派遣される、宰相付の事務官たち
宰相と会ってからが大変だった。
特に俺の周りへの説明という名の説得が……
特に、王都にいるマリーさんなんか激怒して皇太子や陛下に怒鳴り込むと息巻いていたくらいだったのを、それこそ王都のいる全員でなだめすかしてどうにか収まらせていた。
しかし、怒っていたのはマリーさんだけでなく、残りのお姉さん方がみな等しく激怒だとこういうときのアイテムボックス通信は厄介だ。
知らなくて良い情報までもが瞬時に送られてくる。
直筆のお手紙を頂いたが、これって明らかに激怒してますって、その文字からわかるくらいだったよ。
何も俺に言うこと無いじゃないかとは思ったが、俺も大人だ。
クレーマー相手に何度もバトルした経験がここでも生きる
一度、素直に相手の言い分を聞いて共感した後に、これからのことを考えようと一緒に対処方法を考えていき、理性だけでも納得させた。
気持ちの面では、俺も納得してないので、誰もが無理だが、所詮理不尽はお友達の世界から来たので、俺は自分を納得させてクレーム処理……違った、宰相から依頼のあった案内の件で準備を始める。
当然、これだけで済むはずがないので、俺はモリブデンに食料確保の連絡を入れておく。
それと同時に、シーボーギウムの港に集まりつつある商店主に対しても宰相の息のかかった事務官のお国入りの情報を流しておく。
それと同時に、お隣の状況なども噂で流させた。
ここまですれば、一端の商人ならば勝手に準備を始めるだろう。
俺がシーボーギウムについてからは一応、俺を助けてくれるあそこにもお願いだけはしておくが、今回は俺のところの直接の仕事でもないので、出入り商人の手を煩わせるよりも、商機を他の商店に開放することを選んだ。
これに乗らなければ、俺は知らん。
どうとでもしてくれ。
3日後に、俺の屋敷に宰相府から一団がついたと連絡が入り、俺は急ぎ屋敷に向かう。
どうしても王都の屋敷って敷居が高くて、店の方が居心地が良いものだから、どうしても店に居るほうが長くなるし、そのままお泊りしてしまう。
今回のように貴族としての仕事がある場合などでは連絡が入るので、色々と文句は言われるが、そのままの生活が続く。
まあ、ほとんど王都にはいないので、別に構わないか
急ぎ屋敷へ戻り、今回ばかりは勝手口の方からそっと中に入れてもらい、自室で着替えてから、客に会う。
結構、貴族社会では先触れなどがない場合には、待たせるのがデフォのようだと前に聞かされていたので、今回のように連絡が来てから準備しても失礼には当たらないらしい。
それに、客に会う前に相手の出自もバトラーさんから聞いたので、安心して会える。
今回は、宰相付の事務官を筆頭に警護の騎士団長が、騎士団を連れて来ているとか。
事務官配下の事務職員と一般の騎士たち、総勢でも20名にもならない小さな集団だが、別室で待機させているので、今は会う必要がないらしく、とにかく二人と会ってお話だ。
尤も今回は、『これから出発しましょ』ってことだろうから、世間話を少しして直ぐに出発になるが、それにしてもいきなり訪ねてくるっていかがなものだろうか。
本当に宰相は俺のことを使い潰す気だなと、認識を改めた。
もう絶対に王都に、特に王宮には近づかないぞ……と。
俺も入った記憶のないきれいな応接室で、二人の貴族と面会をしている。
「シーボーギウム卿。
此度はご協力に大変感謝いたします。
これが、宰相閣下からの親書となります」
「この場で読んでも……」
「ええ、私どもには時間がありませんので、此度も不躾ではありましたが、私どもの準備が整い次第お邪魔させていただきましたが、快くお会いしていただきありがたく思っております」
「では……」
俺は親書を軽く目を通す。
描かれている内容はというと、前に宰相よりお願いされていたことで、特に目新しいことは、『とにかく急いでくれ』の部分くらいだ。
要は、ただでさえ面倒な依頼なのに、それを急げとある。
別に俺がサボっていたわけでもないのに、本当にわがままな連中だ。
別に俺は、宰相と会ったその日にモリブデンに向け移動を始めても良かったのだし、正直さっさと王都から逃げ出したいとも考えていたくらいなのだから。
「わかりました。
私の方はいつでも動けますが、いかがしますか」
「え! すぐにでも……」
「ええ、私は普通の貴族とは違い、商人気質が抜けておりませんので、周りからよく怒られますが、とにかく機を見たらすぐに動くクセがついております。
此度もとっくに移動するつもりだったのですが、宰相からの依頼もありお待ちしていたくらいですから」
「おまたせしていたとは、大変失礼しました」
「私どもの方は、いつでも移動できる用意をして参った次第ですので、いつ動かれますか」
「ならすぐに移動しましょう。
今からですと、王都がきれいに見える丘で野営になりそうですが、構わなければの話ですが」
「ええ、それでは是非に」
俺はバトラーさんを呼んで、モリブデンに動くことを伝えて、すぐにダーナとサーシャを呼んでもらった。
二人が屋敷に到着後に、動くことに成ったが、ここで一悶着があった。
「え、男爵は馬車をお使いにならないのですか?」
「ええ、普段の移動ではそうなりますが、貴族同士の移動になるとまずいですかね」
「いえ、私は準男爵ですし、そこの騎士団の団長はその名が示す通り騎士爵ですから、男爵の方で問題がなければ構いませんが……私の馬車に乗りますか」
「いえ、それには及びませんが、別行動でモリブデンまでの移動をお許しください」
「別行動ですか……、それはなぜ?
理由をお聞きしても」
「ええ、モリブデンにひと足早く付いて、船の準備をしたいと考えておりますので」
「一足早く……一体、どれくらいの時間でモリブデンまで……」
「そうですね、3日くらいでしょうか」
「「3日!」」
二人の貴族は驚きを隠せなかったようだ。
「素早く移動できるのが私達の強みなのですよ。
その強みを活かすことで貴族になり上がれたようなものですからね」
一応それらしく言っているが、ふたりとも宰相から俺の経歴などを聞かされているので、どこまで信じてくれたかは不明だ。
まあ、それでも事務官たちを連れての移動なので、どうしてもモリブデンまでは馬車移動になる。
しかし、シーボーギウムから隣の領都までの移動では馬車は使えそうにないので、そのあたり考えないとまずそうだ。
船で揺られる3日間があるので、そのあたりについての相談だけはしておくか。




