ったときでさえ、忠実な執事が残っていて、最低限の体裁は保たれていた。

 だがここには、それすらいない。バトラー? そんな上等な人材、この館には存在したことがないんじゃないか?


「……」


 事務官たちは呆然と立ち尽くした。

 完全に心が折れている。

 いや、最初から豆腐メンタルだったが、今はもう豆腐どころかプリン並みにぷるぷる震えていた。


「で、どうするんだよ。この後」


 俺は思わずつぶやいた。


 ……やれやれだ。

 結局また俺がフォローしなきゃならないのか。

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― 新着の感想 ―
宰相に連絡して放置案件だわな
なんでここですぐ自分が手伝うと思うんだ?一回帰って少なくとも宰相が土下座するまではなんもしないでしょ?調子乗らせて毎回手伝わされるよ
主人公は即行で領地に戻り、宰相に連絡で後のことは寄親が後始末するのが筋なのでは。
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